51話どのくらい、かっこいい?
51話<どのくらい、かっこいい?>
(まさか、ミーシェのお誕生日が一週間後だっただなんて!!)
私は焦りと不安でいっぱいで、部屋の中をウロウロウロウロと歩き回る。
お誕生日といえば、プレゼント。
いつか友人ができたら、お祝いして、プレゼントを渡したいとずっと思っていた。
その夢が、まさに、目の前にやってきている。
あやうく見逃しそうになるところだったけれど、神様は、私に味方してくださったようだ。
(とにかく、落ち着いて)
お祝いといえば、ケーキやクッキーなどのお菓子を準備して、部屋を可愛らしく彩って。
プレゼントは大きな箱につめて、リボンをかける。
(大丈夫です。何度も、夢見たのだもの)
本当なら、誕生日当日にサプライズでお祝いしたいけれど、当日はエルラードにてパーティーが開かれるという。
では、それが落ち着いた三日後くらいがちょうどよいだろう。
「ということは、10日後までに、パーティーの計画をたてて、プレゼント買いにいかないと」
けれど。
ミカには、なるべく一人での外出は控えるように、言われている。
この黒髪と目を隠せば、町の喧騒にまぎれることは容易だと思うけれど。
(お祝いでうかれて、ミカとの約束を破るわけにはいかないわ)
何度も必死な様子で念を押していたミカのことを考えると、不用意な外出は控えた方が良い。
「仲良くして頂いている侍女さんたちは、皆さん、各々お忙しそうだし」
困ってしまう。
ため息をついたとき、
コンコン
扉がノックされた。
「は、はい!」
「アリシア。僕だけど、入ってもいいかな?」
ミカの声に、慌てていた心が落ち着いて。
けれど、ドキンと小さな音を立てる。
「アリシア?」
「すみません。ミカ、勿論です。お入りください」
私は扉を開けるために、あわてて、駆け寄る。
けれど、私が扉を開ける前に、ゆっくりと扉が開かれる。
正装したミカの姿に、また、ドキンと心臓が音を立てた。
「ミカ?」
「驚かせてしまった?派手な装いでごめんね」
「いいえ。とても似合っていらっしゃいます。エルラードの正装ですか?」
「正装とまではいかないかな。普段、城にいるときは、こんな風に少し派手な服を着ていることが多いんだ。これでも、一応、王位継承者だからね」
「なるほど」
なんだか、いつもよりもキラキラと見える。
(でも、眩しすぎて)
遠い存在なのだと、改めて、思う。
「アリシア?」
そっと両頬に手が添えられた。
ミカが真正面から私を見つめる。
「似合わない?」
「い、いいえ。そんなことありません。とてもよくお似合いです」
「・・・」
私の返事に、ミカは不満そうに眉を寄せる。
「ミーシェのことは、散々褒めていたのに。僕はミーシェ以下?」
「え?」
「さっき、廊下で抱擁していたよね」
「ご覧になっていたのですか」
「勿論」
「人前ではしゃいでしまい、お恥ずかしいです。申し訳ありません」
「気にすべきはそんなことじゃないよ。問題は、君がミーシェよりも僕を軽んじていることだよ」
「軽んじるなんて」
「だったら、ミーシェが少し小奇麗な格好をしただけで、褒めたんだから。僕のことはもっと褒めて、大切にしてほしい」
まるで子供みたいに拗ねるミカ。
(可愛い)
素敵に決まっているのに。
「とても、とても素敵です。ミカ」
「かっこいい?」
「もちろんです」
「どのくらい?」
「え?」
「どのくらい、かっこいい?」
「とても」
「友達になれそうなくらい?」
「!」
「友達になれそうにない?じゃあ、ミーシェ以下?」
「い、いいえ。恐れ多くて」
「これは、かっこよさの判定だよ。恐れ多くなんてない」
そういうものなのだろうか。
けれど、かっこよさの目安であるというのなら。
「はい。もちろん、お友達になりたいくらいです」
「じゃあ、親戚になれそうなくらい?」
「はい」
「家族になれそうなくらい?」
「はい」
「恋人になれそうなくらい?」
「!」
「・・・やっぱりそんなには」
肩を落とすミカに、私は拳を握りしめた。
「そ、そんなことないです!もちろん、なれます!」
「本当に?」
「はい」
「じゃあ、恋人になってくれる?」
(ん?)
「えっと、もちろん、です??」
なんだか、混乱してくる。
目の前に、ミカが近づいてくる気がする。
「じゃあ」
ミカの手が伸ばされる。
私は、ドキドキと混乱で、目を見開いたまま。
ドカーン!!!
扉が吹き飛ばされて、ミカに迫ったように見えた。
けれど、
確かにこちらに飛んできたはずの扉は、ミカにたどり着く前に、何かに弾き飛ばされたように、方向を変えて飛んでいく。
「・・・」
ミカの笑みが深くなる。
立ち上る硝煙の向こうにみえたのは、やっぱり。
「ミーシェ??」
「アリシア大丈夫?!」
飛び込んできたミーシェが、私の体をぎゅうっと抱きしめる。
そして、ミカを睨み付け、
「あんたの魔法でエルラードに戻るから、ずっと待ってたのに。来ないと思ったら。本当に油断も隙もない」
「そのまま、永遠に待っていればいいのに」
「永遠って、放っておくき満々じゃないの」
「・・・」
無言のまま、ミカがミーシェの手をがしっと掴む。
「離れなよ」
「あんたが3mほど後退したらね」
「そんなに離れたら死ぬ」
「今からエルラード行くって言ってんでしょ。死ぬか!」
ぎりぎりぎり
二人の視線が、激しくぶつかり合う。
「ええっと」
この二人は、なぜか、一緒にいるといつも喧嘩ばかりしている。
それも、ふたりなりのじゃれあいだとは、今ならわかっているのだけれど。
「ミカ、ミーシェ。そろそろ、出かけなければいけないのでしょう?」
この二人だけで移動ということはないだろうから。
おそらく、二人の他にも、待っている方がいるはず。
ミーシェの手が少し緩んだので、ゆっくりとはずし、きゅっと抱きしめる。
「ミーシェ。気をつけて、楽しんできてね」
そうして、離れれば、
「・・・あかん。やられた」
ミーシェは頬を真っ赤にさせて、ふにゃりと床に座り込んだ。
それを見下ろしながら、おそろしいほど冷えた目で、
「ナーガあたりに捨ててこよう」
ナーガとは、エルラードとは真反対の遠い果ての地で、氷河の大地しか広がっていなかったような気がするのだけれど?