夜の密会(2)
夜。
「アリシアなら、今日は先に寝かせたわよ!どうよ!うはははははは!!」
「・・・」
「くやしいか!うらめしいか!うははははははっうっげほっ」
笑うか、話すかどちらかにすればいいのに。
両方して、むせて、体を折って咳き込むミーシェ。
「勝手に人の部屋に入ってきて、何を言うかと思えば」
「ぐふっ、げほっ、はあはあ。この非道!私になんかしたわね!」
「していないよ」
する価値もないし。
「まあいいわ。『勝者の余裕』、というやつかしら。
私は心が広いから、世界最狭の心の持ち主の、ささいな嫌がらせくらい、笑って許してあげるわよ」
「大きな誤解があるようだね。
僕は、アリシアだけいれば、世界が滅んでもいいと思うくらいの広大な心の持ち主だよ」
「せまっ!こわっ!!」
両肩を自分で抱きしめて、ぞわぞわと震えているミーシェ。
「ところで。ミーシェ。君、アリシアを9時に寝かせたね」
「ええ」
「はあ」
「何よ、深いため息をついて。
というか、今、誤魔化されそうになったけど、なんで、私がアリシアを寝かせた時間を知ってんのよ!」
僕は頭を軽く、横に振る。
「わかっていないにもほどがあるよ。
アリシアは、気が張っていて、疲れ切らないと眠れないんだ。
今頃、ベッドの中で眠れなくて、困ってる」
「え」
固まったミーシェを放置して、僕は壁に掛けられた時計に目をやった。
時刻は夜の11時半。
「そろそろ、かな」
かたり、と椅子を後ろに引き、立ち上がる。
「ん?どこかに行くの?」
「それも、愚問だよ」
「ちょっと、アリシアの寝込みを襲おうっていうの?!それはマズイわよ!」
慌てて止めようとするミーシェの手を、するりとかわす。
僕に触っていいのは、アリシアだけだから。
「あんたのためでもあるのよ!さすがにその一線は、許可なしに越えたらヤバいの!!
ああ!あんたが、朝から、アリシアに会うために、めちゃくちゃ頑張ってたから、面白くて、
むしろ、会えなくしてやろうなんて、考えるんじゃなかった!」
言いながらも、爆弾をせっせと用意して、投下準備を始めるミーシェ。
「やめてよね。アリシアが怯える」
「火量を調節してあるから、アリシアには聞こえないわよ。
それに、最近は、益々腕が上がってね。そこそこの消音効果も、出来るようになってるのよ」
それならいいか。
「とにかく、あんたに寝込みを襲わせるわけにはいかないの」
「襲わないよ」
「信用できない」
「・・・」
「・・・」
同時に。
僕たちは各々、腕を動かした。