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52話<約束>side グレン

52話<約束>side グレン


城の最上階から町を、そして、そのずっと先に広がる田畑を見つめながら。

グレンはこの数か月のことを感慨深く思い返す。


イスターシュ王族とそれに追随していた貴族たちは廃された。

今後、この国はエルラードの配置下におかれることとなり、各所で大改革が進められている。

治安維持には、食うに困らない状況を作ることが第一だ。

王子が零した魔力は、衰えた土地に力を与えた。

花は咲きほこり、城の周囲の土地では、農作物が豊かに実った。

無論、王子が永久的に魔力流出を続けることはできないが、一時の食糧はこれでかなり補われた。

あとは、人々に仕事を与え、自活の道を示してやらねばならない。

アリシア様たちの提案と侍女たちの働きにより、女性たちのネットワークは大きな力となって、この国の改革に一役かっている。

また、早々に農作物の育成に詳しい者達を派遣できたおかげで、早いものだと、収穫できるものが育っているところもある。

それに加えて、アルティウスとその配下が、政治、法律、警吏など、必要な組織を新たに構築し直し、すでに各所に人を分配した。

各所で、様々なトラブルはあるものの、各部署で対処できる程度には組織化が順調に進んでいる。

彼らの生産力や自活力については、結果がでるのはまだ先になるだろう。だが、それでも、ここまで過保護な援助が必要となくなるのも、きっと、もうすぐだ。


「あっという間だな。半年など」


王子とともにこの国の王族を廃してから、すでに半年が経った。

王子から、この国への干渉計画を聞かされたときは、かなり驚いた。けれど、この国の変化や、それだけではなく、身近な者たちの変化を見るのは、非常に興味深い。


「まさか、王子があそこまでオカシクなるとはな」


神から愛された、すべてを持つ男。

いけ好かないあの男が、けれど、今は微笑ましい。


「アリシア様のおかげだな」


ふっと笑う。

笑いながら、心に浮かぶ、頭から離れぬ彼女の姿。

笑えない気持ちになりそうで、軽く首を横に振った。


「あと少しで、この国を去ることもできるだろう」


「そう、なのですか」


聞こえた声に、グレンははっと後ろを振り返った。


「アリシア様。なぜ、このようなところに」

「グレンさんが、こちらにいらっしゃると聞いたものですから」

「俺を探して?」

「はい」


アリシア様がコクリと頷く。

彼女の胸元に光るネックレスを、俺はおもわず、じとっと冷たい目で見つめた。


(他の人間に、アリシア様の気配を悟られたくない、か)


アリシア様が王子からもらったとおっしゃっていたネックレス。

それには、王子の執念、もとい、魔法が凝縮されている。

アリシア様の気配を読みにくくする魔法と彼女を守る魔法だ。


(気配を悟られないようにするなど。よく、思いつくものだ)


さすがは、変態・・・いや、これ以上、考えるのは止めよう。


「失礼いたしました。俺に何か用でしたか」

「はい。あの、今日は、町に出かけるとおっしゃっていたので。もし、お邪魔でなければ、途中まで一緒に行かせては頂けないかと」

「俺と、ですか」

「はい」


俺とともに、町に。

それは、一体どのような意図なのだろう。

もしかしたら。

そんな、新兵のような浅はかな地図を描きそうになる。


(しっかりしろ!)


俺は脳内で己の頬を殴った。


「す、すみません。勿論、お仕事のお邪魔にならないよう、町に出れば、すぐに別行動させて頂きますので」


脳内で己と向き合っていたせいで、誤解されてしまったようだ。

俺はもともと、目つきの悪さには定評がある。


「誤解をさせてしまい、申し訳ありません。本日は軽い視察をしようと考えていただけですので、俺の用事はすぐに終わります。むしろ、その後、貴女にご同行させて頂けるなら、花があって良い一日になる」


アリシア様が少し驚いた顔をして、それから、謙虚な微笑みを浮かべられる。

俺が気を遣っているのではないかと探っておられるのだろう。


「俺は、嘘が苦手です」

「!」


アリシア様は一瞬キョトンとされ、


「ふふ。そうですね」


花が綻ぶような笑みだ。


「グレン様が誠実な方ということは、勿論、存じ上げています。では、お言葉に甘えさせください」

「無論です。それで、アリシア様の目的とは?」

「その・・・少し、お買い物がしたいのです」

「買い物、ですか」

「はい」


女性にとって買い物とは特別なものだそうだ。

ミーシェがよく、『女同士の買い物に着いてくるんじゃないわよ、変態!』と、王子に言っていた。


「ミーシェ様も共にですか」

「いいえ。ミーシェは、パーティー準備のために、エルラードに帰っているのです」

「そうですか」


彼女も、王族。

エルラードに帰ることは珍しいことではない。


「では、1時間後に正門にてお待ちしております」

「はい!よろしくお願いいたします」


頷き、俺たちは二人で塔を後にした。





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