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2章

いま俺の目の前にはとても古そうなアパートが建っている。二階建ての、いまにも崩れてしまいそうな雰囲気を出している。空の上にはこんな古いアパートが建っていたなんて信じられない話だ。

それを指さし、恐る恐るキラに訪ねてみる。

「あ、あれがキラの連れていきたい場所なのか?そ、それとも場所を間違ったのか?」

「ううん。あれだよ。あそこのアパートにワタシのお姉さまがいるから、きっと生き返らせてくれるよ」

「そうなのか。あそこなら生き返ることができるのか」

(あのアパートに住んでいるんだから、どんな人なのだろう?キラのお姉さんなんて想像がつかないぞ)

キラのお姉さんへの期待とアパートが崩れてしまうのではと思ってしまう気持ちを持ち、俺とキラはアパートの中へと足を運んだ。



外見と同じく中もボロかった。歩いていたら床に穴があいたり、天井の角などにはクモの巣がはっており、それを見た瞬間俺は確信した。

……このアパートにはあれが絶対いる。そう俺のもっとも嫌うあれが……。

考えただけで身震いし、ついには鳥肌がたってきた。

「お兄ちゃんの嫌いなあれはいないから心配しないで。一応このアパートも一週間に一回くらいは掃除してるんだから、まだ綺麗な方だよ」

キラはそう言うと目の前の扉を開き、俺を先に行かせる。

「あそこにいるのがワタシのお姉さまだよ」

前を見てみると、玉座に座る一人の女性がいた。キラと同じく白銀の髪で、黒のドレスを身につけている。だがキラと違う点が多々あった。とりあえず俺が一番違うと感じたのは胸だ。玉座の女性の胸は豊満で、黒のドレスを着ているせいか胸がやたらと強調され、自然と視線が胸にいってしまう。一方キラの胸は玉座の女性とは真逆だ。つまり、胸がない。容姿が幼いので今は成長途中。数年後にはナイスバディになると本人の目が俺に訴えかけてくる。

キラのお姉さんは玉座から俺のもとまで歩み寄ってきて、耳元でそっと囁く。

「……そんな目で見ると君を襲っちゃうぞ」

身の危険を感じ壁際まで後ずさる。

そんな反応を見てキラのお姉さんは口元に手を当て上品に笑う。

「ごめんごめん、さっきのは冗談よ。あまりにも君の視線がいやらしかったから、ついからかってみたのよ」

「……すみません」

「そのことは気にしなくていいわ。わたしの名前はミラ。妹のキラがお世話になりました」

「俺は神崎颯人です」

自己紹介が済むと、キラはミラのドレスの裾をつかみ話し始める。

「お姉さま、ワタシが思うにお兄ちゃんは胸が小さい方が好みだと思います。そんな馬鹿みたいにデカイ乳よりワタシの方が素晴らしいにきまってます」

いや、待とうよ……。俺がいつ、デカイ、小さい、の好みについて考えたんだ。

「お子様の考えることはいつもアホですね。颯人さんはわたしの胸を獣のような瞳でハアハアと息を荒らげて見ていたのですよ。つまりわたしのこの魅力的な胸が好みなのよ」

自信満々に豊満な胸を張るミラ。一方のキラは俺の側まできてコソコソと耳打ちしてきていた。

「お姉さまに言ってやってください。自分は小さい方が好みなのだ、と」

「……」

「お願い、お兄ちゃん」

キラがいるから、ミラまでこっちに来てしまったではないか。

「颯人さんの好みは大きい方ですよね?」

「お兄ちゃんは小さい方が好きなの。お姉さまの乳はデカイから嫌だとさっき言ってたし」

二人は睨みあい、討論が繰り広げられる。

時間がたつにつれ、姉妹は喧嘩でもしてしまうのではないかと思うぐらい、激しくなっていく。

「ワタシの胸が一番なの!!」

「お子様ではなく、大人の胸の方がいいのよ!!」

このまま黙って見ていても一日以上続くようなきがするので、俺は姉妹の間に割って入った。

「いい加減にしろよ!俺は胸の大小なんて気にしない男だ。それにキラの胸は綺麗だし、ミラさんの胸は気持ち良さそうだと思った。だから早く本題に戻ろう!なっ!」

俺の言葉を聞き、キラとミラはおとなしくなって俯いてしまう。

「ごめんお兄ちゃん」

「少々取り乱してすみません。――では本題に入ろうと思います。まず一つ確認させてもらいます。颯人さんは本当に生き返りたいのですね?」

「ああ。生き返って運命を壊し真実を知りに行くんだ」

「その覚悟は本当のようですね。なら颯人さんにはこれから生き返るために必要な知識を知ってもらいます」

ミラはそう言って、颯人を奥の部屋へと案内した。



「ミラさん。どうやったら俺は生き返ることが出来るんですか」

「私の力で生き返ることは可能です。が、颯人さんにはある条件を出します。それをやり遂げる覚悟はありますか?」

奥の部屋にもあった玉座に座るミラは、玉座から立ち上がり一歩一歩颯人に近づいてくる。

俺の覚悟は生半端なものではない!夜白薫のため、真実を知るなら何でもしてやるよ!

胸中で強く想ったことをミラに言う。

「……やる。俺は真実のためならなんだってやるよ!そのために、ここに来たんだ!」

ミラは颯人の前まで移動していた。

顔の距離が近いですミラさん。後ろから押されたら……って大変すぎる。

颯人の方が身長が高いせいかミラが上目遣いで見据えてくる。

あれ?ミラさんの顔が少し赤いような……。

「颯人さんに今から生き返るための儀式を行います。先に言いますが怒らないでください。絶対ですよ!」

「えっ――」

言い終えたミラは颯人に顔を近づけ、口を塞いだ。

颯人は今、ミラと唇を交わしている。キスは長く続いた。

ミラさんの唇は柔らかい。桃色のような唇がいま俺に……。

「は、颯人さん。これで儀式は終わりです。後一時間したら生き返れるでしょう」

交わしていた唇を離し、ミラは赤面しながら告げる。一方、颯人は呆然としていた。片方の手で自分の唇に触れる。まだ、キスの感触を唇が覚えていた。

思い出すだけで気持ちがドキドキしてしまう。そうしていると不意に、

ドス

右足のスネを蹴られた。

「ッ!!!!」

痛すぎて言葉にならない。

足を抱えながら右側に視線を移すと、腕組みをして妙な威圧感を出すキラが立っている。

……キラ、スゴく怒っていませんか?

キラの周りには怒りと憎悪で形成されたオーラが感じられる。

とりあえず、その理由を聞くことにした。

「どうしたの!?」

「……」

「あのー……」

「……」

「無視ですか」

「……」

キラはそっぽを向いて話しを聞いてくれない。

(……後で機嫌を直してもらおうかな)

颯人はミラに向き直り、生き返るために必要な条件について訪ねる。

「ミラさん。先程の条件は何をすればいいんですか?」

「颯人さん。あなたには神を殺していただきます」

「神をですか?」

「勿論、こちらでもできるかぎり手助けはいたします。でも大概は颯人さんにやってもらいます」

「……そうですか。わかりました」

首肯し俺はミラを真っ直ぐに見据えた。


◇◇◇


今俺とミラとキラは寮の空き部屋で勉強をしていた。勉強の内容は生き返る世界について。

ミラとキラが教える側で俺が受ける側だ。主にミラが教え、キラがアシストするような感じで勉強は進められる。

「え〜と。今から、あちらの世界の特色について勉強しましょう。まずはキラを見てください」

今のミラは雰囲気が違う。スーツを着ておりメガネをかけている。とにかく、ミラさんはミラさんではなくてミラ先生ということ。

颯人はミラに言われたとおりにキラに視線を移した。

「――――」

キラは何かを声に出している。

「その姿を現せ!雷の聖霊〈ヴォルス〉!」

瞬間、キラの周囲に粒子が集まり始めた。次々と集まり、見たことのない未知なる物体が出現。

出現したかと思うと、それは形を変化させ斧になっていく。

それを手にしたキラは颯人を見るなり微笑んだ。

「お兄ちゃん!ビックリした?」

「おう。かなりビックリしたぞ」

言葉を返すとキラは手に持っていた斧を軽々しく振り回す。

「こんなこともできるんだよ!」

ホラホラと言わんばかりに、斧は激しさを増していく。

危ないのでミラに助けを求めようと視線を移す。こんな状況でもミラは平然としていた。

「ミラ先生!助けてください!」

「助ける時間がないので授業を進めますね」

笑顔で告げて、話しを続ける。

「先程キラの手には斧が出現しましたね。あれが生き返る世界で大切なこと――〈聖霊〉です。教科書P175に目を通してください」

ミラ先生は俺に教科書を手渡してくれた。

早速、教科書のP175を開く。

「えーと。なになに」

教科書の文字を指で追う。そこには、こんな事が記されていた。


 〈聖霊〉

 人間と共存している神秘の生命体。人間と契約をすることで契約者に力を与えることが出来る。聖霊には様々な種類が存在している。例として炎、水、雷、土、光、闇などがあげられる。

 〈異能〉

 聖霊と契約することで得られる力。聖霊は契約した人間が思い描く武器に形を変える。ただし聖霊が変化できる武器は一種のみと確認されている。また武器以外にも身体的能力の一時的な向上をもたらす異能も存在している。


以上のことが教科書に記されていた。

「これを見ると、さっきキラが斧を召喚したのは〈聖霊〉と〈異能〉の関係だからですか?」

「その通りです。先程キラが召喚したのは雷の聖霊〈ヴォルス〉。その〈異能〉がキラが思い描いた武器となり、斧が現れたのです」

「なるほど」

俺が納得している中、隣では「ヘヘーン」とキラが高らかに胸を張っている。

突然、颯人は自分の体に妙な違和感を感じた。

(……ん?妙に体が軽いぞ)

自分の体を見ると、足からじわじわと光の粒子になっていた。

次々と体の至る所が消えていってしまう。ミラとキラは二人して何かを用意し始めた。

「キラ、ミラさん!俺、どうかしちゃったんでしょうか」

そういっている間にも上半身も浸食され始めている。

ミラとキラは用意が出来たらしく、俺の消えていない両手に荷物を載せた。

「颯人さん!あと数秒もすれば生き返ります。なので、今から言うことを落ち着いて聞いてください」

「は、はい!」

ミラは丁寧かつ手短に颯人に話す。

「一つ。生き返った世界の住民は颯人さんとの記憶が存在していますので安心してください。二つ。今手に持っている荷物は、聖霊や異能、颯人様の通う学園、その他様々な資料です。わからなくなったら見てください。三つ。神を見つけるのは困難ですから、まず王という存在を見つけてください。そうすれば見つかります。わたしたちは健闘を祈っております」

ミラが話し終わる頃には全体の約三分の一が消えてしまった。

そして、ミラが付け足すように告げる。

「……颯人さん。生き返りましたら、その資料の中の地図を見て、記されている場所にすぐ向かってください。きっと良い事がありますから」

その時、ミラの声音はいままでとは少し雰囲気が違っていた。とても冷たかった……。

そんなことは置いといて、いまは感謝しなければ。

「キラ、ミラさん!俺のためにありがとうございます。俺、向こうの世界でも頑張ります!」

「頑張ってね!お兄ちゃん!」

「頑張ってください!颯人さん!」

そして別れを告げると同時に、颯人はこの世界から消えた。空には無数の光が飛び交う。

「――神を必ず殺してください。颯人さん」

消えていった颯人にミラは静かに呟く……。


読んでいただきありがとうございます。

次回も頑張ります。

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