恋の花が咲く(5)
「素晴らしい案が出ましたね」
どうだ、と自慢げな侍女さんたちの顔を見ながら、そう言うと、
「ええ。本当に。皆さん、さすがですわね」
そう言って、おほほと笑う侍女さん。
最初はライバル心をむき出しにしていた侍女さんたちだけれど、
今は、お互いの健闘をたたえ合うように、満足そうに互いを見ている。
それが嬉しい。
「はい。さすがです。だから、次は私の番ですね」
「ええ。私たちの案を実行に移してくださるのでしょう?
“上”でいらっしゃるのだから、その采配。期待していますわよ?」
「あらあ?でも、誰に何をおっしゃればいいかなんて、わかるのかしら?」
「あら。そう言えばそうね。だって」
「ええ。そうねえ。だって」
クスクスと笑う侍女さんたち。
「ご心配ありがとうございます。ですが、心配ありません」
きっぱりと言い切る。
だって。
「昨日、炊き出しをしていたとき。
話しかけてくださった方については、もちろん全員の方のお名前、お顔、お仕事内容、全て覚えました。
他の方についても、会話の内容で大まかな関係はわかっていると思います」
『は?』
侍女さんたちが、理解できない、と柳眉をゆがめる。
私はあわてて、緩む頬を両手で押さえた。
(やっぱり、変よね。自分以外の方とお話できて、舞い上がってしまっていたってことだもの)
でも。
(でも、昨日聞いたことは、お役に立てれそうだと思うの)
私は昨日の会話を思い出し、何人かの顔を思い浮かべながら、口を開いた。
「庭師は全部で30名ですが、庭師の長、ルタさんに全員を集めてくれるよう、お願いしましょう。
地方に詳しいのは、最近、地方から帰ってこられた、カイユさん。
彼を中心に、地方伯を集め、話を聞いてもらいましょう。」
「ど、どうして、庭師長ルタに、アルバンティー卿の名前まで!!」
ざわつく侍女さんたち。
私は、苦笑し、
「嬉しくて」
『はあ?』
「お恥ずかしいのですが、私、今まで、人とお話しする機会があまりなかったんです。だから、つい、嬉しくて。覚えてしまったんです」
恥ずかしいけれど、驚かれるようなことではないからと素直にお答えする。
すると。
『・・・』
侍女さんたちが、黙ってしまった。
その目にあるのは、戸惑い。
(でも、今まで向けられていたのとは違う気がする)
同じ戸惑いでも、悪意を感じないのは、気のせい?
けれど、それを深く追及するのは、違う気がする。
「とにかく。皆さんの意見を、“正当”に評価し、実行するということに間違いはありません。
今の素晴らしい案の実行はお任せください。
皆さんには、城に花を飾ることをお願いします。それから」
「・・・なんでしょう?」
「“たかがそのくらいのことで、かつてのように一日をかけるなんて、それでは生き残れないと思いますわ”というお言葉。覚えていらっしゃいますか?」
右から二番目の侍女さんを見つめて、問う。
「ええ!もちろんですわ!」
「素晴らしいお言葉だと思います。
皆さんは、城内の事情に関しては、他国のエルラードの方より秀でていると信じております。
余っていると思われる人力、物や、逆に不足していると思われることがあれば、また、おっしゃってください」
まっすぐに、侍女さんたちの目を見つめてそう言う。
すると。
「お任せください」
侍女さんたちが静かに、けれど、力強く、頷き返してくださった。