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恋の花が咲く(4)



にっこりと微笑んで。


集まってもらった、各廊下担当の侍女さん10人のうちの一人が、前へと進み出る。

カツンと高いヒール音が鳴る。


「あーら、黒髪のお嬢様。何か、私たちに言いたいことがあられるとか?」


目が笑っていない。


(戦う気なんだわ)


そのことに恐怖を抱くよりも、ただ、驚いてしまった。

だって、ただ、蔑まれるだけで、誰の目にも入らなかった私なのに。


(意識してもらえてる!!)


ぱあっと心の中が明るくなる。


(よし!がんばって、戦おう!)


嬉しくて、張り切れる。

私は、思わず笑みを浮かべた。

その途端、侍女さんが一瞬だけ、瞳に驚いた色を浮かべた。


(どうしてかな?)


一瞬、そんな疑問がわいたけれど、でも、すぐに本題を思い出す。


「皆さんは、今朝、城中で花が咲いたのをご存知ですね?」


その問いに、侍女さんたちがこくりと頷く。


「皆さんは、その花をどうすればいいと思いますか?」


その途端、


「あーら、集まらせておいて、何をおっしゃるかと思えば。

指針も決まっていないのに、“下”の者にご相談ですか?流石は、黒髪の御使い様」


おほほ、と笑う10人の侍女さんたち。

だから、私もにこりと微笑んだ。

その途端、きっと、侍女さんたちの眉が上がる。


「何を笑って・・・!」

「何も思いつかれないのですか?」

『っ!!!』


侍女さんたちの顔が引きつった。

私は笑顔で皆さんを見ている。


「聞こえませんでしたか?」

「きっ、聞こえましたわ!!それよりも・・・たかが、下働きが偉そうに何を!!」


叫んだ侍女さんをじっと見る。

黒い瞳に見つめられ、侍女さんが一瞬、口を噤んだ。

その隙に、わざとゆっくりと口を開く。


「皆さん、もう、イスターシュはなくなるも同然です。このままでいいんですか?」

「!」

「ご存知の通り、エルラードの皆さんはとても紳士的で、上品です。けれど、だからこそ、実力社会でもあります。皆さんはこのままでは、侍女の地位も危ういかもしれません」


私の言葉に、侍女さんたちから段々と血の気が引いていく。

それを見ていると、心が痛んだ。

皆、本当はわかっているんだ。

自分たちの立場が危ないっていうことも、いつ、家を取り潰されてもおかしくないということも。

そして、それは、私自身にも言えること。

だから、私だって、言いながら、不安がつのって、怖くて、苦しくなる。

こんなこと、本当は言いたくない。

でも!


(私たちは、このままじゃ駄目)


怖いものを見ないでいたせいで、この国は大変なことになった。

だから、こういう侍女さんたちみたいに地位のある方にこそ、今の自分の立場を認識してもらわなければいけない。


(それに。それが、私と戦う気をみせてくださった。私を視界に入れてくださった皆さんへの、私なりの誠意です!)


私は、にこりと微笑んだ。


「だから、私にぶつかってみてください」


急に笑顔になったことにか、それとも、言葉の中身にか。

侍女さんたちがきょとんとする。


「私は幸運にも、エルラードの方に、皆さんの行動を評価する地位を頂きました。私はそれを“正当”に実行するつもりです」


そう言うと、一人の侍女さんが、


「それはつまり、私たちの働きを、きちんと上に報告してくださる、ということでしょうか」


私は、こくりと頷いた。


「私はご存知の通り、貧しい出自です。高価なものの価値などわかりませんから、賄賂に流されることはありえません。私がただ欲するのは、価値のある行動です。――――皆さんは、王宮に関するプロでしょう?その実力を、見せてください」


その途端、侍女さんたちの目の色が変わる。


「私、一つ提案があります」

「私も!」

「私もよ!」


一斉に声を上げだした皆さんは、さすが、魔の巣窟と言われる王宮で戦ってこられた方々。

勢いが違います!!

ひるまないよう、心の中で自分をなだめ、


「右の方から順に話を聞いていきます。なるべく手短にお願いします」


最初に指名された方は、一瞬驚いた表情を浮かべたけれど、すぐに、侍女さんの顔に戻る。


「私は、王宮を華やかに、かつ、活気あるものとするために、花を飾るべきと思います」


その提案に、他の何人もの侍女さんたちが眉をあげる。

皆さん、同じことを考えていたようだ。

でも、同じ提案をすることは、侍女さんたちのプライドが許さないだろう。

思っていた通り、


「たかがそのくらいのことで、かつてのように一日をかけるなんて、それでは生き残れないと思いますわ。“花がこれだけある”ということを考えていましたら、私、思いついたのですけれど。庭師はこの緊急事態の城には必要ありません。それなら、彼らを未だ貧困にあえぐ地方や田舎に派遣し、彼らの知識と技術で農作物を効率よく育てさせたり、土地に合わせた特産物を考えさせて、長期的収入に直結するようなことを開発させたりしてはいかがかしら」

「いい案ですね」


ふんっと満足げに微笑む、侍女さん。

思わぬ案に、次の侍女さんは、一瞬悩ましい顔をしたけれど、


「つまり、今から必要なのは、庭師、地方の情報に詳しい方ですね。でも、どこに誰を派遣するか決める間、庭師は暇ですわ。だから、彼らには、その間、この城に咲いた花の中で、食べられるものを集めてもらいましょう。そうすれば、彼らが地方に行ったとき、お土産に食べられる花を持って来れば喜ばれますし、彼らの腕も信用されるでしょう」


どんどん、意見が出てくる。膨らんでいく。

皆さんが真剣に考えている。

それが伝わってきて。


(ミカ)


私は心の中で、ミカに呟く。


(たとえ、初めは保身のためだとしても。

この一歩が、この方たちの何かを変えてくれれば、国も、きっと良くなりますよね)


心の中で感動に震えながら。

けれど、表情は静かなままに、私は、白熱していく、皆さんの意見を聞いていた。










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