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封書を読み終えたロイはそれをライターで燃やした。そして徐にベランダに出ると大きく伸びをして脱力する。空を見上げると日が少し傾いていた。少しお腹も空いてくる。


そろそろ下に降りようかと考えていたロイの耳にドアをノックする音が聞こえた。


ロイが返事をするとキールが野菜のたくさん入ったスープと暖かそうなミルクを持って入って来た。


「・・・ロイさん目が覚めていらしたんですね。傷の具合はいかがですか?」


キールは食事をベット脇の棚に置くとロイの元へ歩み寄った。


「ああ、そんなに痛くないよ。食事ありがとう」


「傷の具合が酷くなくて良かった。さ、そんな所にいると風邪をひいてしまいますから中に入ってきて下さい」


ロイは一つ頷くとベランダの窓を閉めて室内に戻る。


「・・・食べれそうですか?」


「うん。丁度お腹が減っていた所だったから、ありがたいよ」


ロイはそう言ってスープを手に取った。


「・・・・ロイさん、手合わせ凄かったですね」


「えっ?」


キールがロイの隣に腰を下ろしたのを感じた。


「正直ロイさんはベルくんに歯が立たないと思っていたんです。だから驚きましたロイさんがあんなに強いとは思いませんでしたから」


キールはそう言って黙った。ロイの返答を待っているのだろうロイの事をじっと見ている。


「・・・うーん。昔ね兄に教わってたんだ。兄はとても剣の腕が立つ人だったから教えてもらっていたんだそれでかな」・・・・・嘘は言っていない。


「そ、なんですか・・・・。それで今お兄様はどうなされているんですか?」


「・・・分からないんだ。ごめんね」


「そんな・・・謝る必要なんてないじゃないですか。こちらこそ変な事聞いてしまって申し訳ありませんでした。あ、私もう降りますね。お大事になさって下さい」


そう言ってキールは部屋から出て行った。キールが出て行ってロイ一人になった部屋で、ロイは大きく息を吐いた。


「・・・・・危なかった・・・」自分の家族の事なんて話せる訳ない。上手い事切り抜けられただろうか。ロイはもう一回息を着くとご飯を食べる事に専念した。



ご飯を食べ終え、食器を返そうと部屋を出る。階段まで来た時丁度上に登ろうとしていたのか、ロリンシスが手すりに手を掛けて立っていた。ロイは思わずドキリとしてしまう。さっきのアルベルトとの話もあり緊張してしまう。


ロリンシスはそんなロイの様子などお構いなしに慌てた様子で階段を上がって来た。


「ロイ!!!まだ安静にしておいた方がいいよ。食器は俺が直しておくし・・・」


ロリンシスがロイの手から御盆を取ろうとする。ロイはそれを避けてロリンシスを見た。


「キールもそうだけどロリンシスさんも心配しすぎですよ。俺はそんなに酷い怪我はしてません。ベルルトさんは手首をやってしまってると思いますが」


ロイがそう言うとロリンシスが目を見開いた。


「・・・・何でベルルトが手首やらかしてるって分かったの」


「・・・・だって俺がベルルトさんの剣を叩き落とすために思い切り手首叩いたから。あ、これしまったと思いましたよ」


ロリンシスはさらに驚いたような顔をした。


「そっか。ロイは相当剣の腕があるみたいだね。でもそういうロイだって足首捻っているでしょう」


「えっ・・・」確かにロイは足首を捻っている。先ほどベランダに出ようと立ち上がったときに気付いた。まさかロリンシスが気づいているとは思っていなかった。


「・・・だから、安静にしておいて?今冷やすもの持ってくるから」ロリンシスはそう言ってロイの返事も聞かずに御盆をロイの腕から取り上げて持って降りてしまった。


ロイは仕方なく自室に戻り、ロリンシスが来るのを待つ事になった。しかし自分の思い人が今同じ屋根の下に居ると思うと変な感じがする。もう二度と合わないと思っていたのに。


過去に自分の傍にずっと居てくれたのに、ロイは彼の名前を呼んだ事がなかった。何度も呼ぼうとしてだけど呼べなかった。ロリンシスがこの家を出て行ったあとでもっと素直に呼べばよかったと散々後悔した事を思い出す。


ロイが物思いに耽っているとロリンシスがロイの部屋に入って来た。手には氷水が入った袋を持っている。


「ごめん。ノックしたんだけど返事がなかったから勝手に入ってしまって・・・」


「いや、気付かなかったのはこっちですし、気にしないで下さい」


ロリンシスはロイに微笑むとそれやめない?と言った。


「それってなんですか?」


「んー、敬語」


「キールとウィルにはやめたんでしょ、敬語で話すの。俺も呼び捨てでいいんだけどな。敬語嫌いだし」


ロリンシスはねっ?と首を傾けた。ロイは一拍置いて頷いた。


「・・・分かった」


ロイがそう言うとロリンシスは満足げに笑った。


「じゃあ、改めてこれ持って来たから足冷やそう」


ロリンシスは徐にしゃがむとロイの足を取って氷水の入った袋あてがった。ロイは思わず息を飲んだ。


「あ、あのロリンシス、自分で出来るから・・・」ロイは少し赤面しながらロリンシスに抗議する。ロリンシスはさして気にする様子もなく「いいのいいの」と言って取り合おうとしない。


ロイは結局ロリンシスに任せる事になってしまった。お互いの間にしばらくの間沈黙が訪れる。かなり気まずい状態になってしまいロイが何とも言えない顔をしているとロリンシスが口を開いた。


「ねえ、ロイこんな事聞いていいのか分からないけど・・・」


ロリンシスのトーンを落とした声にロイは嫌な予感を覚える。


「・・・な、に?」ロイは辛うじて言葉を紡ぐ事に成功した。


「手当の時にさ服を脱がしたんだけど、その時その・・・背中の傷を見てしまって・・あの傷は剣で切りつけられたものなの?」


ロリンシスがそう言うとロイの手がピクリと動いた。ロイはしばらく何も言わなかったが、しばらくしてロリンシスをまっすぐ見据えて言った。


「・・・・・・そうだよ」ロイの言葉にロリンシスは息を飲む。


「本当は薄々見られたかもしれないと思ってたんだ。服も変っていたから。でもねロリンシス」


ロイはそこで言葉を切るとふわりと笑う。その場違いな表情にロリンシスは戸惑いを隠せない。


「ロリンシスお願いだからこれ以上聞かないで」そういったロイの顔が泣いている様に見えてロリンシスはこれ以上言葉を紡げなくなる。


「・・・・ごめんね、ロイ。無神経だった」ロリンシスはそう言ってロイに頭を下げた。


「・・・・ううん。こちらこそごめん」ロリンシスには何故ロイが謝っているのか分からなかった。ロイの傷口を抉ってしまったのはこっちなのに。


頭を下げたままのロリンシスの頭に優しくロイの手が乗せられた。


「・・・顔上げて。何時まで頭下げてるの」そう言ってロイが笑ったのを感じた。


頭を撫でるロイの手の優しい動きに思わず泣きそうになってしまう。自分が思っているよりロイが抱えているものが思い事を知ってロリンシスは自分の軽薄さを恨んだ。


ロリンシスがいつまでも頭を上げない事に痺れを切らしたようにロイがロリンシスの頬を掴んで持ち上げた。


自動的に顔を上げる形になりロリンシスが目をぱちくりしているとロイがフッと笑った。


「・・・・変な顔だなあ・・・」ロリンシスはそんなロイの顔を見て何故か近視感を覚えた。ロイはたびたびあの子に被る。ロリンシスが今も大切に思っている彼に似ているのだ。


ロリンシスは思わずロイを抱きしめた。突然の事にロイは目を見開いた。


「え、何・・・どうしたの」ロイは戸惑いつつもロリンシスの背中に手を回した。


「・・・・ごめんロイ今だけこのままで」


ロリンシスの様子にロイは何かを感じ取ったのかそっと身をロリンシスに委ねた。


ロイは久しぶりにロリンシスに抱きしめられ緊張しつつ懐かしさを覚えていた。そっと息を吸い込む。ロリンシスの香りが鼻をくすぐって何ともくすぐったい。


自分の大好きな香りだった。


そのあとどのくらい抱き合っていただろうか。ずっとこのままでも良いと思えるほど落ち着いた時間だったと思う。


結局キールがロイの様子を見に来るまでずっと二人は抱き合っていた。


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