10章
「……私との戦いはまだ始まったばかりです」
そしてエスパーダは敵に向けて全力で駆ける。
……私にはたぶん勝機はない。けれど王が遠くへ逃げられるだけの、
――十分な時間稼ぎをするのです!
走る勢いを利用し剣を敵の首筋目掛けて振るう。しかし、
「所詮はただの聖霊だな……」
王と同じように剣は右腕に防がれると、同時にその刃に無数のヒビが入り、粉々に刀身が砕け散った。敵の圧倒的強さを目の当たりにしエスパーダは目を見開く。
「……私の刃がこんなに簡単にっ!?」
「さっきも言っただろう、所詮聖霊だ、と。主がいない聖霊などいまの我には遠く及ばない。が、向こうの聖霊なら良い戦いができたかもしれないな」
「……向こうの聖霊?あなたは何を言っているのですか?」
「そんなの聞いてどうするんだ、聖霊のお前はいま我の手によって死ぬんだぞ。聞いても仕方ないだろう?だから気にせず全力で我を楽しませろ!」
その言葉を聞きエスパーダは左右の手に剣を召還させ、切っ先を敵へと向け、一言。
「言っておきますが、私は死にませんよ?」
そして敵をキッと睨みつける。
すると、敵はいままでにないぐらい大きな声で腹を抱えながら笑いだす。
「ハハハッ。貴様は、聖霊のくせに威勢がいいな。さすがは《運命を破壊する者》に選ばれただけはあるな。なら我は貴様に敵対する身として、この能力の力を開放してやろう」
敵は着ていた黒いコートのフードを外す。フードを外した少女は腰にとどくぐらいの長さの橙色の髪が綺麗だ。少女は幼い顔立ちをしているが、左目の下には歪な模様が描かれていた。
「――一つ問います。あなたは一体何者なんですか?ここの生徒ではないみたいですが……」
そう、私は生徒会長である桜花駿の聖霊。生徒会の補佐を務めています。なのでこの学園の生徒全員を知っていて当然なのです。ですが目の前にいる少女のことを私は知らない。この少女はここの生徒ではない以上、一体何者かという疑問が生まれたのです。
「そんな細かいことを気にするな。時間も過ぎたことだし、我との戦いを再開しようではないか」
急に少女の右腕が輝きだし、力が開放された。現れたのは鉄製の手甲。黒で染められておるが、中心に少女に描かれていた歪な模様が手甲に白で描かれていた。
次の瞬間、エスパーダは何かに吹き飛ばされ壁に激突。
「……いま、のは、一体?」
衝撃で息が詰まる。なんとか顔を上げて少女の姿を確認しようとしたが、その場には誰も立っていない。
「我はこっちにいるぞ!」
すぐに立ち上がり、声のする方に向いた瞬間、少女は右の手甲でエスパーダを殴ろうとしていた。
「くっ……」
咄嗟に両の剣を交差し守りに徹したが手甲は軽々と打ち砕き、エスパーダの腹部にめり込んでいく。
「……」
「どうしたどうした!これじゃあ次でおしまいになっちまうのかよっ!!」
口内が血で満たされていく。
また吹き飛ばされ、後ろの壁に背中から激突してしまう。壁にヒビが入り、パラパラと壁の欠片が落ちていく。
「もう終わりなのか?生徒会長の聖霊といっても全然楽しくなかったなあ」
エスパーダが倒れたまま動かなくなり、少女はつまらなさそうに欠伸をした。
しかしエスパーダはまだ動けるのだ。動けないふりをしているだけで、いまは少女の隙を窺っている。
(早く隙を見せてください。その時、私に残った最後の力であなたを倒します!)
「これ以上貴様を生かすわけにはいかないな」
その時エスパーダの腹部が熱を帯びた。腹部を見ると、少女の手甲が貫通していたのだ。
「い、つ、のま、に……」
少女は手甲をゆっくり抜く。
「楽しくはなかったが、十分満足できたぞ」
真っ赤な血で染まっていくエスパーダを一瞥し少女はこの階の部屋から出て行く。
(……王よ、私はもうダメです。あなたとの忠誠を果たせなくてすみません)
霞んでいく視界のなか、最後に王の――桜花駿の顔を見たかったです。
……さようなら、桜花駿。
エスパーダは静かに目を閉じた。
こんにちは、境界線上の日々です。
久々の投稿です。これからは投稿するペースをあげていきたいと思っています。
今後ともよろしくお願いします。
読んでくださりありがとうございます。