13章
時刻は十二時。授業が終わり昼休みが始まった。クラスの生徒は弁当を食べ始めたり、購買に行ったりとしている。
「神崎、今日のお前は少しおかしいな」
突然、前の席の男子生徒が俺に聞いてきた。
制服を着崩して、首にはネックレス、悪ぶっている高校生という感じだ。
彼の鋭い眼差しが俺を見据えており、俺は一瞬にして冷や汗をかいてしまう。俺は焦りを隠しながら、なるべく普通を装いながら会話をする。
「と、突然なに言いだすんだよ!俺がおかしいのは昔からのことだろ?そんな今更のことを聞いてどうするんだ?」
「そう言われればそうだな。お前は毎日授業中寝て、バカで、女子にモテないような神崎だ。なんで当たり前のことを聞いていたんだ、おれは……」
男子生徒の言葉を聞き、胸中で安堵の息を漏らす。
どうやら俺の様子がおかしいのを勘違いだと思ってくれたらしい。
「そういえば、お前さっきの休み時間なにかあったのか?顔中傷だらけだったけどさ、階段から転んだみたいだったぞ」
「あー……」
階段という点で惜しいような惜しくないような。
「まあ、階段から女に飛び蹴りをくらったんだ。あの人は将来、世界最強の格闘家になれそうな気がするよ」
「女に蹴りを入れられるなんて、最高なシチュエーションじゃねえか。…………い、いや嘘です。ところでお前の後ろの……」
小刻みに震える男子生徒に言われたとおりに後ろを振り向く。その時、俺は凍りついたように活動を停止した。
「――誰が格闘家になれる、ですか?また蹴られたいのですか、この男風情」
後ろには弁当を手に持った、先程蹴りを入れてきた女生徒と薫が立っていた。
特に女生徒からは俺に向けての殺気が目に見えるほど醸し出ている。
俺が必死に女生徒からの視線を避けていると、薫が手に持っていた弁当を突き出して、
「とりあえず、お弁当食べよっか。颯人くんも一緒に食べよ?」
俺たちは薫の提案を受け入れ、机の上に弁当を広げている。教室内にいるクラスメイトの視線がここに集中していることに疑問が浮かぶ。
「なあ、なんで俺たちのことをクラスの人たちは見ているんだ?」
「そりゃあれだよ。なんせ学校での高嶺の花である橘琴音さんと夜白薫さんが全く縁のない二年の教室でおれと神崎が一緒に弁当を食べているからな」
「そうなのか。って、俺と薫は縁がないのか!?」
この世界での俺と薫が赤の他人だった。そのことに驚きを隠せなかった。
向かい側に座る橘琴音という女生徒は、汚らわしい物を見る目で俺を見据え、
「薫ちゃんはわたしだけのです。特に男であるあなたにはこれから、いや、いまも縁のない状態でいてください」
そう言って橘さんは隣で呑気に卵焼きを口いっぱいに頬張る薫を自身の胸の中へと引き寄せる。
すかさず俺は手に持っていた箸を置き反論した。
「それだけは嫌だよ。薫が俺と縁がないなら新しく縁をつくるだけ。だから君がダメだといっても薫と離れる事だけは絶対に出来ない、そんなことはしたくないんだ」
「……いいのですか、薫ちゃんはこの男と縁をつくっても?」
橘さんは薫に問う。
「えっ!?つくるといっても、だって私と颯人くんは両想いで付き合っているんだよ?」
薫の言葉にクラスの空気は一瞬にして静寂に包まれた。
男子生徒は箸を床に落としたことも気づかないぐらい硬直しており、橘さんは口をパクパクして動揺がヤバいみたいだ。
正気を取り戻した男子生徒と橘さん、クラスにいた人たちが揃って声を発した。
「「ええええええぇぇぇっ!?」」
いや、付き合ってるだけでこんなに驚かなくてもいいじゃないか。
そんなにこの世界の俺は付き合うのが意外なのか。
俺と薫の頭の上には疑問が浮かぶばかりだった。
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次回も頑張ります。




