恋の花が咲く(3)
「え?このお花って枯れないんですか?」
レオンとミカが帰って、しばらくの後。
花を回収に来たという、アルティウスさんと出会った。
私が片付けたスペースで、なんとか炊き出しの用意は出来たけれど、もうすぐ人がやってきて、踏まれてしまう。
それを悲しく思っていたから、アルティウスさんの、片づけを手伝ってくれるという申し出はとても嬉しかった。
そして。
二人で、片付ける範囲を確認していたのだけれど、
「ええ。この花には、魔力がこもっています。それが、彼らに元気を与えているのですよ。ですから、30日くらいは形を崩すことなく、咲いていてくれますよ」
「魔力・・・魔法はそんなことまで、可能にするのですね」
「怖いですか?」
「少し。でも、花に元気を送ってあげるのだと思うと、素敵な力だとも思います」
「ふふ。貴女の考え方は愛らしくて、それでいて、新鮮ですね」
「そうですか?」
「ええ。私のように、魔力に近い人間からすればね」
「なるほど。近いと当たり前のことになって。客観的に考えることって、少なくなるのかもしれないですね」
「ええ」
「ところで、アルティウスさん」
「なんでしょう」
「このお花たちが、元気に、30日間も生きることが出来るなら、単に片付けてしまうのではなくて、人の心を慰めるために使えないでしょうか。王宮はまだ、ざわついていますし、心を慰めてくれる存在って大切だと思うんです」
「なるほど。いい案ですね。私も華やかさは、大切だと思います」
「ありがとうございます。実は、もう、ちょっとだけ貴族の方の通る道用と、一般の使用人が使う道ように分けて、保管してあるんです。とはいっても、少しだけなんですけど」
「仕事が早いですね。わかりました。では、貴族用は侍女たちに指示しましょう」
「ありが「アリシア様が」」
ありがとうございます。
と、言いかけた、私の言葉を遮って、アルティウスさんがにこりと微笑む。
「わ、私では無理です」
ぶんぶんと首を横に振る。
だって、私は、黒髪の御使いの名を頂いたけれど、この城の皆が知ってる。
私は使用人の中でも、最下層近くにいた人間なのだ。
侍女の皆さんに何かを言うことなんて。
「アリシア様」
「・・・」
諭すように名を呼ばれ、私はアルティウスさんの意図を悟る。
「・・・わかりました。私、やります!」
「ええ。アリシア様ならば、大丈夫ですよ」
にこりと微笑まれ、私はぐっと拳を握りしめた。
私は力を頂いた。
だから、それを使うことに少しずつ慣れていって。
そして、ミカに報いる大きなことをするために、経験を積まなければいけないんだ。
(それなら、いっそのこと)
「アリシア様?」
「私、もっと頑張ってみます」
「え?」
「私にできることは、とても小さいです。でも、たとえ私に出来なくても、誰かが出来ることを後押しすることは、できるはず」
小さく、独り言のように呟いた言葉。
それを、アルティウスさんは一瞬瞠目したものの、次の瞬間には優しく微笑み、
「アリシア様の思う通りに。それが、殿下をはじめ、私たち全員の願いですよ」
「ありがとうございます」
優しい微笑みに、心の中が元気になる。
後押しをしてくれる皆さん。
だからこそ、私も。
私は、この後のことを考えて、大きな城をまっすぐに見つめた。
この城は恐ろしい場所。
怖い場所。
それだけだった。
でも。
今は。
(ミカ)
あなたが与えてくれた。
私の居場所を。
だから、もう。
(怖いだけじゃない)
だから、私は。
きっと、立ち向かっていけるはず。