恋の花が咲く(1)
ぶわあっ
一面中、花が咲き誇る。
バラが、ノースポールが、アネモネ、アマリリス、ゼラニュームが。
あらゆる花が眠りの夜に反して、この世の春だとばかりに目を覚ます。
咲き誇る。
その中心にいるのは・・・
「・・・」
呆然とする、ただの恋する男。
風が吹く。
花の花弁が舞い踊る。
月光がそれらを照らす。
闇の中の春。
それは―――まさしく、彼の心の中と同じ――――
「おはようございます!」
「おはよう、アリシア。早いねえ」
「アンナさんも、いつもお早いですよね」
「私はもう歳だからね。おばさんになると、どんどん起きるのが早くなっていくんだよ」
「ふふ」
アンナさんの冗談に笑えば、アンナさんも笑みを浮かべてくれる。
「ところで、外見たかい?!」
「!見ました!すごい花でしたよね。
昨日までは、花があることさえわからないくらいに、全然咲いていなかったのに」
「ああ。おまけにどこからか飛んできた花まで混じってて、一面、花畑、花の絨毯状態だろ!
びっくりしたよ。こんなの、ここに勤めて長い私でさえ、初めて見たよ」
「すごく素敵でしたよね。
でも・・・さっき、通り道にあるぶんだけは集められたのですが、ここは、炊き出し場ですし、人がたくさん通るから、あのお花たち、踏まれてしまいますよね。可哀そう」
「やっぱ、シアは優しくて可愛い女の子だよなあ」
聞こえてきた声に驚く。
振り返れば、
「レオン!」
戸口にもたれかかり、にっと笑い返す彼に、私は駆け寄った。
「レオン!なんだか、久しぶりに会えた気がする。元気だった?無理していない?ちゃんと寝ている?」
「はは!シアはやっぱ、優しいよなあ。あの変態王子が惚れるのも当然だよな。いや、好かれちゃ困るけど」
「?」
「あー、なんでもない、なんでもない。それより、あの花たちが可哀そうだっていうのは、確かにそうだよな。いくら、気持ち悪い力で咲いたとはいえ、花に罪はないしな」
「うん?でも、どうして、こんなに急に咲いたのかな。おまけに、この季節に咲かないものまで混じっていたわ」
「あー、多分。どっかのバカの春が溢れだして、それに感化されちまったんじゃないか」
「??そんなことがあるの?」
「まあ、そんだけ嬉しかったんだろうなあ。・・・一晩中、”幸せ”と、”襲いに行くかっていう葛藤”、とを噛みしめまくって、突っ立てたみたいだし」
また、後半、聞き取れない。
聞き返そうかと口を開きかけると、
「ああ。いいから気にすんな。これも、こっちの話。それより、シア」
両肩をぎゅっと掴まれ、瞳を覗き込まれる。
「俺も、頑張るから」
宣言するような言葉。
その静かな声なのに、籠った気迫、というか。
真剣さに、私はちょっとびっくりする。
でも、
「レオンは十分頑張っていると思うわ。だから、むしろ、無理はしないで?」
肩に置かれた片方の手にそっと両手を添えて、こてり、と首を傾げて、彼の手に頬を寄せる。
「っっっ!!!!!!!!!!」
瞳を閉じて、彼の手に想いを込める。
私はこれでも、彼と長い時間を過ごしてきたのだ。
だからわかる。
レオンは、元気そうに見せているけれど、やっぱり、かなり疲れている。
でも、彼は仕事が終わるまで、絶対に休まないだろう。
(レオンは、自分に厳しいもの)
だから。
(せめて、疲れが少しでもとれますように)
祈ることだけはさせてほしい。
瞳を閉じて、念じた。
お久しぶりです。
あずさです。
短いですが、区切りがいいので、ここでアップします。
半年以上も更新していないので、忘れられているとは思いますが・・・
また、少しずつアップしていけたらいいなあと、一応がんばるつもりです・・・(汗)
また、応援頂けたら幸いです。