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第一話 

ここから始まります。

すこしながくなるかもしれませんが

お付き合いのほど宜しゅうおたの申します。



書きながらアップしていますので

書きかけ状態です。随時更新中です。

 ふと、外を見た。


南側の窓から見上げた空は、濃い朱に染まり、

それをまた、底無しの闇が飲み込んでいる。蒸し暑い空気が少し冷たくなった。

夜はもうそこまで忍び寄っているようだ。

電気をつけていない教室内は少しずつ薄暗くなっていくのが分かる。

放課後のこの教室には、日誌を書いている中山しかいない。

まだそんなに遅い時間ではないが、外の運動部は珍しく早々と活動を終えたのだろう。

聞こえていたはずの生徒たちの声がなくなっている。 


中山は大きくため息をつくと、また机に視線を落とす。

教室は静まり返り、日誌の上で踊るシャーペンの音だけが微かに響き渡る。

日誌の空欄に、無造作に「特になし」という文字を並べたてる。

徐々に日誌の文字が読み取りづらくなっていく。


開け放たれた窓から、一陣の強い風が吹きこんだ。

風は日誌と中山を撫ぜてすり抜ける。

その風の中に一毫の雨の匂いがした。土を濡らした青臭い匂い。

それと、太陽に焦がれたアスファルトとコンクリートを濡らす匂い。

どちらも中山の好きな匂いだ。匂いにつられてまた窓の方を見た。

先程見た素晴らしい夕焼けの空とは一変して、稲妻の光によってその大きさと厚さが際立たされた積乱雲が空を覆い隠し始めている。


(降る……。3、いや5分後くらい)


心の中でつぶやくと、中山は教卓の方にある黒板の上の時計を見た。5時28分。

秒針がいつもよりゆっくりと時を刻む。それが1周した頃、空が吠えた。

閃光が教室を一瞬だけ照らした。さっきよりも深い闇が教室に戻る。闇はセピアに色を変えた。

世界が懐古に染まる中、倦怠な表情で外を眺める。

秒針が5週目に差し掛かろうとしたとき、タッタッタッと大粒の雨が落ちた。


(ちょっと早かったなぁ)


雨脚は最初の一滴が落ちるや否や瞬く間に本降りになる。中山はまた日誌に向かった。最後の「特になし」を書き入れ、担任に向けて今日1日の報告を書く。


不意に背後の戸が開いた。そんな気配がした。

足音はしない。

だが確実に何かが近づいている。

刹那、中山の手が止まるが、また動き出す。

背に感じるその感覚には覚えがあった。後ろを見なくてもわかる。

中山は日誌から目を離さず、しゃべりかけた。


「佐藤君でしょ。もう日誌書き終わるからちょっと待って……」


佐藤と呼ばれたその気配はゆっくりと、しかし止まることなく中山に近づく。

佐藤は中山のすぐ後ろの席まで来ると机に軽く腰掛けたようだ。

じっと、音も立てずにそこにいる。

教室内には雨音と沈黙がとぐろを巻いている。


「……っし。できたよ、あとここ……」


書き上げた日誌を軽く持ち上げ、佐藤の方を向こうとした。

だが、中山は佐藤の姿を見ることができなかった。

振り向く前に、背後から首のあたりに2本の腕が伸びる。

その腕は優しく、だが決して離さないという意思を持って中山をとらえる。

中山は腕を少しだけ押して抵抗するが、

双方に離れる意思がないためかその行為は無駄なものだった。

中山の背中に佐藤の体温が伝わる。


「さ、佐藤君? な……」


「好きだ」


中山の耳元でささやかれた言葉は、短くも心を貫くに十分な鋭さを持っていた。

佐藤はその言葉にほんの一握りの嘘を含んでいる。

それを知っている中山は佐藤の腕から本気で逃れようと抵抗した。

だが、佐藤の腕は中山を離さない。


「好きだ」


ささやき続ける。何度も何度も。


「や、佐藤君。やめて」


「好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ」


気が付けば、佐藤の声が中山の耳元に滑り落ちている。

鼓膜に直接囁かれるような感覚に、中山は理性をかき乱されていく。


(ダメ…………佐藤君は、だめ。……だって)


「すきだ」


「だ、だめ。佐藤君、こんな……」


「好きだ…………志乃ちゃん」


「「カァーーーーーーーーーーーット!!!!!」」


教室内に怒号が響き、先ほどまでの甘い蜜のような空気は瞬く間に消え失せた。

開け放たれていた窓からひらりと軽やかに、1人の女生徒が舞い込む。


「あ、志乃ちゃん!」


にこやかに佐藤は手を振るが、その笑顔は一瞬掻き消え、真横に吹き飛んだ。

そのまま床に倒れこみ、微かに痙攣している。


「七緒君、何回言ったらわかるんや。

七緒君のお相手はこの子や、

「中山 洋子(ようこ)」!! 

なんでいっつもそこで私の名前呼ぶん?

七緒君がちゃんとしてくれへんと先に進まれへんやん。

時間無いんやからこないな始めんトコで止めんでぇな」


床の上で口から泡を吹きながら、小刻みに痙攣している光景をまるっと無視して、仁王立ちでそれを見下ろしながら志乃は大きなため息を一つ吐く。

すると、仰向けに倒れていたそれはいきなり起き上がった。

鼻を抑え、じっと下を向いている。志乃は少し焦った。


(え? もしかして、鼻血? おえんトコにでも当たったんかな?)


志乃はすぐさま屈みこんだ。

その手の間に赤黒い筋がにじんでいる。

指の間からにじむ赤黒い血は、抑える掌から大きくうねりながら黒い学ランの中へ消える。

裾から覗く白いシャツがじわりと赤く染まっていく。

志乃は慌ててスカートのポケットにあった青いハンカチを差し出した。


「な、七緒君? ごめんなぁ、まさか血ぃ出ると思うてなかったわぁ。これ当ててな」


「ん……大丈夫。ありがと、志乃ちゃん。

これごめん、血で汚しちゃったなぁー。

新しいの……って、このハンカチ、俺が昔志乃ちゃんにあげたやつだ。

まだ持っててくれたんだ」


ハンカチを少し顔から離して眺める。

藍染のハンカチには水色の絹糸で蝶が踊っていた。

その蝶を七緒の血が赤く染め上げる。これは洗濯しても落ちるかどうか怪しい。





まだ終わっていません。

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