10
ロリンシスは手当を済ませたロイを自室に運び込むと、そっとベットに下ろした。
ロリンシスはぐっすりと眠るロイの顔を見つめる。そっとロイの髪に指を通す。さらさらしていてさわり心地がいい。ロイの髪を撫でながらロリンシスは自身の思い人の事を思い出していた。
ロイを見ているとなぜかあの子の事を思い出す。心なしか面持ちが似ているからだろうか。いけない事だと分かっていても重ねてしまう。
もう二度と会えないであろうあの子。無事生きていてくれたら丁度ロイと同じくらいの歳になっているはずだ。懐かしさに目を細めながらロリンシスは愛しい彼の名前を口にした。
「ロノイール坊ちゃん元気にしてるんだろうか・・・」ロリンシスはそこではっと我に返り、急いで口を塞ぐ。それから少し自嘲気味に笑うともう一度ロイの髪を一撫でして、部屋を出た。
リビングに戻るとすでにロリンシス以外の全員がテーブルに座って待っていた。
「・・・・ロイの様子は」トーニョが眉根を寄せてロリンシスに問いかけた。
「うん。よく眠っていたよ。しばらくは起きないと思う」ロリンシスがそう言うとキールは頷いて話を切りだした。
「今回は中々収穫が多かったですね・・・」
「ああ。まずあいつは剣術の腕がピカ一だという事。それにあの剣術は確か殺戮を目的としているはずだ。そんなおっかない剣術を何故ロイが使いこなしているかそれも気になる所だ」トーニョも続けて言った。
「実際戦っている時、あいつの目は本気だった。最初はそうでもなかったが次第に白熱してくるに連れて明確な殺意を含んだ目になっていった。まあ、お互いそのくらいで行かなきゃやられてたからな」ベルルトは思い出す様に上を見上げた。
「・・・・でもやはり一番気になるのは・・・」
「・・・背中の傷・・・」ウィルが独り言のように呟いた。
その声に全員の顔が緊迫した面持ちになる。
「あれは、明らかに誰かに切りつけられた跡だ。ロイは一度殺されかけている可能性が高い」
「恐らくロイさんは育ちがいいはず。そう考えると暗殺・・・?」キールの言葉に場の空気が凍りつく。
「暗殺だって?ロイは暗殺されるほどの重要人物か何かってことかよ」ベルルトがキールに問いかけた。
「・・・・あいつは一体何者なんだ」トーニョが奥歯を噛み締めた。
「・・・・ねえ。もうヘタに追及しない方がいいかもしれないよ」それまでずっと黙っていたロリンシスが口を開いた。全員の視線がロリンシスに集まる。
「・・・ロイがもし暗殺者に追われている身だったとしても結局はそれだけの話だ。ロイがココに居る事がばれなければいい。それにヘタに探ってどこかで情報が漏れたりしたらそれこそこちらが危険に晒されてしまうだろ」
「・・・・ですが・・・」
「ロイは何かを抱えているよ。それは間違いない。・・・俺等と同じだ」
ロリンシスの言葉に全員が目を見開いた。
「俺等と同じ何らかの闇を抱えているおならあいつは俺等の仲間でしょ?仲間は守らなきゃね」ロリンシスがそう言って笑った後室内を沈黙が覆った。
ロリンシスが出て行ったあと、ロイは静かに目を開けた。ロリンシスの気配が完全に消えたのを確認し、ロイは傷が痛むのも気にせず飛び起きた。ロイは今それほどまでに動揺していた。
「・・・・っは・・・何でっロリンシスが・・・・」息が上手く出来ない。そんなまさか。ロリンシスが『彼』なはずがない。ロイが飛び起きたまま布団を握り締めて固まっていると、窓の扉がコンコンと叩かれた。
驚いて顔を挙げるとそこにはアルベルトが静かに佇んでいた。ロイはゆっくりとベットから降りると窓を開けた。
「・・・・・アルベルト・・・・」
「・・・・申し訳ありません。すべて見させて頂いておりました」アルベルトはそう言うとロイに向かって深々と頭を下げた。
ロイはそんなアルベルトに一瞬だけ視線をやると再び自分の手元に視線を戻した。
「・・・・危うく、ベルルトを殺してしまう所だった」ロイはそう言うと布団をきつく握りしめた。その表情は苦しげだった。
「あの剣術は使いどころを間違えてはいけない。まるで心を蝕まれている様だった」
「・・・・・王子・・・」アルベルトが何かを言う前にロイが片手を挙げてそれを制した。
「・・・・その称号を今口にするな。誰かに聞かれる可能性がある。それに・・・」ロイは先ほどの事を思い出す様に目を閉じた。
「・・・・・ロリンシスですか?」アルベルトはそう言うと燕尾服の内ポケットから一枚の封書を取り出してロイに渡した。
「・・・本当はもっと早く言うべきだったのでしょうが、貴方様がお気づきになられていないようでしたから躊躇ってしまって」
ロイはアルベルトを見つめた。その表情は険しい。
「・・・・ロリンシスはまだ俺がロノイールだと言う事は気付いていない。だからこのまま時が来るまで今の生活を続ける。状況が不利になってしまったのは変らないが今のまま行けばバレる事もない」
そんなロイの様子を見ながら、アルベルトはそっと皺が深くなった目じりを細めた。
「・・・・良いのですか。ロリンシスに言わなくて」アルベルトの問いかけにロイは諦めたように微笑んだ。
「・・・・言わないよ。どんな形であれ再会して元気な姿を見れたからそれで十分だ」
アルベルトは一つ息を着くと話題を変えた。
「・・・・その封書にも書かれていますが、いよいよ本格的に動き出すようです。今も街中では貴方様を探す刺客で溢れ返っています。ここに身を隠しているのがバレるのもそう遠くないと思います」
「・・・・そう。もしここに危害が加わる様な事があったら、全力で護衛するように俺の軍を手配しておいてほしい。くれぐれも内密にな」
「・・・・承知いたしました。あとロノイール様ここの住民達の事で一つ報告があります」
「・・・・・?」ロイがアルベルトの方へ耳を傾ける。アルベルトの話を最後まで聞き終えると、ロイはため息をつく。
「・・・通りで警戒心が一等強い訳だ。そちらの方にも根回ししておいてくれ」
「はい」アルベルトは一つ頭を下げるとベランダからふわりと飛び降りた。ロイはそれを見送ると、再びベットに潜り込む。
そして頭まで布団を被るとアルベルトから貰った封書を開いた。




