16章
「待ってください!薫ちゃん!」
琴音は急に走り出した薫を呼び止めるが、彼女は一度振り返るや、
「ほら、琴音ちゃんはそんなものじゃないでしょ!飲み物買いに急ごー!」
(って自販機を通り過ぎちゃってますよ!?)
薫の行動に驚きながらも必死について行く琴音。しかし運動神経があまりない琴音は、徐々に薫との距離が離れて行ってしまう。
公園を出て、近くの住宅街に入ってすぐの曲がり角を曲がった直後に薫は足を止めた。
周囲には人はいなく、公園にいる神崎颯人からも確認できない位置。人に聞かれたくない話をするときなどには最適な場所だ。
どうしてこんなところに来たのか、琴音は首を傾げていた。その様子を見た薫はここに来た理由を話すのか、真剣な眼差しで口を開く。
「琴音ちゃんには、颯人くんについて知っておいてほしいことがあるの……」
発せられた言葉を聞いたとき琴音は薫の瞳を見据え、次の言葉を待つ。
緊張感が周囲に張り巡らされる。
「颯人くんは――命を狙われているの。このことは琴音ちゃんだから話すんだよ。もし嘘だと思ったならそれで――」
「――そんなこと嘘だとは思いません!わたしは薫ちゃんを信じますよ!例え薫ちゃんが別世界から来ていたのだとしても、わたしは薫ちゃんの親友であり続けるように、親友の言葉もずっと信じ続けたいのです!」
薫の言葉をかき消すように琴音は声を張る。自分自身の気持ちをすべて薫に打ち明けた。
「こ、琴音ちゃん……」
彼女は一切疑わずに信じてくれたのだ。そのことで薫の目は潤いはじめる。
「……ありがとう。ありがとう……琴音ちゃん」
涙が流れるのを堪えて、薫は感謝の言葉を述べる。
琴音は薫の側に寄り添うが、ふと、なにかわかったのか呟き始めた。
「……神崎颯人、死相、狙う。そうですか!これですべて繋がりました。――急いで戻りますよ!あの男の命が危ないです!」
急いで戻れば助かるかもしれない。琴音は薫とほぼ同時に地面を蹴り、神崎颯人のもとへと急いだ。
しかし彼女らが戻る頃にはすべてが間に合わなかった。
「僕は鏡。神崎颯人君を殺す使命を受けた。これが君の聞きたがっていたことだよ?そうか君はいま死ぬからいっても無駄だよねー」
着いたころには、神崎颯人に向けて一人の少年が剣を振るおうとしていたところだった。
彼との距離はおよそ100メートル。走ったとしても間に合うはずがない。
「だめーーーっ!」
薫は悲鳴を上げて、必死に神崎颯人のもとへ駆ける。が、彼女の走りも彼を助けることはできない。
(このままでは……)
琴音も助けるべく走っている。
(このままでは神崎颯人は死を迎えてしまう)
けれどどうやっても助からない。琴音が諦めかけた時、
公園に轟音が響いた。
その音が銃声であったことは間違いなかった。




