29章
牢屋に運ばれてからかなりの時間が経過した。
颯人は、薫から気を失っていた間に起きていた出来事について教えてもらった。
「薫、俺のことを守ってくれてありがとな」
「颯人くんには私のほうがいつも助けられているし、これくらい朝飯前だよ」
えっへん、と言って胸を張る薫。その仕草が可愛くて、胸の鼓動が早くなる。颯人は誤魔化すように別の話題について話し出す。
「そういえば俺の中には《破壊の神》がいるらしいんだ。鏡と戦っている時に言っていたのを聞いたから、たぶん本当のことだと思う」
「それは誰から聞いたの? 鏡くんから?」
その時颯人は一瞬だけ迷いが生じた。薫に本当のことを話してしまってもいいのだろうか、と。自分の中にいる破壊の神が話してくれましたなんて。だけど、颯人自身は薫のことを信じている。なのに、何故か不安がぬぐえないでいる。
「あ、ああ。鏡から聞いたんだ。薫は聞いて驚いたりしないのか?」
「うん。私も鏡くんから少しだけど話しを聞いたよ。颯人くんが大変だってことを」
薫は右手をそっと颯人の手に添える。一瞬冷たくて、ヒンヤリとしていたがとても暖かい手で安心することができる。
「だから、私をもっと頼ってもいいんだよ。わずかにしか力になれないかもしれないけど、それでも私は颯人くんのことを応援していたいの」
固く揺るがない強い意志を薫からは感じる。だから、颯人もそれに答えなくてはならない。揺るがない信念を貫くために。
「ありがとう。薫のことをこれからは頼らせてもらう。でも、俺は薫を傷つけたくはないんだ。だから、もし危険な戦いなんかになったら俺は一人で戦うつもりでいる」
「……それでも、私は!――」
薫が声を張ったとき、
「――おっと、お話し中ゴメンな。ちょいと、オレらのリーダーがお呼びだそうだ」
気づけば牢屋の扉は開け放たれており、外には何人かの人がいて、そして一人中に入ってきたのは桜花駿であった。
「王っ! お前無事だったのか!」
駿は「よっ! 神崎も元気だったか?」と笑顔で答えてくれて、本当に無事であることが実感できる。
「当たり前だろ! 俺と薫もすげー元気だよ」
薫も駿が無事であったことに驚いて、少しだけ涙目である。
「感動の再開もいいが、オレたちのリーダーさんの用事を済ましてからいっぱい話でもしようぜ」
俺と薫はそれに承諾し、駿のあとにつづいて牢屋をあとにした。




