表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/29

17章

激しい銃声。

そして突然それは起きた。

俺に振り下ろされるはずだった剣は、一発の銃弾によって軌道がずれ、結果的に剣は空中を切ることとなった。

「おいっ!そこにいるのは誰だっ!!」

鏡は怒りに満ちた形相で銃弾の放たれたと思われる方を向く。

しかしその場所には人などいなく、むしろそこには人などいないとさえ思えてしまうほど人のいた痕跡がなかった。

「颯人くん!」

俺は何が起きたか理解できない状態にいたが、横からの薫の声に素早く我に返る。

一刻も早く、この鏡から逃げなければいけない。

けれど俺にあいつの力に打ち勝つ力を持っているとしたら、ここは戦うべきだ。

そう判断し、隣に走ってきた薫の手を掴む。

「俺たちには異能がある。前の世界での力をいまこそ使うんだ!」

「わかった。やってみるね」

薫は首肯し、静かに目を閉じ、刀へとなろうとした。けれど薫に変化などはなにも起こらない。薫の表情には焦りの色が浮かぶ。

「ど、どうしてなの!?」

「どうして何も起こらないんだ!?」

俺たちは焦りにかられてしまう。

こうしている間に鏡は剣を構え直して、すぐさま振り下ろそうとしている。

「まずは神崎颯人君を殺るのが先だったよー。あっちは後でもいいしねー」

今度は外すまいと鏡は狙いを俺につけてから、剣を振り下ろす。

「くそっ……」

このままではダメだ。俺どころか薫まで巻き添えにしてしまう。せめて薫だけでも助けてやりたい。

俺は薫を抱き寄せ、薫を剣から庇う形をとる。

そんな時だ。

「――しょうがないですね。男を助けるのは嫌ですが、今回だけ特別ですよ」

俺たちの前に突如として現れたのは橘さんだ。手には細長い一枚の札を持っている。

「さあ、その身にくらいなさい!」

橘さんは札を目の前にかざす。

「橘さん!危ないっ!」

橘さんの身に振り下ろされる剣を見て、俺は必死に叫んだ。

けれどこんな事態でも彼女は微笑んでいる。

「そんな攻撃は、この結界の前では無力ですよ。そう、無力なのです」

剣が札の前ではじかれる。何度も剣を打ち込むが結果は変わらない。

「ちっ!しょうがないね……いまから本気だしてあげるよ。そんな結界、僕の【堅剣】が負けるはずないんだよ!」

怒りの顔をあらわにし、鏡は剣の打ち込む速度を上げていく。

「もっともっと上げていくよーっ!」

鏡は歓喜の声を上げ、さらに剣を加速させている。

まるで、剣そのものが瞬間的に移動をしているように見える。

弾かれ。もう一度弾かれ。そして何度も弾かれる。

剣が結界に打ち込まれるたびに、空気が振動しているのがわかる。

時間がたつにつれて鏡の剣は速度が落ちるどころか、上がる一方だ。

「君のその力面白いねー。さあ、僕の【堅剣】をいつまで耐えられるかな?」

「別にあなたなんかに言われる気はないですが!」

けれど言葉とは裏腹に、札の結界はピキピキッと音を立てて崩れかけている。

だが、その時に一瞬だけ鏡の目線が俺たち以外を捉えた。

そしてピタリと凄まじい攻防は突然終わった。

「――今日はもうおしまいだねー。ちょっと急用ができちゃったから」

【堅剣】とかいう剣を消して、鏡は顎に手を当て考え込む。

考えが終わったのか鏡は三本の指を立て、告げる。

「三週間待ってあげる。その三週間でなにするかはあなた方次第ですがね。僕はもう少しこの世界を楽しみますしー」

意外な鏡の言葉に俺たちはなにも反応することができなかった。

「三週間後にまた会おうねー」

また謎の力によって一瞬にして視界から消えた鏡。

三週間という期間を与えられた。それは偶然なのか、あるいは運命なのか。それは誰にもわからない。

「……文化祭。三週間後は丁度文化祭の日です」

橘さんの呟きに、俺たちは何も答えられない。

俺と薫はこの戦いで実感していた。

何もできなかった。

――俺と薫の無力さを。





デパートの屋上で鏡と一人の少女は何かを言い争っていた。

「おしかったなー。どうしてタイミングが合わないのかな、未雨は?」

「すみません。ちょっと小腹が空いてしまったので、途中で切らせてもらいました」

「そこ、それだよ。そこを我慢してくれれば俺は神崎颯人君を確実に殺せたのにー。ハッキリ言って未雨のせいだからな」

未雨という名の少女は鏡に向かってわざとらしい溜息を一つこぼす。

「ハァー……。まだまだお子様ですね……」

「言われたくないよっ!」

「――ところで、お主よ。わたしの飯はまだかー」

昔の時代のマネをするのが未雨のひそかなブームである。

どこから取り出したのか未雨の手にはスプーンとフォークが握られている。

鏡は子供の遊びの付き合いのように、返事をしてやった。

「わかったよー。じゃあ、本日の姫の食事はいかがなさいますでしょうか?ご希望などがございましたらなんなりと」

「ハンバーグ」

「あちらのファミレスに行くことになりますがよろしいですか?」

「ハンバーグ」

「僕のご自慢のお姫様だっこで参りましょう。――よいしょ」

姫役の未雨を軽くお姫様だっこをして、鏡は屋上の入り口へと向かった。

神崎颯人を殺せば、鏡と未雨の関係も終わりを告げてしまう。

だから三週間という期限を言ったのかもしれない。未雨と長い時間遊んだりするために。

――でも神崎を殺さなくては運命は守れない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ