小さな星の行く道は(1)
(元気の良い方だったなあ)
再び静けさが返り、私はぼんやりと空を見上げた。
空には満天の星。
《お前の両親は、この光る星になって、いつまでもおまえを見守っているんだよ》
おばあ様の言葉を思い出す。
孤児だった私を育ててくれた人。
(孤児、か)
先ほどの兵士さんの話を思い出す。
(私には、いろいろなことを教えてくださったおばあさまがいた。
でも、町の孤児にはそんな方いないんだわ)
そう考えて、ふと頭の中を何かが横切る。
<せめて私にもミーシェのように特別な知識があれば>
<とにかく孤児の数が多くて>
「・・・」
私は静かに瞳を閉じた。
ミーシェにしかできない仕事
兵士さんたちには難しい孤児たちの世話
「おばあさま・・・」
私は瞳を開き、答えを探すように天を仰ぐ。
瞬く星が、何かを伝えているような気がするのに、なかなか、答えが掴めない。
もどかしい。
私は視線を落とし、自分の手を見つめた。
「あ」
ふと気づく。
今までは、誰もが、私の触ったものに触れることを拒んだ。
だから、披露する場がとても少なかったのだけれど。
それに、自信がなくて、とても“ある”とは言えなかったけれど。
でも。
(私には薬の知識があるわ)
おばあさまが授けてくださった、小さくとも確かな知識が。
勿論、正式に学校で習った方々に比べれば些細なものだろう。
けれど、この王都に送られるまでに旅し、
立ち寄った小さな村では、薬師がいなくて困る人々がたくさんいた。
(私のように些細な知識でもいい。
けれど、確実な知識がいくつかあれば、それで助かる人もたくさんいるはず)
それに。
黒髪に黒い瞳という異形でなければ、薬の知識はその人自身の生活の糧にもなる。
(知識は人を助けるわ)
自他ともに限らず。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
(おばあさま)
亡き、優しくも厳しかった祖母を思い出す。
(おばあさまが授けてくださった知識は、
孤児の私を助けるには、十分すぎる知識だったはずなのですね)
今までは世界が小さすぎて見えなかった。
異形だからと、全てを諦めていたから見えなかった。
そして、授けてもらっていた知識と言う宝物さえ、勝手に意味のないものだと決めつけていた。
けれど。
異形と言う敷居を取り除けば、
私という人間がいかに小さいかを思い知るけれど、
それと同時に確かな知識があることも思い出せた。
(私のような孤児にも、知識があれば)
そうすれば、生きていくことができるはず。
一度気が付けば、小さくて熱い思いが胸を焦がす。
(おばあさまが私にしてくださったように、両手を広げたぶんだけでもいい。
孤児を助けることができたら)
自分がしてもらったみたいに。
私は広がる空を見上げた。
今すぐに駆けだして、町の外の孤児院を手伝いたい。
そして、場が落ち着いたら、
この些細だけれど確かな知識を子供たちに教えて、小さな村で生計を立てれるようにしてあげたい。
大きな町ではかすんでしまう星も、
きっと、小さな村では輝くことができるから。
(おばあさまが私にしてくださったように)
黒髪の御使いという名として、恥ずかしくない行動をと思っていたけれど。
小さな手でしかないことに変わりはない。
(分不相応な身分を急に与えてもらって、甘受してもそれは私じゃない)
だからせめて。
見方を変えてくださったことを機に、出来ることから始めてはだめだろうか。
それでは、ミカ様たちが揃えてくださった舞台を無にしてしまうことになるのだろうか。
「ミカ様」
(ミカ様がくださった、私自身を見てもらえるこの機会を、
私自身の小さな手で出来るぶんだけのことしかしないのは、
あなたを裏切ることになりますか)
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