20章
俺は冬島のあとについて行き、冬島の家に来た。
「ほいっ、これが《鍵》だ」
突然冬島が小さい何かを投げてきた。俺は落としそうになるが、無事にキャッチ。
「これが鍵……」
見た目はどこにでもある鍵だ。
これに【スレイド】を目覚めさせる力があるのか。
「神崎、鍵を心臓部分にグサッとしてみな」
冬島がジェスチャーで伝えてくる。
――まあ、やらなきゃ始まらないか。
俺は意を決して、鍵を自分の心臓へと突き刺した。鍵は刺さるのではなく、体の中へ吸い込まれていく。
「あれっ……?」
急に目眩がして、その場に膝をついてしまう。視界が歪みだす。冬島にこの異変について聞こうとしても、もう自分の場所すらも見えなくなっている。
「あとは神崎、お前が頑張れよ」
冬島の呟きが微かにだが聞こえた。
そして俺の意識は暗闇の中へと消えていった。
……。
「――ッ!」
俺は目を覚ました。いつもの朝を迎える感じで軽く伸びをする。
床に倒れ込んだのに身体中が全然痛くなかった。どうやら俺は冬島にソファの上に移動させられ寝かされていたらしい。その冬島は夕飯をつくっているのか、この部屋のキッチンで調理をしていた。
壁に掛けられている時計を確認する。時刻は深夜十二時をちょうど回ったあたりだ。
「いったい俺に何が起こったんだ?」
キッチンで調理していた冬島は、俺が起きたことに気づくと一旦その手を止める。
「おっ、やっと起きたか。どうだ?夢の世界は絶望的だったろう?」
「俺、夢なんか見てないぞ。よかったよ、久々の熟睡だったぜ!」
「ハァ!?いや見ないなんておかしいだろ。スレイドは人に絶望の光景を見せないと覚醒しないんだぞ。それが夢に出ないなんておかしくないか?」
冬島はしばらくの間驚愕していた。急に俺のもとまで歩み寄ってきた。
「なあ、お前の中でなにか言葉が閃かないか?」
「言葉……」
俺は首を傾げ、頭の中を深く探してみることにした。
そして、
「――【聖なる剱】」
知らぬ間に俺は謎の言葉を呟いていた。直後、右手に熱い感覚が襲いはじめる。
――熱い。このままだと手が燃えてしまいそうだ。
その時、手のひらが眩い光に包まれる。
俺と冬島は目を閉じて、次第に光が弱まっていく頃にそっと目を開ける。
「こ、これが俺のスレイド……」
俺の手には剣が握られていた。長大な白銀の剣――【聖なる剱】。
「お前、悪夢を見ないでよくスレイドを出せたな。やっぱり一度だけスレイドを召還したことがあるだろ?」
剣を見た冬島はとても不思議がっていた。
「俺のスレイドはいまのが初めてなんだ」
「もしくは……そのスレイドは本当に神崎のなのか?」
冬島は小さく呟いている。その呟きは俺には全く聞こえない。
俺は【聖なる剱】を持ち直して、改めて剣全体を見てみた。
だいたい人一人分ぐらいの長さ。そして重量もかなりある。
いまの俺では両手で振るうのも、二、三回程度でやっとだろう。試しに素振りをしてみたいが、ここが家の中なのでやめておく。
「これで鏡に向かい討つことができる。俺は今度こそ、全てを守ってやるからな」
「スレイドを見てるのはいいが、神崎、腹減ってるだろ。飯にしようぜ」
冬島に言われた途端に腹が減ってきた。
そういえば俺が鍵で寝たのが朝の十二時だから、半日眠っていたのか。
眠ると時間があっという間だな。
俺は【聖なる剱】を戻そうと思ったら、剣が一瞬にして消えた。
飯を食べて、早く俺のスレイドについて薫に教えてあげたいな。
こんばんは、境界線上の日々です。
ついに来ました、20章です!とってもうれしいです!
そして今後も、全体的に頑張りたいと思います。
読んでいただきありがとうございます。




