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ずっと、待っていた。
それでも、目ざめなければいいとも思っていた。
目ざめずに、ずっと冷たく、深い土のしたで眠っていられたら。
だが、少女はつぶやく。
「しかし、それこそがわれらが宿命。われらの母上が、そう仰っていたではないか」
少女の白い髪の毛が風にのったようにふわり、とゆらめく。
「そうだな。……そうだった」
「忘れてはならぬ」
鐘の音が聞こえる。
目ざめよという声が聞こえる。
「時がきた」
少女のちいさな声に、青年はまぶたを開けた。
重たい絹の白袴を持ち上げ、顔をあげる。
こごえるような長い時間。一体、どのくらい眠っていたのだろう。
水面から地上を見上げるような感覚。
それをずっとずっと見てきた。
つめたい時間のなかで、ずっと地上を見てきた。
「時がきたのだ。われらの力を必要とする人間がいる」
「………」
「どうしたというのだ。そんな浮かぬ顔をして」
「……俺たちは、いったいいつ、解放されるのだろうか」
少女とおなじ真っ白な髪の毛の青年は水浅葱の目を伏せる。
「……さあな。それは分からぬ。われらが存在し続けるかぎりだろう」
「そうか……」
国は星。時代は柳。
天皇がおり、華族と平民が暮らし、戦はなく、外の国と貿易をし、栄えつつあるこの星国。
人々は明るい未来を信じ、そして暮らしていた。
だが、光がある場所には影もある。その影に暮らすのは、人ならざるもの。人の世では妖とよばれるものたちだ。
彼らの存在はすでに、おとぎ話だけのものだった。
「さあ、手を伸ばせ。われらの力が必要とする人間のもとへ行こう」