09
ここから少し腐要素が入ります。
ロイはとてつもなく困っていた。あの後結局ベルルトと手合わせをする事が完璧に決定してしまい、ベルルトはすっかり乗り気になっている。キールとウィルが、空気を読まない上にこんな無茶をさせて何してるんですかとか、もう少しで重要な事が聞けたのにだと言ってベルルトを怒っていたがこの際は気にしていられない。
しかし本当にまずい。このまま手合わせして王宮剣術なんぞ使ってしまえば『あいつ』が黙っていないだろうし。しかしここまで来てしまっては仕方がないとロイは腹をくくった。
ロイは足取り重く、外に出た。するとそこには剣を持ってキールと話すロイとウィルのほかに何故かロリンシスとトーニョが居た。ロイが驚いたように二人を見ていると、視線に気づいたロリンシスがロイに向かって手を振った。
「ロイ!!話は聞いたよ。ベルルトと手合わせするんだって?頑張ってね」笑顔で声援を送るロリンシスに曖昧な笑顔で返す。
「あんなひょろっこいのに剣なんて出来るのか」トーニョが険しい目つきでこちらを見ている。
ロイはどうしようか迷っていた。ロイは王宮剣術の他にもう一つ会得している剣術があるのだが、それは殺傷能力が高いため、危険なのだ。しかしこの剣術を使わなければロイは自分の素性がバレてしまう危険性が高くなってしまう。
王宮剣術は特殊な構えをするため剣に精通する者ならば一目で分かってしまうだろう。ロイは一つため息をつくと覚悟を決める。
ここはベルルトの剣の腕を信じてやるしかない。
「・・・・・では、始めさせていただきます。お二方ともよろしいですか」キールが試合の開始を促した。どうやらキールが審判を務めてくれるらしい。ウィルはいつの間にかトーニョの元へ行っている。
「俺はいつでもいいぜ」ベルルトが真剣な面持ちで言った。
「・・・俺も大丈夫です」ロイはそう言うとすうっと目を閉じた。
キールは一つ息を飲むと、手を勢いよく振りおろす。
「・・・始めっ!!!!!」
昼間の心地よい日差しの中剣の交わう音が響いている。手合わせを始めてからもう半刻が経とうとしていた。未だにお互いの攻防が続いている。
「・・・・・すごいな・・・」ロリンシスが隣で呟いたのが聞こえた。
「・・・・・・ああ」トーニョはそれに返した。
ベルルトは強い。恐らく五人の中で一番強い。そのベルルトが苦戦している。普段は楽しそうに剣をふるうベルルトが今は真剣な面持ちで剣を交えている。対するロイは息を荒げ傷も負っているが何故かまだ余裕があるように見える。
あのキールの試合開始の号令がかかった瞬間一瞬場の空気が止まった様に感じた。ベルルトが剣を構えてロイに向かっていく。ロイは微動だにせず、ベルルトがもうすぐ間合いに入るであろうというその時静かに目を見開き一気にベルルトの間合いに滑り込んだのだ。
動きが全く見えなかった。その場に居た全員が驚いたに違いない。しかし驚くのはそれだけではなかった。それはロイの身軽さ。ロイはまるで飛んでるかの様に剣をふるう。まるでこの世に重力など存在しないと言わんばかりだ。
お互い手合わせの時間が長引くにつれ、呼吸も荒く、傷も増えていく。ベルルトが押されぎみなのは変らないのだが、ベルルトも粘るため、一向に勝敗が付かない。
このままでは共倒れだな。とトーニョが思った時目の前の攻防戦に変化が表れた。
ロイが突然大きく飛びのき間合いを取ったのだ。息を整えるのが分かる。そして不意に上体を低くすると走り出した。
一体何が起こっているのか把握が出来ないが、これで勝敗が着くとどこかで予感がしている。
そうしている間にロイが飛び上がり、家の壁を台にして蹴った。その勢いのままベルルトに突っ込み、剣を無理やり弾き飛ばした。それを見届けて、ロイは地面に崩れ落ちる。ベルルトも同様にその場に座り込んだ。その様子にキールがハッと我に返った。
「りょ、両者それまでっ!!!・・・あ、だ、大丈夫ですか!!」
キールが掛け声とともに急いで座り込んだまま立ちあがらない二人の元へと駆け寄っていく。トーニョ達もそれに続いた。
キールが取り敢えず二人を中に入れましょうと言ってベルルトを担ぎあげた。一体その華奢な体のどこにそんな力があるのか疑いたくなったがトーニョもそれに続いた。
ロリンシスとウィルは座り込んだままのロイの傍に座った。
「・・・・ロイ大丈夫か。立てる?」ウィルがロイの肩に手を添えたがロイはビクともしない。いよいよ心配な面持ちでロリンシスを見やる。視線を受けたロリンシスは一つ頷くとロイの顔を覗きこんだ。
ロイは静かに目を閉じて、何かに耐えるように口を結んでいる。息はしているから生きてはいる様だ。ロリンシスは務めて優しい声を出す様に心がけながらロイに声を掛けた。
「ねえ、ロイ?取り敢えずまず中に入ろう。肩貸すから。ね。ウィルも心配しているし」ロリンシスがそう言うとロイが静かに目を開けた。その表情を見た瞬間ロリンシスは思わず息を飲んだ。
トーニョの言っていた表情はこれだろうか。まるで何も見ていない様でそれでもすべてを見透かす様な眼。トーニョはこの表情を恐ろしいと言った。だけどロリンシスには恐ろしいというよりは悲しそうな目に見えた。ああ、やっぱり。こんな風な目をする子を俺はよく知っている。今も俺の生きる源となっている彼は今どうしているだろうか。彼もこんな顔をよくしていた。
気がつけばロリンシスはロイを抱きしめていた。ウィルは驚いたようにロリンシスを見ている。無理もないロリンシス自身も自分の行動が理解できないのだから。
しかしロイはロリンシスの背中に腕も回すとそっとロリンシスにしか聞こえない様な声で小さく呟いた。
「・・・・危なかった。もう少し長引けば殺してしまう所だった・・・」
ロイはそう言うとフッと意識を手放した。
「あ、ロイ!!!しっかりしてロイ!!」
ウィルも緊迫した面持ちでロイの元に駆け寄った。
「ねえ、急いでキールの所に行った方がいい」
ウィルがそう言うや否やロリンシスはロイを担ぎあげて早足で室内に戻る。
ロイが意識を失う前に言った言葉を頭でリフレインさせる。やはりこの子には何かがある。ロリンシスはそう確信しながらリビングへ続く扉に手を掛けた。




