番外編:ミーシェの回想
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ばんっ!
急に勢いよく開いた扉に、
会議に出席していた国の重鎮たちは一斉に振り返った。
その先には金色に輝く髪をなびかせた、美貌の、彼らの王子の姿。
「っ」
その姿を見た瞬間、私は息をのんだ。
(あのバカ、ついに・・・)
あの瞳。
キラキラを通り越して、もはやギラギラ、ドロドロ、ピッカピカと輝くあの瞳は。
(『出会ってしまった』のね)
心、血肉湧き躍らせる存在に。
いつもは冬の濁った空を思わせる青い瞳が、今は力強さと情熱に燃え、そして、狂おしいほどの感情を内包して光っている。
「今から隣国を支配下に置くことにしたよ」
ミカエルは突然、そう宣言。
『?!』
室内がさらにざわめく。
けれど、彼はその雑音を一切気にしていない。
これは決定事項なのだ。
「ということで。これから色々と人手がいるんだ。
だから、僕を王位第一継承者にしてくれるかな」
疑問形でも願い出る形でもない。
さっさとしてくれる?
そういう意味の聞き方だ。
皆の困惑した視線が、一斉にこの会議室の長であり、
この国の決定権の全てを有する国王へと注がれる。
「・・・王子よ。本気なのか」
「勿論だよ」
「・・・そなたが、エルラードのために献身すると誓うのならば前向きに考えよう」
あまりに突然の無礼な振る舞いを咎めることなく。
そう譲歩を口にしてくれた王に対し、
王子はにこりと微笑みを返した。
「冗談でしょう。
僕の全てはたった一人の彼女のものだよ。
エルラードごときに献身するわけなんてないよ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
あまりに爽やかな笑顔に、逆に、皆の方が言葉を失う。
けれど、ミカエルは微塵も気にした様子がない。
「でも、幸いだったね。
“僕の彼女”はとても優しくて愛おしい人なんだ。
彼女はきっと国民のことを大切に思うだろう。
だから、この国は、彼女を手に入れられれば、この僕ももれなく付いてくるんだよ。
よかったね」
何て傲慢で、とち狂った言葉なんだろう。
皆がそう思っただろう。
でも、
(確かに、あんたの言う通りなら。
この国にとっては、まさに、奇跡のような吉報ね)
重鎮たちもそれをわかっているはずだ。
眠りまくりのダメ龍が、条件次第では国のために働くと言っている。
(このチャンスに賭けてみないなんて、それこそ、トチ狂ってるわ)
それほどに、この男は。
認めるのがものすごく嫌だが。
でも、確かに、国にとって、『ものすごい利益』になると明言できるほど、
全てにおいて優れた、底知れないほどに優秀な、逸材中の逸材なのだ。
皆の視線の中、王はため息を零す。
そして、
「今日中には答えをだそう」
その答えに、
(そう言うしかないでしょうね)
そう、心の中で呟く。
これは、一部の者しか知らないトップシークレット中のシークレットだが。
実は、この王は本物の王ではない。
影武者なのだ。
本物は、一族の血にそぐわず、密偵という厄介な趣味があって、
今は、大好きな密偵仕事をするために、他国へ行っている。
ほぼ全てを一任されている、優秀な影武者とはいえ、ことは王位継承権にまつわること。
さすがに本物の承諾をとらなくてはまずいので、彼はこう言うしかないのだ。
王子も勿論、これを知っているはずだ。
彼はにこりと微笑み、
「いいよ。
それまで仲間集めでもしてくるから、なるべく早く決定して、決定次第公布してくれるかな。
僕はとにかく、急いでいるんだよ。
権力が大きい方が、人が集まりやすくて早く済みそうだから、早く利用したい」
そう言うと彼はまた来たとき同様扉を自ら開けて出て行った。
嵐のように。
でも、その直前の言葉と一瞬見せた瞳には、本気の色が強かった。
(焦っているの?)
あんたが?
(信じられない)
むくむくと興味が湧いてきた。
(あんたは何に焦っているの?あんたが言った“彼女”って何?)
まさか!
(あんたの特別は・・・人間なの?)
それも、女性?
「はっ」
私は笑った。
(これは大変なことになるわね)
国にとっても、
彼にとっても、
そして。
まだ、見も知りもしない、彼女、も。
(会ってみたいわ)
美しい火薬と火薬の調合による火の花。
それにしか心奪われない私だけれど、でも、ちょっと興味がわいた。
だって、この一族の血をあれだけ色濃く受けていながら
、何にも興味がわかなかった哀れなあの男が、
一族としてはこれもまたありえないことに、
今頃になって、ついに一族ならではの○○バカになったのだ。
これで気にならないはずがない。
私は笑った。
あの男は、全てを手に入れるために、動き出すだろう。
そして、彼にはいずれ、自分の力も必要になるはずだ。
(早く来なさい)
そして、面白いものを見せて頂戴。
ざわめく会議室で、私は一人、まだ見えぬ未来を想像して笑みを浮かべていた。
いつか、必ず訪れるであろう、出会いに思いを馳せながら。