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14章

「なぜ、一体いつ、どこで、あんな男と付き合ったのですか!?ねえ聞いていますか、薫ちゃん?」

「お前、おれを置き去りにしやがったな!夜白さんみたいな美人さんと付き合うなんて、どんなテクニックを使ったんだ?あれか!『踏んでください』って言ったんだろ?おい、答えてくれよ、神崎―!」

薫は橘さんに、俺は男子生徒に肩を激しく揺さぶられながら質問攻めにあっている。クラスの人たちも俺たちを囲むように興味津々でやってきて質問を投げてくる。

「神崎君と夜白先輩って何気にお似合いですね」

「オレも彼女欲しい!!神崎隊長、モテ男になる秘訣ご教授願います!」

「……絶望を」

最後の方、いろいろヤバくないか。

この調子で来られたら、俺か薫がもといた世界のことを間違って話すかもしれない。

ここはひとつ俺と薫が付き合った経緯について嘘をつくしかないか。

「なあみんな!話すよ、俺と薫について!」

俺はなるべく大きな声で叫んだ。

すると、いままでうるさかった教室が静かになった。時計の針の刻む音が聞こえてきそうだ。

「いまから話すよ……」

全員が唾を飲み込む。

「――俺と薫は自販機で出会ったんだ!こう、あれだ!じ、自販機のボタンを押そうとしたら手が重なり、そして何度か会い、付き合ったんだ!ちょうど、おとといから付き合い始めたんだよ!これがみんなの聞きたがっていたことだ、これが真実だ!」

……。さすがにこの嘘はばれるよな。

「そ、そうなんだよ!私もそれが言いたかったの!」

誰も反応してくれない中、薫がすかさずフォローする。

そんな中口を開いたのは橘さんだ。

「ま、まあ薫ちゃんが言うなら、それが本当なのでしょう。な、納得するしかないです。じゃあこの話はもう終わりにします。――それとあなた方はわたしと薫ちゃんのお昼を邪魔したいのですか?」

手を二回パンパンと鳴らし、いまだ俺たちを囲むクラスの人たちを睨みつける橘さん。

みんな揃って首を横に振り、颯爽と席に戻りだす。

「あ、ありがとう、琴音ちゃん」

「いいのですよ。薫ちゃんとのお昼の時間を減らしたくなかっただけですから。そこの男のことだけは納得していませんから」

キッと鋭い眼光で俺のことを睨みつけてくる。

――と、虎に睨まれているような感覚だ……。

「と、とにかく、俺も橘さんには感謝しています。だから、ありがとうございます」

「べ、別にそういうのはいいです……」

そっぽを向く橘さんの隣で薫は何かを思い出したみたいで、顔を男子生徒に向けた。

「私、君の名前をしりたいな。聞いてもいい?」

「お、おれは冬島とうじま直哉なおや。ここのクラスの一員で、神崎の親友です」

薫に話しかけられて冬島は顔を赤らめる。

薫は俺の彼女だぞ、と言いたかったが、いまは残っている弁当を食べることにした。

なんだかんだで昼食を食べる時間がなくなったしな。

俺の机に下がっていた鞄の中から取り出した弁当。味付けなど完璧でとても美味しかった。――この弁当は誰がつくったのだろう。




午後の授業は眠気と戦った。無事眠気に勝った俺が気づいた時にはもう放課後になっていた。

「颯人くーん!一緒に帰ろー」

教室のドア近くに薫が帰る支度をして迎えに来てくれていた。俺は机の上の鞄を手に取って、冬島に「じゃ」と別れを言ってから駆け足で薫のもとへと行く。

「あれ?橘さんは?」

いつもなら蹴りを入れてきそうな彼女が、薫の側にはいない。

「琴音ちゃんは家のお手伝いで、先に帰るって言ってたよ。――じゃあ、帰ろっか」

俺は首肯し、薫と共に学校をあとにした。

そして学校近くの商店街を歩いていた時、ふと俺は思った。

「家、どこにあるにあるんだ?」

「あ……」

薫もそのことは考えていなかったようだ。とりあえず俺は鞄や制服のポケットに手を突っ込んだ。

「おっ!?あったぞ、携帯だ!」

制服のポケットに携帯は入っていた。しかも中身を調べたら、自身の住所が書かれていた。

「案外ここから近い。とりあえず薫も来る?」

「颯人くんの家、楽しみだね」

薫の微笑む顔を見ると、俺のもといた世界のことを思い出す。

――あの時もこんな感じだったな。

薫の笑顔を見た数時間後に俺は死んだ。どうして薫は俺を殺したのか、いまの薫からは想像することができない。

真実を知るために俺は生き返り、こうしていまいる。

いずれわかるであろう真実のために。

そのために俺は運命を壊し、神を殺す。

壊して、殺すんだ……。

「……は、颯人くん?」

気づけば、薫が心配そうに顔を覗き込んでいる。

俺は慌てて、

「ご、ごめん、ごめん。もう心配ないないから。ちょっと眠かったなあって思ってただけだからさ。――さ、早く家を探しに行こう!」

気を取り直して、薫と共に住所に書いてある家へと足を運んだ。

辿り着いて、アパートの一室が俺の家ということがわかった。気づけば、日も落ちていて辺りが暗くなっている。

いまから薫の家を探すのは無理だろう。

そのことを薫に伝えると、彼女はすぐに頷いてくれた。

薫を家に泊めて、この世界での一日は終わった。


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