昏い目覚め
少し残酷な描写が入ります。お気を付けください。
星の光の届かない深い深い森の奥。
「くらいくらいくらい」
気が狂ったように、男は同じ言葉を繰り返す。
暗い暗い世界。
極めた者ほどの不幸はない。
到達は旅の終わりを告げる。
男は、この世の果て。この世の終わりに到達したのだ。
「くらいくらいくらい」
頭をかきむしる。
希望がない。
ただ、暗い世界が広がるだけ。
助けて。
助けてほしい。
渇きで頭がおかしくなりそうだ。
いや、最初から狂っているのか。
「ああああああああああああああああああああ」
暗い世界で、男は狂ったように、叫び続ける。
どれほどの時間が経ったのか。
カアッ
カアアッ
黒い鳥たちが、動かなくなった生き物の近くで飛び回る。
黒い鳥の大群は、たった一つの獲物を奪い合うために、下降する。
そして、ソレを己の糧にしようと、その鋭い嘴を振りおろし。
「あはは」
獲物が、手を伸ばした。
今まさに、自身に突き刺さらんとしていた、その鋭い嘴の一つを握り込む。
けれど、その他の嘴はそれで怯みはしない。
獲物の体を、異なる嘴が貫く。
「あははっはははは」
獲物は―――男は、嬉しそうに、狂ったように笑い続ける。
ぐしゃり
嘴が、嫌な音をたてて、潰れた。
男の、手によって。
そして。
一瞬で広がった、空気の振動。
次の瞬間、空を覆うように広がっていた鳥の群れが、男を貫いていた鳥たちが。
ボタボタボタ
白い紙に広がるインクのように、簡単に、地に落ちる。
それを見て、喜びのあまり、男の瞳が大きく見開かれる。
「あはははは」
男は笑った。
けれど、手についた色が目に入り、少し眉を寄せる。
「これは違う」
冷静な声。
男が手を振り下ろせば、真水が彼の全身をきれいに洗い流した。
ああ、もう、これで。
「余計なイロはいらない」
男は死んだ。
一度、死んで。
生まれ変わった彼には、新しい生が宿っている。