特別な思い 前編
「集中しろー。」
指導者の先生は、怒鳴った。
そう、俺が所属している法龍大佛眼高校放送部は県内屈指の強豪校である。特に指導者の相原先生は、かなり恐い。
「今日の練習は終わり。山畑、ちょっと職員室まで。」
「あ、はい。」
俺の名前は、山畑卓也。法龍大佛眼高校3年生であり、はたまた放送部のキャプテンである。放送部に特待で入った俺は部活一筋で恋愛なんか全くだ。でも彼女いるんだよなー。
「山畑、大会の原稿どうなってる?」
職員室で心配そうに先生が聞く。
「実はそれで迷ってて。去年は、担任の先生を題材にしたので…今年は非常勤講師の先生を題材にしようかと。」
と言われても見当たる人いないしー。
「明日香先生なんかどうだ?国語だろ?」
「確かに、あまり関わり無いですね。明日香先生にインタビューしてみます。」
ガッテン承知の助。それいいね~、この際明日香先生のことを知る良いチャンスじゃん。聞くこと考えとこ~。まさかこの後…。
“起立、礼。”
明日香先生の国語の授業が始まった。明日香先生の顔見ながら考えた方が楽じゃん。と思った時、明日香先生が俺の方に来てこう言った。
「山畑、何その紙?私にちょうだい。」
「えっ、あ~…。」
って俺の許可無く奪うなよ。
「文句ある?」
「いや無いです…。」
この女の名前は、佐久間明日香。27歳独身。先生達からは、美人教師と言われてるが性格は悪い。生徒からの評判も良くはない。
「何で私の授業で内職するの?」
この状況、取調べに近い。よりによって指導者の先生がいる職員室で怒らないでよ。
「いや~俺部活のことで頭いっぱいで~。」
「言い訳しない。」
「はい。すいませんでした。…ちょうどいいや先生少し時間ください。」
「んー、どした?」
「放送部の最後の大会の原稿、明日香先生にしたいんです。」
「私でいいなら…別にいいけど…。」
いやあんたしかいないから、それにその上から目線やめろよ。
「ではインタビューに入ります。先生になろうと思ったきっかけは?」
「私ねー、...。」
いろいろ話を聞いていたら明日香先生が気になってしょうがなかった。それに、距離も近い。もしかして明日香先生に恋した?
それに気づいたのは部活を引退した後だった。
大会に負けて引退した気がしない。
「何一人の世界に入ってるの?」
ガヤガヤした教室で親友である祐太に言われた。
「俺って部活引退したんだね。」
「今さら何を。」
「何か明日香先生のことが頭から離れない。」
さっきからやってたペン回しが止まった。
「何、恋でもしちゃった?…ってなんかリアクションは。」
本当は認めたくない。
「分かったよ卓也、恋かそうじゃないかを確かめるために大会の原稿を明日香先生に読み聞かせたら?」
「う~ん、まあ試しにやってみるよ。」
そう言って明日香先生の所に走って行った。
「卓也は分かりやすいね~。」
「明日香先生。」
「お~山畑、どした?」
「今日の放課後空いてます?」
心臓バックバク。
「私は、5時まで学校にいるけど。何かした?」
「先生に大会の原稿読み聞かせてあげたいんです。駄目ですか?」
「いやいや駄目な訳ないじゃん。じゃあ放課後私を迎えに来て。」
「分かりました。」
顔には出さなかったけど、心は満面の笑顔。…とか言ってる場合じゃないー。相原先生から室内練習場の鍵を借りなきゃー…ってか貸してくれるのか?
相原先生の所に鍵を借りに行った。
「先生、放課後室内練習場を使いたいので鍵貸してください。」
「ほ~、どうした好きな人に告白でもするのか?」
先生、笑いながら言わないでよ。こっちは、真面目なんだから。
「違いますよ、明日香先生に大会の原稿の読み聞かせをしてあげたいんです。」
「そうか分かった、今までで一番良い喋りをしろよ。はい、鍵。」
「ありがとうございます。失礼しました。」
職員室を出た時には、明日香先生のことを好きになってた。
放課後になって明日香先生を呼びに行った。室内練習場も準備万端。後輩たちも部活無いし、貸し切り状態。
「先生、座って。」
「はい。」
これが本当の最後、3年間の集大成だと思い心を込めて読んだ。
「6番、山畑卓也...。」
今まで以上に緊張する。やっぱり好きなんだ。んで何だかんだで読み終わった。
「あ~、緊張した。」
「すごく良かったよ。それに、こうゆう事してくれる生徒あなたが初めてだよ。ありがと。」
キューーーーーーーン
完全に好きになった。ずるいよ、そんなこと言わないでよ。
「俺も、大会の時より緊張しました。俺は今大会で伝えることの大切さを学びました。好きな人にちゃんと好きって伝えたいです。」
おいおい何言ってんだよー。でも俺にとって高校生活の特別な日になったのかも。
今日は、彼女とデートだ。でも俺は彼女のこと好きじゃない。ちなみに、彼女の名前は藤澤亜由美。1つ上の大学生。何でこうなったのかと言うと、知らん。知らない間に付き合ってるってことになってた。不幸中の不幸だ。正直、奴のウザいメールに悩んでいる。でも言えない。
「卓也ー、こっちー。」
「ごめん待った?」
という言葉は建前に過ぎない。
「全然待ってないよ。」
「所で話って何?」
ここで別れ話とか最高じゃん、ちなみに振る権利は俺にあるからね。
「実は…、うちバイト始めたの。」
何だそんな事かよ。期待して損した。
「そっか、じゃーあまりメールも出来ないね。」
俺の苦しみに気付きなさい。
「いや、メールは出来るよ。明日調理実習だから、うちがつくった料理を写メで送るね。」
こうゆう事です。リアクションの難しいメールがしょっちゅう送られてきます。しかも俺の授業中に。
「分かった、とりあえずどっか行こう。」
「そんな事より、たまには、うちの事も考えてよね。受験生の彼女って大変。」
っておまえが言うな。それより俺も受験か…。
夏休みは、休み返上で学校の夏期講習がある。行きたくない…でも明日香先生も来るから文句なし。
「明日香先生とどうなの?」
授業の合間のランチで祐太が言った。
「やっぱり好きみたい。」
「そっか、でもよりによって受験があるのに恋するかな。」
「しょうがないじゃん、好きなんだから。」
「まあ、あんたたち独身だし良いんじゃない。」
「え?俺彼女いるけど。」
「は?もしかして二股かけてんの?」
まさかー好きじゃないのに。
「でも本命は明日香先生だし。」
俺ら食べることに集中してないし。
「なら良いんじゃない、あっ、明日香先生~ここどうぞ。」
アホーー。心の準備出来てないしー。
「お~ありがとう。」
笑顔で明日香先生が言う。先生の笑顔良いなー…って本人目の前にして妄想すな俺。
「先生、俺行くんで。卓也頑張れよ。」
置いてかれたー。
「…先生目の前にして何話せば…。」
心の叫びが薄々声に出た。
「ん?何?」
「えっ、あー…はい。じゃあー今度先生に国語聞きに行きますね。」
とっさに出たのがこれかよ。そしたら明日香先生が、
「いつでもいいよ。みんな聞きに来ないからさ。頑張ってる山畑を私は応援するよ。」
ウグッ、やられた~。
「俺も明日香先生の味方なので、何かあったらいつでも相談のります。」
「何言ってんの。おもしろいね。」
これってアプローチ出来たのか?まあ受験勉強と両立して頑張ろう。
その日の夜に亜由美からメールが来た。
“受験勉強頑張ってる?”
返しようの無いメールだからこう送った。
“頑張ってるからしばらくメールしないで”
少しは俺のことも考えてよ。ため息つきながらメールを送った。
ブーーー...。着信だ、誰だろう?
「もしもし。」
「卓也?うちー、亜由美。」
めんどくさ。早めに対処しよ。
「何?今勉強中なんだけど。」
「今あんたの家の前にいるんだけど。」
はっ?何してんだよ。下手したらストーカーだからね。
「えっ?も...もう分かったよ、すぐ行く。」
いやいやで外に出たら腕を組んでる亜由美がいた。
「何かよう?」
「今日学校で話してた女の人誰?」
何だそんなことか...って何で知ってるの?
「てか何でうちの学校に来てるの?」
「あんたを迎えに来ようとしたら食堂で女の人と話してたから。しかも、うちといる時より楽しそうだったし。」
言葉詰まるんだけど。
「あの人誰なの?」
「国語の先生だよ。」
兼、俺の好きな人。
「分かった、うち帰る。志望校決まったら教えてね。」
教える訳ないじゃん。教えたとしても亜由美と同じ大学にはしないし、県外って言うし。
「うわっ、亜由美きついねー。男の敵かも。」
朝、学校で 昨日のことを祐太に話した。
「勘弁してほしいよ。愛しの明日香~…。」
「まあ、もうすぐ夏も終わるし時間の問題じゃない?」
どうゆうこと?
「だから、秋冬はもう受験で忙しいでしょ?会えない訳だからそれを機に別れちゃえば。どうせ学校では、明日香先生に会えるんだし。」
「そうだね、我慢して明日香先生を好きでいるよ。」
さて問題は、いつ明日香先生に告白するか。
「だよね~、いつ告白するかだよね~。」
えー、何でおれの考えてること分かったの~。
「卓也、卒業式まで待てる?」
「何とか...。」
そうだよね。今告白しちゃったら周りのみんなに迷惑がかかるもんね。
「しかも、卒業式の日一回勝負ね。」
「分かってるって。」
その日までに自分のやるべき事を考えなくっちゃ。