勇者と魔王
「無様な姿だな勇者」
「くっ!魔王め!毎度毎度狙ったように現れやがって....っ!」
崖が崩れたことにより、足を踏み外して谷底に落ちてしまった勇者の目の前に、高らかに笑いながら魔王が現れた。
勇者は風の魔法を使うことで無事に生きてはいたものの、全くの無傷とはいかず、足を腫れあがらせている。
「ここで殺してもいいが、そんなことをしても俺は面白くない。そこで、お前にチャンスをやろうではないか」
魔王は勇者に液体の入った瓶を投げつける。勇者は受け取ると、怪しげに緑の液体を見つめる。
「なんだ?毒か?」
「それはどんな傷でも癒す魔界の万能薬だ。哀れな勇者にそいつを施してやる!」
「ふんっ。こんな怪しげな薬だれが飲むものかっ!」
「ほぅ...お前の仲間の僧侶たちはまだ来ないぞ?それにこの辺は、凶暴な魔獣が出る上、もうすぐ豪雨になるとしても同じ事が言えるのか?」
魔王がにやりと笑い、勇者をみる。勇者は魔王に瓶を投げ返す格好のまましばらく何かを考えるように止まり、やがて悔しそうに腕を元に戻す。
「勇者よ、それが賢い選択だ。さっさと飲むがよい!」
「ちっ!何もせずとも死ぬのなら、たとえ魔王であろうと希望にしがみついてやる!」
焦ったような魔王の様子に気づかず、勇者は勢いよく瓶の液体を飲み干す。すると、勇者の体が光り輝き、みるみるうちに傷が治っていった。
「....ほんとに治った!?」
「....」
魔王は目を細めてどこか安堵した表情で勇者の傷が治るのを確認すると、右手の手のひらをくるりと反転させる。
「勇者っ!!無事ですか!?」
「勇者っ生きてる!?」
勇者の背後で突然次元が歪んだかと思えば、仲間の僧侶と聖女が現れ、勇者に駆け寄ってきた。二人は勇者が無事なことに安堵すると同時に、魔王がいることに驚いた顔をする。
「魔王っ!?」
「まさかまたっ!?」
「ふっ。間抜けな勇者の顔でも見てやろうと思っただけだ!」
「誰が間抜けだっ!すぐにチャンスを与えたことを後悔させてやるからな!」
勇者は立ち上がり、キッと魔王を睨み付ける。僧侶と聖女は、そんな勇者と不敵に笑う魔王を見比べ眉をしかめた。
「笑わしてくれる。いつまでたっても弱いお前たちに朗報だ。お前たちが渡ろうとしていた橋を崩しておいてやった。俺の城まで来たければ、東の川沿いを歩いた先にある橋を渡るんだな。精々遠回りでもしてろ!」
「なんだと!?嘘でもついているんだろう!そんなの信じーーー」
「わかりました魔王。道を変更しましょう」
「そうね、川沿いを歩いていきましょ」
「なっ!?魔王のいうことをすんなりと信じるのか!?」
「優秀な仲間を持ったな勇者。では、また会おう!」
黒い霧に包まれて魔王は消える。
それを見つめながら勇者は、仲間の二人に再度問う。
「なぜ二人は毎度信じるんだ!あいつは魔王だぞ!?」
「そういわれましても、今まで魔王の言ったことに嘘はありませんでしたし」
「そうよ~。逆に信じなかった時の方が、痛い目にあったじゃない」
「そ、それはそうだけど...!」
((でも、魔王を信じる一番大きな理由は....))
悔しそうな勇者をちらりと見ながら、僧侶と聖女は目線を合わす。
勇者は知らない、ある理由から二人は魔王のいうことを信じているのだ。
「まぁいい。二人がそう言うのであればしょうがない!これから雨が降るらしいし、急いで出発しよう」
無意識に勇者も魔王の言うことを信じているのに気付かず、仲間と一緒に歩き出す。
勇者の名は、シルフィア・アークイン。
背中まである豊かなブロンドヘアーを無造作に一つに結んではいるが、透き通るような肌は真珠のようで、エメラルドグリーンの瞳は意志の強さを示し、鍛えられた身体はすらりと美しい。
そんな彼女の目標は、魔王を倒すこと。
果たしてその目標が達成されるのはいつになるのかは、まだ誰にもわからない。




