13
トーニョは見るからに冷静さを失っている。対するロイはまだ意識がはっきりしていないからか抵抗をみせる気配がない。
一体何があったのだというのか。
しかし今はそんな事を言っている暇はない。一刻も早くトーニョを止めなければ彼はロイを殺す勢いだ。
ベルルトがトーニョの腕を掴んでロイからトーニョを引き離す。トーニョをベルルトとウィルが二人で抑え込んだ。
ロイの元へはキールとロリンシスが向かった。キースがせき込むロイの背中に手を回す。ロリンシスはロイの傍らに座り顔を覗きこむ。
「大丈夫ですか、ロイさん・・・」キールはロイの背を擦りながら言った。
ロイは一つ頷くと呼吸を整え始めた。苦しそうだが特に支障はないらしい。
良かった、と胸をそっと撫で下ろしたロリンシスはそっとトーニョを見やった。
トーニョは酷く動揺している様に見えた。
「・・・ねえ、一体何があったの・・・」ロリンシスがそう問いかけるとトーニョの代わりにウィルが答えた。
「・・・・・ロイが魘されていたもんだから何事かと思って近づいたんだそしたら何か言ってて。よく聞いてみたら僕は、殺したくないってずっと言っていたんだ。それでトーニョが・・・・」
ウィルが言った言葉に全員の目が見開かれた。ロイの隣に居たロリンシスはロイのてがピクリと動いたのに気が付いた。恐らくキールも気付いている。
キールはそんなロイを宥める様に優しく背中を擦ってやりながらロイに尋ねた。
「・・・・ロイさん。何か心当たりはありますか」
ロイはキールを一度チラリと見るとロリンシスへ視線を向けた。
ロリンシスは戸惑ったものの黙ってロイを見つめ返す。やがてロイは薄く微笑んでトーニョを見た。
「・・・・・よく覚えていません・・・」ロイはそう言って静かに黙った。
思い沈黙の中ベルルトが最初に口火を切った。
「・・・・まあ、夢うつつに言った事なんじゃねえの。夢で何かそんな場面でもあったんだろ。皆気にし過ぎだ」
ベルルトはワザとおちゃらけた様に振舞った。ベルルトの言葉にキールが頷く。
「そうですね。ロイさんが覚えてないと言っているものを疑っても仕方ありません。トーニョさんは気にし過ぎなんですよ」
キールがそう言うとトーニョは渋面を作って押し黙った。
「・・・そうだね。人には色々あるのが普通だしトーニョもよそ者だからってあまり気にし過ぎちゃだめだよ」ロリンシスも続く様に言った。
「さ、じゃあ、もう遅いですし皆さん寝ましょう」キールは場の空気を変える様に明るく言った。
「おう、じゃあな、俺等は行くわ」ベルルトがトーニョを引っ張りながらウィルと共に部屋を出て言った。それにキールも続く。
部屋にはロリンシスとロイの二人が残された。
「ロイ、大丈夫?」
ロリンシスがロイに問いかけた。ロイは黙って俯いていた。
「・・・・・ロリンシスは」ロイは静かに口を開いた。ロリンシスは黙って言葉の続きを待った。
「ロリンシスは、最初からそうだったね」ロイは顔を上げてロリンシスを見た。
「・・・何が」ロリンシスは思わずドキリと身を強張らせた。ロイの目が静かに揺れた。
「ここに来て皆が疑っても仕方のない状況の中に俺は居たのにロリンシスだけは俺を快く迎え入れた」
ロリンシスはロイの手が強く握りしめられている事に気付いた。
「・・・そ、れは・・」ロリンシスは掠れた声をこぼす。
「・・・・今でもトーニョさんは俺の事を強く警戒しているし。そんな中でロリンシスだけは俺に普通に接してくれる」
ロイはそっと目を閉じた。そして徐に顔を上げ、ロリンシスの事を見つめる。
ロイの目は静かだった。ロイはしばらくしてふっと笑った。
「あーあほんと・・・・変わらないね」声が小さくて最後まで聞き取れなかったがロイの表情があまりにも切なげだったのでロリンシスは二の句を告げれなくなった。
ロリンシスはロイの手を握りしめた。ロイが驚いて顔を上げる。
「・・・ロイはね、似てるんだよ」
ロイの目が大きく揺れた。
「似てる?」ロイが問い返すとロリンシスはそっと頷く。
「そう。似てるんだ。俺の大切な子に」
ロイの目が見開かれた。
「・・・そ、そうなんだ・・・」
「そう。だからどうしてもほっておけなくて」ロリンシスは目尻を下げて笑った。
ロイは何も言わずただロリンシスを見つめていた。




