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「・・・ロイ?」ベルルトが戸惑いを隠せないといった様子で声を発した。


「何かの間違いだろ?お前が王子だないんて」重ねてベルルトが質問するもロイは黙ったままだ。それにしびれを切らしたトーニョが「なあ!!!!」と叫ぶもロイは顔を伏せただけで何も言わない。キールは黙って様子を探っていた。


「・・・・っ」様子を探っていたためか神経が研ぎ澄まされていたのだろうキールの耳にかすかに誰かの声が聞こえた。それがすぐ隣にいるロリンシスのものだと気付くのにそう時間は掛からなかった。


キールがロリンシスの顔をそっと窺うとロリンシスは泣きそうな顔をしていた。ロリンシスのそんな顔にキールははっと目を見張った。その間にベルルトが負傷した足を引きずりながらロイの元へと一歩近ずいていた。


「おいッ!!!お前はあちらの人間なのか!!!俺等を殺すためにここに来たのか!!!」


ベルルトのその言葉にロイが弾かれた様に顔を上げた。その瞳は異を唱えるように儚げにゆれている。そしてロイは思いを断ち切らんばかりに目を閉じ、そして頭を振った。そして静かにすうっと目を開いた。その表情はあのベルルトとの手合わせの時などに見せたものと同じだった。何かを宿したような涼しげな瞳。先ほどのロイとは別人の様だ。僅かに色気を纏ったロイは二階のベランダから一階に降り立った。


そしてこちらを見る事なく歩を進め、ルミナリエの前に立った。ルミナリエはロイの目の前に跪く。


「ルミナリエ。今すぐ兵を全軍引きあげなさい。私を連れて・・・ね」


その言葉にルミナリエのみならずトーニョ達も目を見開いた。


「君たちの目的は私の暗殺だったはず。それが兄上の意向だという事も知っている。私を暗殺するためだけにこんなに軍を連れてくるのはおかしい。ここの住民に迷惑がかかるとは思わなかったのか」


そこで一旦言葉を切ったロイは自嘲気味な笑みを浮かべた。


「まあ、そういう私もここに潜伏を図った時点でやっている事は君たちと同じなんだけどね」


「ロイ・・・・・」トーニョの目が細められる。


黙って頭を垂れていたルミナリエが顔を上げた。


「ロノイール王子。貴方はご存じないと思われますが、貴方様の後ろに居る奴らは裏の世界での滞在人です。麻薬、殺人、人身売買、密輸なんでもやってのけます。その上逃げ足も速いためなかなか尻尾が掴めずにいました。それがやっとここまで来たのです。この機を逃すわけには参りません」


ルミナリエの言葉にトーニョ達は目を覆いたい気持ちになった。ああ、知られてしまった。ロイにだけは何故だか知られたくはなかったのだ。それが今一番最悪な形で知られてしまった。ロイは先ほどから黙って話を聞いている。こちらからはその表情はうかがえない。


「・・・・そうか」その声はとても落ち着いていて余計に胸が痛くなる。


そしてロイはトーニョ達にとって驚きの一言を発した。


「そんな事は知っている」


アルベルト以外の全員がその言葉に驚いた。


「では、王子はその事をご存じでこの者たちと暮らしていたというのですか」


ルミナリエは震える声でロイに尋ねた。


「そうだ」


その言葉に今度はトーニョ達が驚く番だった。一体いつから知っていたのだろう。最初からだろうか。トーニョ達の心を呼んだようにロイが「アルベルトからの報告書にかいてあったから」っと言った。


「ねえ、ルミナリエ。取引をしないか」


ロイがルミナリエに一歩近ずく。


「取引ですか?」


「そうだ。これはきっと君にとっても良い条件だと思うけど?」


そう言ってロイは微笑んだ。


「何で、ございましょう・・・・」


「うん、この人たちを無罪にしなさい」


「なっ」ロイの言葉にその場の全員が驚いた。


「何をおっしゃっているんですか!!!この者たちは本来捕まったら死刑確定の者たちです!!!それを・・・」


「いいの?ルミナリエ。最初に言っただろう。これは君にもいい条件だと」


ロイの言葉にルミナリエは疑問符を浮かべる。


「君が私に無礼を働いた事、また手柄を立てるために独断でこの屋敷に押し入った事全部君の上司に伝えても良いんだよ」


その言葉にルミナリエが青ざめる。


「ばらされたくなかったら私の出した条件を飲みなさい」有無を言わせないロイの言い分にルミナリエは押し黙るしかない。


「し、しかし・・・」ルミナリエは脂汗まで掻き出している。


「どうしても納得できないなら私の従者にするってことで話をうたないか?」


「なっ、ロイ!!!」ついにベルルトが思わずといった様子で声を出した。


「いいね?」ロイは念を押すようにしてルミナリエに言いたてた。


「しょ、承知いたしました」


「うん。ありがとう。じゃあ行こっか」


そこでロイは初めていつもの顔で笑った。


「私は王宮に戻って兄上と話をつける。馬はあるね?」


「は、はい。一騎残っております」


「うん、じゃあ、それ貸して。君は全軍を引き上げるように兵に指示して私より先に王宮に戻って兄上に伝えておいてくれ。いいね?」


「はい・・・」


ルミナリエが去って行ったのを見送って、ロイはアルベルトを呼んだ。


「馬をこちらに牽いてきてほしい。俺はまだやらなきゃいけない事がある」


「・・・・・・承知しました。ロノイール様、後悔はなされませぬよう」


意味深な言葉を残し、アルベルトは馬の元へと走って行った。


それを見送ってロイはようやくトーニョ達と向き合い、そして頭を下げた。


耳につけているカフスがチャリンと音を立てた。

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