06
翌朝、ロイは検証するから起きろと早朝にベルルトに叩き起こされた。
頭の整理がつかぬまま連れて来られたのは昨日自分が侵入した家の裏だった。何故か全員勢ぞろいである。日が昇ってから知ったがここは裏だというのに日当たりがよく明るい。またすぐ傍に池まであった。昨日失敗してたら落ちてたなあとぼんやりとロイは考えていた。
すると急に頭に衝撃が走った。何事かと振り返るとベルルトが手を手刀の形にしてふんぞり返っていた。おそらく彼が手刀を食らわせたのだろう。
「何ぼーっとしてんだよ検証すっぞ」
「ああ、すみません」
検証とはなんだ・・・・。ロイは未だに事の詳細を分からないでいた。
「では、ロイさん申し訳ありませんがも一度昨夜やったようにベランダへ移っていただけますか」
キールは相変わらず物腰が柔らかだ。キールの説明でやっとこさ事を理解する事ができた。成程、侵入の仕方をやれって事らしい。ロイは内心もうやりたくないと思っているが仕方がない。
「分かりました。ではお手数なのですが皆さん少し離れていて下さい」
ロイがそう言うと五人全員が静かに五歩ほど離れた。そんなに離れなくても良かったのに・・・・
ロイは全員が離れたのを確認してそっと目を閉じ呼吸を整えた。そして目をそっと開く。そこからの行動が早い。
まず柵から五メートル程離れた所から助走をつけ、一気に柵へ飛び移る。ちなみに柵は一メートル四十位だ。
柵のくぼみを利用して柵の頂上に立つと、その助走の勢いのまましゃがんで飛び上がり、体を捻りながらベランダの手すりへ手を掛ける。
そうしたら後はよじ登るだけ。と
一連の動きをしてロイが振り返った。
「こんな感じです。泥棒みたいですね」と言いながらベランダから飛び落りた。
顔を上げると、ロイ以外の全員がぽかんとしていた。ロイは黙ったまま固まっている彼らを不思議に思い、何か間違いを起こしただろうかと戸惑うロイの肩をトーニョが掴んだ。それはもうきつく。
「え・・・あの・・トーニョさ・・?」
「どこで・・」
「え?」
「どこでそんな技覚えた!!!!」
トーニョの言葉を頭の中で整理したロイは返答に困った。どうもこうもないのだが。ロイがうーんと唸っていた時、ふと視界に何かが移った。そっと目を向けるとロイにしか分からないような絶妙な角度で誰かが立っているのが見えた。
よく見ればそれは見知った顔で、今にも飛びださんと構えている。今”彼”を飛びださせてはいけない。ロイは小さくため息をついた。その動作にすらトーニョはイラついているようだ。
ロイは間を少し開けて目を閉じた。その目を閉じている時間が周りの者にとってはとても長いものに思えた。そして静かに目を開けるとトーニョにしか聞こえないような声でそっと囁いた。
「とりあえず、その手を離してくれないかな。痛いんだ」敬語ではないロイの有無を言わせないような低くそしてささやかな口調そして静かに何かを宿した目。
トーニョはロイにただならぬ何かを感じて思わずロイから飛びのいた。
遠目見ていたウィル達は何が起きたかいまいち理解できていない。
キールは今のロイのあの表情の変化について探っていた。
そしてロイは頭を一つ振るとまたなよっとした笑顔で呟いた。
「俺元々こういうの得意なんですよね。昔教えてもらいまして。近所の子ですが」
ウィル達はロイの変化に戸惑った。
後になってトーニョがやはりあいつは何かあるというのでウィル達はますます戸惑うばかりだった。後でまた話そうと全員が話し合う。
だが、その中でロリンシスだけは全然気にとめた様子もなくああいう子なんじゃないと片づけていた。