12
その頃王宮では至る所で怒鳴り声が鳴り響いていた。少し殺気じみた空気が残る城内の廊下をアルベルトは一人何食わぬ顔で歩いていた。
そんなアルベルトの背中に怒鳴り声が投げかけられた。
「おい!!!アルベルト!!!」
アルベルトはため息を吐くと後ろを振り返った。
「何でしょうか。フェルナンデス坊ちゃん」フェルナンデスはこの国の第一王子で非常に傲慢な性格をしている。第一王子としては少し器が小さい所がある。
「・・・・なんでしょうか。そんなに息を上がらせて」アルベルトはフェルナンデスが言わんとしている事は予想できているがあえて尋ねた。
アルベルトの言葉にフェルナンデスはさらに怒ったような顔をする。
「貴様、どういう事だ!!!こんだけ時間をくれてやっているのにいつまで手古摺っているんだ!!!!早くあのねずみを連れて来い」
フェルナンデスの言うネズミと言うのはロノイールの事だ。今はロイと名乗り身を潜めている。
「・・・・さて・・・あのお方は逃げ足が早いですからね」
「いくらあいつが逃げ足が速いといっても国外には逃げれんのだからすぐ見つけられるだろう。さてはお前俺に隠しごとしてる訳ではあるまな」
「いえいえ、滅相もございません」
アルベルトはあくまで何も知らないと言った体で話す。フェルナンデスは舌打ちをすると、吐き捨てるように言った。
「まあ、そんな風に余裕ぶって居られるのも今のうちだ。その内俺が街に送り込んだ密偵がすぐにでも奴を見つけてくるだろう。そうすればあいつもおさらばだ」
フェルナンデスが首に手をやりにやりと笑った。そして踵を返すと足早に去っていく。
その姿を見送りながらアルベルトは肩の力をそっと抜いた。
「・・・まったく困ったお方です・・・」
「本当にね」
アルベルトはまさか自分の独り言を誰かに聞かれているとは思わず後ろを振り返った。そこに立っていたのはこの国の第二王子であるイースだった。
「・・・・イース様・・・」アルベルトの言葉にイースはその綺麗な顔をふわりと崩した。
「・・・自分の地位の安定のためにロノイールを殺そうなんて愚かなことを考える」
そうは思いませんか?とイースはアルベルトにレンズ越しの優しい瞳を向けた。このイースと言う男はとても理性的でよく出来た人間だが腹の底では何を考えているのかよく分からない所がある。
いつも笑顔でいるからそう思えるのかも知れないが。アルベルトはイースの言葉には答えず疑問を投げかけた。
「イース様はフェルナンデス様のお傍に付いなくていいんですか」
アルベルトの言葉にイースはうーんと一度唸ると意味ありげに微笑んだ。
「私はね、兄の専属の賢者ではないし、ましてや味方でもない。そういうあるべるとだってそうじゃないか」
イースの言葉に今度はアルベルトが目を丸くする。
「・・・・どういう事でしょう」
「君が忠誠を誓っているのは生涯で一人だけ。そんな君が兄上の言いなりになるとは思っていないのだけど」
イースはすっと目を細める。
「・・・・・アルベルト。本当はロノイールがどこに居るのか知っているんだろう?」
アルベルトはイースの問いかけに眉ひとつ動かさない。そっと笑顔をその顔に携えてイースを真っ直ぐ見つめる。
「・・・・さて?爺にはさっぱりにございます。そういうイース様も本当はご存じなのでは?フェルナンデス様はお怒りの様ですねえ」
アルベルトの言葉にイースは困った様に笑う。
「本当にお前は手強い奴だね。まあ、そうだねあえて言うなら」イースはそこで一度言葉を切るとアルベルトに笑いかけた。その笑顔は実に美しく相手を翻弄するだろう。
「・・・・私は弟の事が大好きだから。それに彼のこともね」そう言うとイースは楽しそうにしながら、先ほどフェルナンデスが向かった方へと消えて行った。
アルベルトは静かになった廊下で一人静かに微笑んでそっとイースが消えた方に向かって頭を下げた。
屋敷の方ではキールの部屋でキールとロリンシスそしてたまたまキールの部屋にいたベルルトが難しい顔で顔を突き合わせていた。
「・・・・ロリンシスさん、ロイさんの事で話とは一体何ですか」
最初に話を切りだしたのはキールでベルルトは黙って続きを促す。
「・・・・トーニョに話したらロイに何言うか知れたもんじゃないから黙っていてほしいんだけどね」
ロリンシスがそう言うとベルルトが眉をピクリと動かした。
「それは一体どういう事でしょうか」キールも戸惑った顔をしている。
「・・・・・背中の傷」ロリンシスがそう言うと二人は目を大きく見開いた。
「ロイにね背中の傷について聞いたんだけどロイはやっぱり何も答えてくれなかったよ。でもただ一つ答えてくれたのが・・・」
ロリンシスはそこまで言うとこぶしを握り締めた。
「・・・あれはやっぱり剣で斬られた後だって・・・」ロリンシスがそういうとキールとベルルトは緊迫した面持ちになる。
「剣で斬られたと言った後ロイは俺に言ったんだ。『これ以上は、何も聞かないで』って笑いながら言ったんだ。その時の顔があまりにも悲痛な表情に見えて俺は何も言えなかった」
ロリンシスがそこまで言うと二人は黙りこんだ。
「だから、ロイに背中の傷について触れるのは止めた方がいいと思うんだ・・・」
ロリンシスはそう締めくくると二人の表情をうかがう。二人の顔は何かを考え込んでいる様だった。
「・・・・ロイは過去に何かあったんだろう。もしかしたら俺等が巻き込まれたあの内戦にロイも巻き込まれたとかじゃないだろうな」
ベルルトの言葉にロリンシスがぴくりと反応した。それを見たベルルトはしまったと思ったが言ってしまったのだから仕方がない。
内戦とはかつて国中を巻き込んで起こった王宮内での内乱の事だ。事の詳細はあまり知らされていないが、王宮内での誰かの暗殺が目的だったと聞かされている。丁度国王と皇后が王宮に居ないというまさに狙ったかのようにその犯行はなされた。
結局失敗に終わり王宮の破損も最小限で済んだが、火の手やら何やらが周りに周り、膨大な被害をこうむった最悪の内戦だった。死者はどれだけ出たのか分からないが多かったはずだ。そんな地獄の様な内戦にロイが巻き込まれていたというのか
「・・・・ま、まさか・・・そんなことあるわけ・・・確かにあの内乱は七年前ですからロイさんも生まれているでしょうけど・・・・ロイさんは隣村から来たと言っていますし、隣村は被害が小さかったと聞きます・・・」
「・・・もし、嘘だったら?」ベルルトがそう呟くとキールとロリンシスがハッと顔を上げる。
「・・・・どうしてロイさんが私達に嘘つく必要が・・・・」キールはそこまで言うとハッとしたようにベルルトを見た。
「・・・・何か後ろめたい何かがあると?」
キールが問うとベルルトが頷く。
「だから・・・・」ベルルトがそこまで言うとロイの部屋からガタンッという音が聞こえた。慌てて駆けつけるとそこにはロイの胸倉を掴むトーニョとそれを必死に止めているウィルが居た。




