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27章

颯人と鏡の決着から五分後に薫は屋上に到着した。

「颯人くん!」

すぐに颯人の姿を探し、入口付近で壁にもたれかかっている颯人を見つけてすぐに薫は抱きついた。

「颯人くんに怪我がなくて本当によかった! とても心配したんだよ!」

颯人からはなにも返事が返ってこず、ここで寝ていることに気づく。

このまま寝かしておくのも身体を悪くしてしまうと思い、薫は颯人に膝枕をしようと考えそして実行した。

「颯人くんの寝顔はいつ見てもかわいいね。――ってあそこにいるのは直哉くん!?」

そこには颯人の近くで怪我をしてぐったり倒れている直哉の姿があった。

「この場合私は何をすればいいのかな!? んーでも応急処置なんて出来ないし、どうしよう」

頭を抱え必死に考えを巡らせる薫。その時屋上の奥にいた鏡が目を覚まし、直哉の近くまで来て腰を下ろす。

「夜白薫……君は心配しなくて大丈夫だよ。――先輩には色々と恩があるから今回は僕が治療してあげますね」

「鏡くん、直哉くんをよろしくお願いします」

彼は制服のポケットから救急キッドを取り出して治療を始める。手際がよくわずか三分で直哉の傷は包帯などで巻かれていた。それを見た薫は感嘆の声を漏らす。

「わあ、鏡くんの治療すごかったね! 私感動しちゃったよ。颯人くんのサポートとしてもっと勉強しなくちゃ!」

「僕の技術はあんまり凄くはないよ。それより、君たちはこれからどうするんだい?」

「とりあえずは颯人くんが起きてみないと。それから考えていくよ」

「そうか、颯人君ならきっと君を守っていけるはずだよ。――僕はこれから別世界に行こうと思う。先輩と未雨を連れて」

鏡が言うと屋上にもう一人の人物が入ってくる。そこには先程薫と対峙した未雨という幼い少女だ。手には教室で書いていた絵を持っている。

「未雨も一緒について行くですよ。鏡がその人と行くのは許せないです」

「きっと来ると、わかっていたよ。この先輩と一緒で未雨も僕も今日から追われる身、だもんな」

ハハハッと鏡は笑っているが、なぜこの人たちと直哉くんは追われてしまうのだろうかと疑問に思ってしまった。

「ねえ、どうして鏡くんたちは追われることになるの?」

「単純な話だよ、僕たちは今回の任務に失敗したからさ。それに先輩は組織を裏切ってしまった。もちろん裏切り者の末路は死しか待っていない」

「で、でも、鏡くんは裏切ってもいないのに、どうして直哉くんと未雨ちゃんと一緒に逃げるの?」

薫の言うことには納得できる。鏡自身は任務に失敗しても、裏切ってはいない。ましてや失敗したのには直哉の裏切りが一番の原因と断言しても間違いはない。

質問の答えが返ってきたのは鏡からではなく隣にいる未雨からであった。

「あなたの言っていることは理解できます。未雨と鏡は任務に失敗しても組織は裏切っていないです。でも直哉は組織を裏切ったのです。――この直哉の裏切りこそが鏡を動かす最大の理由なのです」

「未雨の言う通りで、僕は先輩のあとを追うことを選んだ。先輩には少しだけ恩がありますし、その恩を返すことができるのなら裏切り者にでもなる覚悟はできてます。これが夜白薫の知りたかった事実さ。案外普通な答えだろ?」

鏡は先程と変わらない声音で薫に言う。しかし、彼の瞳はとてもまっすぐで、本当に直哉に対して救ってやりたいという思いが伝わってくるのがわかる。

この時、夜白薫には一つの考えがよぎった。

(もしかしたら、鏡くんと未雨ちゃんはとても良い人なんじゃないかな。任務も直哉くんのことを助けたくて受けたのかもしれないし、こんなに人のことを思って行動できるのに、悪い人なわけがないよ!)

颯人のことを傷つけた鏡たちのことを少しは疑っていたが、その靄も晴れて薫は少し安堵した。

「鏡くんの答えはとても立派だと私は思うよ。恩を返すためだとしても、相手のことを心配して一緒についてくことは、やっぱりすごいよ!」

「……ありがとう」

鏡は褒められたことに対して照れたのか、少し顔を赤くして礼を薫に述べる。それは一瞬で、すぐにいつもの鏡へと戻り、隣で気を失っている直哉を肩に担ぐ。

「これから僕らは先輩を連れて別の次元に行く。夜白薫、今後もいろんな奴に目をつけられるだろう。そこの神崎颯人とともに生きて行ってくれ。それと――」

そして鏡は複雑そうな表情になり、

「神崎颯人の中にはおそらく《破壊の神》が存在している。《破壊の神》は彼の体にいる限り体を蝕み続ける。もし神崎颯人が神崎颯人でなくなったとき、君自身が神崎颯人を――殺してやってくれ」

「……うん」

「すまない。それじゃあ、また会えたらどこかで会おう」

目の前の空間に穴が開き、その中に直哉を担いだ鏡が入っていく。続くように未雨も入ろうとした直前に、薫に一枚の紙を差し出した。

「あなたにこれをあげるです。なにか未雨に相談とか悩みとかなんでもいいですから、連絡したくなったら連絡してください」

頬を朱に染め、そっぽを向く未雨。

受け取ると、そこには未雨の番号らしきものが書かれていた。

「未雨ちゃん、ありがとう」

そして未雨は鏡を追いかけるように穴の中へと駆けていってしまった。

…。

……。

鏡の告げた言葉が頭の中で、何度も何度も繰り返される。

『神崎颯人の中にはおそらく《破壊の神》が存在している。《破壊の神》は彼の体にいる限り体を蝕み続ける。もし神崎颯人が神崎颯人でなくなったとき、君自身が神崎颯人を――殺してやってくれ』

私たちはずっと同じ境遇にいたんだ。互いに気づかないで、ずっと過ごしてきた。それもあと少しで終わり。私と颯人くんは――ずっと同じなんだ。


ひとり屋上に残った薫。彼女の瞳から一筋の涙が頬を伝う。ゆっくりと歩んで行き、壁に寄りかかって寝ている颯人の手をやさしく握る。

「颯人くんだけじゃないよ、私も同じだよ……」

薫の頬を幾度も涙が伝う。



そして薫の中に新たな決意が生まれた。

今後も思い、ずっと生きていくことになるだろう。


『颯人くんが死ぬときは、私も一緒になって死ぬ』


この決意は何があっても絶対に揺るがない。

お久しぶりです。境界線上の日々です。

いまも元気に生きています。

これからも不定期更新になってしまうかもしれませんが、この作品は完結まで書いていきたいと思っています。

今後もよろしくお願いします。


読んでいただきありがとうございました。

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