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53話<コレクション>side リュイ

53話<コレクション>side リュイ




暗い廊下を歩く音が響く。

以前は絨毯が敷かれていたけれど、全て、漆黒の大理石に変更した。

この廊下は、特別室へと続くものだから。

完璧に仕上げなければ、気持ち悪かったのだ。

そのかいがあって、透き通った音が響いて、目にも耳にも心地いい。


「新しく手に入れた宝石は、もう飾った?」


隣を歩く男に、リュイはニコリと尋ねた。

男は首を横に振る。


「いいえ。ガラスケースに収納して、殿下の机に置かせて頂いております」

「ありがとう。自分で最高の場所を決めたいからね。相変わらず、気が利くね」

「恐縮です」


リュイは、重厚な黒の扉の前で立ち止まった。

胸ポケットから、鍵を取り出し、隣の男―――この城の執事に、手渡す。

男は白い手袋をした手でそれを受け取り、解錠する。

リュイは、待ちきれないと、すぐに部屋に飛び込んだ。


広がる、彼のコレクション。


「綺麗だなあ」


広がる、黒。クロ、くろ。

黒い翼の鳥、黒い宝石、黒の工芸品、黒の美術品。

美しい黒で満たされた部屋。


「僕の見た深淵の色だ」


死にかけた彼が、最後に満たされたのは、黒一色の世界だった。

狂いそうなほどの枯渇感によって死の淵を見て。

最後に、彼を救ってくれた。


「今は黒だけが、僕を満たしてくれる」


ゆっくりと黒革の椅子に腰かける。

執事が静かにワインを注ぐ。

そのグラスを受け取って、口に含む。


「とても、綺麗だと思わない?」

「はい」

「でしょう。ふふっ」


自慢する少年のようにあどけない笑顔を浮かべながら、リュイはデスクに置かれた、新しい黒を見る。


「あれはどこに置くと、より美しいかなあ」


ブラックダイヤモンド。

国宝級のそれは、半年前に、高山を一つ買い上げて、探させた一品だ。

熟練の職人の手によって、より深い黒の世界を見せてくれる、可愛くて愛おしい宝物。


「宝物といえば」


ふと、リュイは兄の顔を思い出す。


「まさか、あの兄さんに“バカ”がつく日が来るとは思わなかったな」


期待を裏切られたような、羨ましいような複雑な気持ちだ。


「兄さんだけは、こんなバカげた呪い。かからないと思っていたんだけど」


ふふっ


「兄さんがあんな顔をするなんて」


蕩けるような笑みを浮かべて、持てる全てを彼女に注いでいた。

誰よりも冷めた目で、“バカ”の家族を見ていた、あの、兄が。


「でも、これで。僕もあきらめがついたよ」


希望が消えた。


「兄さんが、この呪いにかからないままであったなら。僕だって・・・いや。詮無い話かな」


それに。


「あの黒い髪。それに―――― 一瞬だけ見えた、あの瞳」


このブラックダイヤモンドよりも深い色。流れるような黒。

カタカタカタ。

体が小刻みに震える。


「ああ・・・ほしいなあ」


興奮が納まらない。

クスクスクスクス。

あの兄が大切に大切にしている宝物だ。

それを奪うとなると命がけになるだろう。

けれど、それでもかまわない。


「最後はあの深淵が僕を迎えてくれる。恐れるものは何もないよ」


だから、現世では。


「この世のすべてを集めたいんだ」






更新再開と言いながらも、すぐに休載にしてしまいました。

今度こそと、連続更新を心掛けてみました。

夏の夜長。

少しでも、楽しんで頂けたら幸いです。

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