11章
ジン・コンバットの会場である高層ビル群の間にある大通り。
その通りの真ん中で俺は彼女の名を叫び続けた。胸に大きな穴が開いてしまった夜白薫を抱きながら。
「薫!死ぬな!死なないでくれ!薫ッ!!」
しかし薫の顔色はどんどん悪くなっていき、呼吸をするのでさえ苦しくなっている。
――俺は薫が死んでしまうのを見ていることしかできないのか?
ただ生きてほしいと願うことしかできない自分が悔しかった。
しかし悔やんでもなにも帰ってこない。
だから俺は薫の小さな手をそっと握り願う。
「……薫。生きてくれ」
その時だ。
突然目の前に黒髪の少年が立っていた。どこからか歩いてきたのではなく、その場に出現したように思えた。
その少年の視線はこちらを見ており、瞳は冷めている。俺達を蔑んでいるようにさえ思えてしまう。少年は辺りを見回してから口を開いた。
「そいつはお前のなんだ?」
「そいつじゃねえよ。俺の大切な……夜白薫だ!」
薫に対する言い方が俺の勘にさわる。
俺は怒りを隠すようにして、そいつの顔を睨みつけ一言投げ捨てる。
「あんたは何をしにきた?」
冷たく言い放つと、黒髪の少年は無言のまま立ち尽くした。そして告げる。
「お前のそれを助けてやる」
「か、薫を助けられるのか!?」
「お前が望むのならな」
薫をその場にそっと寝かせ、俺は地面に膝をつき頭も地面につける。
「お願いだ!薫を助けてくれ!!」
「……なら、その場から離れるんだな」
言われたとおりにその場から離れ、薫の側に来た少年の様子を伺う。
「そこのお前、痛くないから心配するな」
薫の腹部に右手をあてた瞬間、その手が白く輝き出す。
が、薫にはなにも変化が起きていなく、苦しい表情のままだ。
「これでこいつは大丈夫だ」
その言葉を聞き、俺はすぐに問いただした。
「お前。薫を助けてくれるんじゃないのか?」
「違う。こいつの出血を一時的に止めただけだ」
「止めただ、と……?」
「そうだ。この世界でのこいつの運命はもうじき終わる。つまり死ぬということだ。運命は決して変えられない。だからこいつには別の世界に行ってもらう必要がある。それに行く間に出血多量で死なれちゃ困るから、止めたというわけだ」
意味がわかるようで分からないような気がする。だけど確かにわかることは一つだけあった。
「なら薫は別の世界に行けば助かるんだな?」
「ああ、そうだ」
薫が助かると聞き、ホッと息をついたとき、
「ぐあああああ!!」
遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。
その声は先程まで近くにいたはずの王の声であった。
「あっちで一体なにが起こっているんだ!?」
気づけば俺はその場から王のもとへと走り出そうとしていた。
その行動に気づいた少年はすぐに俺の腕をつかみ引き留める。
「行くな。いまお前が行けばこいつとお前の運命が終わりを迎える。それと向こうの奴はもうじき死ぬ」
「死ぬかなんてわからないだろ!王はいま助けを求めてるんだ!俺が行かないで誰が行くんだよ!」
手を振り払おうとしたが、その手が振り払えない。
「その手を離せよ!俺は王を助けに行く!」
「お前もいいかげん気づけよ。お前がこの場から離れればそこに寝ている奴は死ぬんだぞ?それでも助けに行きたいと思うのか?」
「なんでそんなことがわかるんだよ!!」
俺は怒りに身を任せ、怒声を上げる。
少年は俺の前まで歩み寄ってきて、急に胸倉を掴んできた。そして顔を近づけてくる。
「いいか、よく聞け。おれはお前を助けに来たんだ。死という名の運命から助けるよう、ミラに頼まれたんだ。わかったか?」
「ミ、ミラさんが……!?」
「だからお前がいま勝手な行動をすれば、運命の思い通りになってしまう。向こうの奴は諦めるしかないんだ」
少年は目を伏せ、胸倉をつかんでいた手を離す。
この時すでに俺は走ることをやめていた。
「結局俺は薫を助けたいんだな……」
「なら別世界にすぐ行くぞ。もう時間がない」
「……わかった」
俺は後ろを振り向くことはせず、薫のもとへと歩んでいく。
「薫……。待ってろ、絶対に助けるからな」
俺は薫をおぶって、少年に視線を向ける。
「俺と薫は準備できたぞ」
「そうか。なら、これだけは言っておく。お前は別世界で《鍵》を探せ。その《鍵》が全てに繋がっている。それだけだ。――いくぞ」
少年が空気中に両手をかざす。
すると空間に縦の亀裂が入り、パラパラと割れていった。
「この先が別世界だ。さっさと行け」
「じゃあな」
俺は少年に別れを告げ、空間の割れ目に飛び込んだ。
どうも、境界線上の日々です。
いやー最近暑いですね。夏に近づいている証拠なのでしょうか。
次回は今月中に更新できたらしたいと思います。
読んでいただきありがとうございました。




