恋の花が咲く(2)
瞳を閉じて、静かにレオンの健康を念じていると、
「おまっ、可愛すっ」
「?」
レオンの動揺した声に、瞳を開ければ。
「ミカ?」
そこには、レオンの頭を両手で包んだ?ミカの姿が。
「あの・・・」
(何をなさっているんだろう?)
疑問に思ったけれど、
(ああ、でも、それよりも)
「おはようございます。“ミカ”」
私はにこりと微笑んで、“ミカ”を見つめた。
その瞬間、ミカは瞠目し、力を失った両手が、レオンの頭から外される。
そして、
「っっ!!」
ミカはかああっと頬を朱色に染め、口元を手で隠した。
「?」
けれど、一呼吸の後、
「お、おはよう。アリシア」
伺うように見つめられ、私が少し戸惑うと。
「約束通り、名前で呼んでくれているんだね。心の中でも」
(気づいてくださった!)
私は嬉しくて、頬が赤くなる。
「はい。昨日の夜。あれから、心の中で、何度も、ミカって呼んで、練習しましたから」
「っっっ!!!!!」
「ミカ?」
「あれから、何度も・・・?何度も、僕を呼んでくれたの?」
ふらりとこちらに手を伸ばしながら尋ねるミカに、私は微笑み、
「はい。恐れ多かったのですが、でも、何度も何度も練習させて頂きました。ミカ、ミカ、ミカ、って」
だから、間違えることはもうないです。
そう言葉を続けようとしたのだけれど、ばっとミカの両手が勢いよくこちらに伸びてきて、
「?!」
「って、させるか!!この変態害虫王子!!」
ミカの両腕が私の肩に回される寸前で、
レオンの両腕がミカの後ろから伸びてきて、彼を捕える。
「っ、・・・邪魔者は、コロ」
「シアの前」
「っ」
ミカは何かを言いかけたけれど、すかさず、レオンがぼそりと何かを言い、ぴたりと動きを止めた。
「・・・」
「・・・」
じっとにらみ合う二人。
「あ、あの」
私はまた、余計なことを言ってしまったのだろうか。
(もしかして。レオンは将軍だし、私が王子様を呼び捨てにしたことに怒っていて、でも、ミカはそれを許しているから。だから、二人の仲が悪くなってしまった?)
「ごめんなさいっ」
私は主従関係にまで、亀裂をもたらしてしまったのだろうか。
悲しくなって、瞳が潤む。
両手を胸の前で、固く握りしめ、二人に頭を下げる。
「シーア。こら、頭あげろ」
レオンに、優しく、コツリと頭を叩かれて、私は顔をあげた。
「ったく。俺がこんな変態王子を呼び捨てにすることで、シアを怒るわけないだろ?むしろ、カスとか変態とか呼んだ方がいいと思うくらいだし」
「レオン。それは」
ご本人を前に、言い過ぎだと思うのだけれど。
心配になって、ミカを見ると、
(?)
ミカは何故か、うっとりとした表情で、
「アリシアが心を込めて罵ってくれるなら、それもいいよね。その代わり、カスとか変態っていう名詞は僕専用にして、アリシア以外には使用することさえ禁止にするけど」
僕専用か。
なかなか、良い響きかもしれないね、と小さく呟き、さらに、うっとりしたように見えるミカ。
「ええっと?」
突拍子のない、冗談。
「ふざけんなっ!シアが女王様役?!そんなの・・・って、ちょっといいかも・・・って、いや!違う!!」
よくわからないことを叫ぶレオン。
でも、二人は理解しあっているみたいで、そのやり取りを見ていると、
「ふふ」
『!』
思わず笑ってしまった私に、二人が瞠目する。
でも、
「お二人は、本当に仲がよろしいんですね」
一国の王子を前にして言うことではないのに、軽口を許しあう二人の間にある、信頼関係。
羨ましいし、それに、微笑ましい。
「いいな。レオンとミカは、とても仲良しだから、無礼講なのね」
「いやいやいや!シア!いやだ!こんな奴と仲良しにされるの。俺の品位が。品位どころじゃない。存在自体が汚される・・・って、そもそも。そんなことに注目してほしいわけじゃなくてだな!!」
「そんなに照れなくてもいいのに」
でも、きっと。
男の人は、こういう話題が、気恥ずかしいのだろう。
「ふふ」
それも可愛くて、思わず笑ってしまう。
「シア!なんか違う!めちゃくちゃ可愛い笑顔だけど、なんっか違う気がしまくるぞ!」
必死で言い募るレオンを、温かい目で見ていると、
「可愛い」
頭にミカの頬が寄せられる。
「っっ!!この変態王子!どさくさにまぎれて何やってやがる!!」
「ふっ。お友達のレオン君。大人しくしていればいいんじゃないかな」
「こっの・・・俺だってなあ!」
「わっ」
レオンの腕が、私の腰に回され、ぐっと抱き寄せられる。
「っ、殺」
「シアの前」
「・・・」
さっきと同じようなやり取りが繰り返される。
けれど、私は二人に挟まれながら、
(今度は、私も一緒だ)
仲間に入れたような気持ちで。
とても嬉しくて、微笑んだ。
「・・・ったく」
「可愛い」
レオンは困った顔の後に、にこりと。
ミカはどこかうっとりとした顔で、とろんと微笑んでくれる。
(まるで、外に溢れているお花畑のような気持ちだわ)
私も、心のままに、二人に微笑みを返した。
二日連続、更新です!
我ながら、頑張りました!!
サブタイトル入力を忘れたせいで、一度書いた小説が消えてしまいましたが、それでも、頑張りました!(泣)
これも、昨日、感想をくださった方や、読んでくださった方の応援力ゆえです。
ありがとうございました。
この更新速度は、絶対に続きませんが、コツコツ書いていけたらなあと思っております。
お付き合い頂ければ幸いです。