魔王と勇者
続編です。
俺が初めて勇者を見たのは、まだ8歳の頃だった。
「魔王陛下っ!これを見てください!今期の勇者はなんと女です!」
「女...?」
側近のルイノルドが、鼻息荒く俺に迫ってきた。その手には、魔界アイテム「なんでもみえーる」がある。
一見水晶玉にも見える「なんでもみえーる」に、1人の小さな女の子が映されていた。
「これが勇者なのか....?」
「そうですよ陛下っ!見るからに非力な娘です!陛下の元まで来れるかどうかも怪しいものですな!」
「...ふむ」
女の子は小さいながらも家の手伝いをしており、衣服は薄汚れていた。どこかの田舎なのか、周囲の風景から長閑な雰囲気を感じ取る。
「ただの田舎むすめじゃないか」
「しかし陛下!侮りすぎてはいけませんぞ!腐っても勇者。運命の日には、少しは骨のある者になっているはずです!」
「そういうものなのか?」
「そういうものです。しかし、どうせ魔王陛下には負ける運命でしょうがね!」
ルイノルドは機嫌よく自慢の金色の尻尾を左右にふる。
運命の日か.....。
それは、昔々の大昔に、勇者と魔王の間で取り決められた約束の日。
お互いに16を超すまで、相手を殺してはいけない。
そのため、今期は魔王が勇者よりも2つ年が上であるので、勇者が16になるまで魔王側は勇者の存在を把握できたとしても、手を出すことはできないのだ。
いったいどうしてこのような約束が取り決められたのか、その理由は文献にも載っていない。
しかし、この約束を違えようとすれば、たちまち己の心の臓は停止し、死ぬことが不幸にも証明されているため、破ることはできない。
勇者と戦いを始める日まで、あと10年。
それまで、あの女はどのように生きていくのだろうか。
なんとなく、本当に気まぐれのような気持ちで、魔王は勇者の生活を「なんでもみえーる」で覗くようになる。
「また転んだぞ?ルイノルド!この女は本当に勇者の素質があるのか?」
「陛下、勇者とは身体面も大切ですが、その心が最も重要視されています。ですので、この娘の素質は私には計りかねます」
「人間とは不思議な考えをもつものだ。魔界では力がすべてであるのに」
「陛下、人間のことなど理解しようとしても無駄ですよ。あいつらと我らは決して相容れぬ存在です」
「....そうだな」
映し出された女の子は立ち上がると、ぐっと泣きそうなのを耐え、バケツを持って再び歩きだした。
「前に転んだときは、大泣きしていたのに....」
「陛下?どうされました?」
「いや、なんでもない」
くすりと魔王は笑みをこぼす。
この女の成長を見るのはなんとも面白い。
早く16になれ。そして、俺に会いに来い。
その日まで、お前の成長を見続けよう。
魔王の名は、ディアロ・バルモンド。
闇を映す髪と目をもち、後に歴代最強と讃えられる強さを秘める。
そんな魔王が勇者に倒される日がいつ来るのかは、まだ誰にもわからない。
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