密やかな攻防
視点が変わります
「うちの主、最近ご機嫌ですよね」
主人を前にしてくすりと笑う部下に、美貌の主はくすりと笑い返す。
「ああ。とても機嫌がいいよ。あと少しだからね」
「長かったな」
「短気なご主人様にしてはすごく頑張った方ですよね」
「ここまで本気で完璧に欲しいと思ったものはないからね」
「ここまで頑張れる人間だとは思わなかった」
「本当に。外聞なんて微塵も気にしないくせに、彼女に関してだけはすごい気の配りようですよね。といいますか、気を配ることが出来たんですね」
「出来るよ?彼女に関してだけ、はね」
「それでもいいと思えるほどの前科ですものね」
「ああ。感動を覚えさすほどだ」
「ところで、そんな努力を水の泡にするような間抜けはいないだろうね」
主のひやりとした、けれど、本気の問いに、二人はすっとふざけた雰囲気を消した。
「はい。全ては順調です」
「決行の日、明日には間違いなく全てが手に入るでしょう」
二人の返事に、主は満足そうに頷く。
「そうだね。そんな感じだ」
遠くを見つめるような、どこも見ていないような不思議な瞳でそう返事をする主は、きっと、自分たちの報告など聞かなくても、自分たち以上に現状を把握しているのだろう。
彼にはそれだけの力がある。
能力がある。
「彼女を苦しめた全てが憎いよ」
主の瞳を夕日が照らす。
まるで血のように赤く、鈍く光る。
ぞっと背筋に悪寒が走った。
けれど、彼の発した言葉に、今の二人は思わず同意してしまいそうになる。
柔らかな微笑み。
周囲への気遣いにあふれた優しい心。
そして、自身を傷つける無意識の刃。
彼女から彼女の価値を奪った全てを憎く思う気持ちは、彼らの心の内にもそっと募っている。
「ダメだよ」
そんな二人の心の内を知っているかのように主がこちらを向いていた。
「彼女は君たちのものじゃない」
くすりと笑った瞳は狂気で満ちている。
けれど。
「選ぶのは彼女だと思いますよ」
「彼女の趣味はそこまで悪くない」
反抗するくらいには彼らは彼女を想っている。
それに。
「あなたみたいな変態に、彼女を渡すのは無理です。心的に」
「可哀そうだ」
「そうだね。君たちは怖いもの知らずだったんだった」
だから使ったんだったね。
と主は笑ったけれど、瞳の奥は独占欲に燃えているのを、二人は見逃しはしなかった。
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