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08

今日はよく晴れた日だった。


ロイがこの家に来て、三週間が経とうとしていた。ここに来てからというもの、ロイは毎日朝から庭の手入れと薬草摘みに明け暮れていた。


ここの家の住民達との仲は良好と言っていいものになってきた。最初は心配していたトーニョとの関係だが、ロイが不審な行動を見せる気配がないからか、今は良くも悪くもない関係が続いていた。


最初の三日はいつ殺されてもおかしくない様な雰囲気を醸し出していたトーニョだったが、今はそれもなりを潜め、たまに話しかけてくれるようにもなった。


自分はまだこんな所で殺される訳にはいかないのだから、極力ここでの生活は怪しまれないようにしなければならない。なので、この関係の変化は喜ばしいものだった。


何はともあれよかったよかったと思いつつ、ロイは再び薬草摘みを再開していた。この庭には薬草が沢山あるので、ストックも沢山まだまだ出来る事だろう。


何て言ったって、ロイの作る薬草は、今となっては、主にベルルトだが、トーニョ達にも好評で欠かせない物と化していた。昔、暇つぶしに読んでいた本がこんな所で役立つとは。


知識は持っていて損はないとはよく言ったものだ。ロイはせっせと薬草を摘み終えると、自室へと足を向けた。


自室に戻る途中に丁度部屋から出てきたロリンシスと出くわした。ロリンシスはロイに気付くと、ロイの元へ歩いてきた。


「ロイ。毎日勢が出るね。それは薬草でしょ?また薬を作るの?」


ロリンシスはロイが両手に持っている籠の中に入っている薬草を指さして言った。


「うん。そうなんです。この前ベルルトが結構使っていたからまたストックを作っておかないといけませんから」


「そっかあ、そんなに無理しなくていいんだよ?俺等もこうして休みを取ってるわけだし、ロイも適度に休息取ればいいんだから」


「全然大丈夫ですよ。それに適度に休息は取ってますから。外で寝転がってみたりして」


「へえ、寝転がったりしてるのか。気持ち良さそうだね。いいなあ」


ロリンシスは本当に羨ましそうに目を細めた。


「気持ちいいですよ。お暇な時寝転がってみたらどうですか?」


ロイがそう言うとロリンシスが驚いたような顔をしてそしてくしゃっと破顔した。


「うーん。そうだねロイも一緒に寝ころんでくれるならいいかな」


「え、俺もですか」


「うん、だめ?」ロリンシスはにやりとしながらロイを見た。


ロイは少し躊躇しながらも「いいですけど」と返事した。


それからロリンシスは街に用事があると言って出かけっていった。ロリンシスは最初から友好的だったが、最近はさらにそれに拍車がかかってきている気がする。


ロイは一つ息を吐くと、自室へと戻っていった。




一方リビングでは、キールとウィルが二人で紅茶を飲んでいた。


「先ほどロイさんが庭から戻って来られてましたねぇ・・・。手に薬草を持っていらしたから、またどこかの誰かさんが大量に使ったせいで無くなった傷薬を作って下さるのでしょうか」


「・・・・お前仮にも恋人なんだろ・・・・」ウィルは苦笑しながら紅茶を一口飲んだ。


ウィルの問いかけにキールは苦笑しただけで何も言わなかった。代わりにウィルをからかうように一瞥する。


「まあ、トーニョさんみたいに恋人を常に大切にして愛を囁いてくれる人が恋人なら胸を張れますがねえ、ウィルくん?」


キールの物言いにウィルが顔を真っ赤に火照らせた。


「お前・・・そんな事は・・・」もじもじしだすウィルを見てキールはお熱いことでと微笑んだ。


キールが用意したお菓子を咀嚼しながら、「ま、お互い苦労させられているのは変りありませんかね」と微笑んだ。


「まあな。確かに・・・・」


ウィルがそう言うや否やリビングのドアが開き、そこからロイがひょこりと姿を現した。


「あれ、お二人ともお茶会ですか。いいですねえ」


ロイが小瓶を二つ手に持って二人の元へ歩み寄って来た。キールはそんなロイに微笑みを浮かべた。


「こんにちはロイさん。その小瓶は新しくできた傷薬ですか?」


「はい。この前ベルルトさんがたくさん使ったと聞きましたからストックを」


そう言ってロイはカウンターに小瓶を二つコトンっと置いた。


そんなロイにキールは申し訳なさそうな顔をした。


「いつもすみません。あ、ロイさんもしよろしければこのままお茶しませんか?」


キールの提案にロイが驚いた顔をした。


「え、いいんですか?お邪魔じゃ・・・」


「私は構いませんよ。ウィルも話したがっていましたし」


その言葉に驚いたのはウィルだ。


「は、ちょ、お前っ・・・」


ウィルの講義をキールは紅茶を飲みながら軽く受け流している。そんな風景を驚いて見ていたロイはふと思いだす。そういえば、いつからだったかよくウィルに見られていた。ロイは特に気を止めてはいなかったがもしかしたら自分と話したかったのだろうか。


そうなのだとしたら嬉しいし、ロイもここの住人達とは友好的な関係を築いておきたい。


「・・・・俺は嬉しいですけどね。俺もウィルさんとは歳も近いし、仲良くなりたいです」


そう言ってロイはウィルの隣に腰を下ろした。隣に座ったロイをウィルが驚いた様に見た。


視線に気づいたロイがウィルの方を見るとウィルは少し声を詰まらせながら何かを呟いた。


「・・・・よ、呼び捨て手でいいし、敬語もいらない」


「・・・・え、あ、うんじゃあ・・・」


ウィルの言葉に驚きつつロイは返事をした。


そこで丁度紅茶を淹れに言っていたキールが戻って来た。それをお礼を言いながら受け取る。


「・・・さっきの話ですが、私も敬語で話さなくていいですよ。名前も呼び捨てでいいので。私は昔からの癖で敬語が抜けないだけですから」


「あ、そうだったんで・・・そうなんだ」キールが敬語なので思わず釣られてしまいそうになる。


ロイは先ほどキールが淹れてくれた紅茶を一口飲む。


「あ、美味しい。これは・・・アールグレイ・・・?」


ロイの問いかけにキールが嬉しそうに頷いた。


「はい。美味しい茶葉を久しぶりにベルルトくんが見つけてきてくれたんです。それにしてもロイさんは紅茶にもお詳しいのですか」


「ああ、少しね」ロイはそう言って笑い、もう一度紅茶を口に含んだ。


ロイが言葉を濁したのが少し気になったがそれ以上に気になる事があった。


「・・ロイさんは所作が綺麗ですね」キールが突然そんな事を言い出したのでロイは驚いたように目を見開いた。


「そ、そうかな・・・普通だと思うよ?」ロイは動揺を隠すために笑顔を作った。


「・・俺もそう思う。何というか動き一つ一つが丁寧だし」ウィルも同調したように畳み掛けた。


「変な事を聞く様ですがロイさんは育ちがよろしい方なんですか?」キールの探る様な目が痛い。まだ疑いは晴れていない様だ。


ロイは参ったと言わんばかりにため息を吐いた。ここは何とかしてごまかす必要がある。自分の所作なんて体に染み付いてしまって直し様がないのだから。


「あ、えーと・・・」ロイがそこまでいった所でリビングのドアが盛大に開かれた。驚いて全員が扉の方へ目を向けた。そこにはベルルトが立っていた。


ベルルトはロイを見つけると、来い来いと手招きした。ロイは急いでベルルトの元へ行く。助かった。心の中でロイはベルルトに感謝する。


「何でしょうかベルルトさん。傷薬なら丁度さっき完成しましたけど・・・」


「あ、違う違う。傷薬じゃないんだ。ただちょっとロイに付き合って欲しい事があってだな」


「・・・?何でしょうか」ベルルトは辺りを見回すと、自身が普段愛用していると言っていた剣を二本取って片方をロイに突き出す。


事の詳細が分からず呆然としていると、痺れを切らしたのかベルルトがロイの手に無理やり剣を握らせた。


「・・・あの、これは一体どういう事でしょうか・・・」


「うん、手合わせしよう」


「・・・・・・・・・・・はい?」


「うんだから手合わせ」


「え、何故俺なんですか。もっと他に居るでしょう・・・」ロイのみならずキール達も事の顛末に驚いている様子が見て取れる。


「そうなんだが、トーニョとロリンシスは街に出てしまっていてだな。居ないんだ。それで暇だったしロイと手合わせでもしようかな、と」


剣の心得はあるだろ、と当り前のように言われ、ロイはただ呆然とするしかなかった。確かに、剣術の心得はあるにはあるが。


「手合わせしよう。ロイ」ベルルトの有無を言わせぬ物言いにロイはただ頷く事しか出来なかった。





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