一日ぶりの再会
久しぶりの更新で、お話の流れ上、まじめな感じです。
萌えはないかな(汗)
久しぶりのアップなのにすみません。
萌え?は次回、がんばります
「アリシア」
そっと手を取られる。
振り返ればミカ様が私の手をご自分の両手で包み込んでいた。
「ミカ?」
「傷を作ってはいけないよ」
ミカ様の視線の先を見れば私の手には爪の痕がついていた。
ミカ様が止めてくださらなかったら,
そのまま血が流れるまで気づかなかったかもしれない。
(緊張して力が入ってしまっていたのね)
黒髪の御使い。
それはミカ様が、そして、多くの方が協力して作ってくださった、偽物の私。
でも、異形から人の役に立てる人間になるために、私に残された唯一の道。
今は偽物でも、本物にしたい。
皆さんの努力に応えたい。
ミカ様の期待に応えたい。
そう思うとまた手に力が入りそうになる。
「アリシア。大丈夫。僕がついているよ」
「ミカ」
「新しい一歩だよ。頑張っておいで」
私の手にそっと唇を寄せる。
そして、私をくるりと回らせて扉と向かわせ、
「行っておいで」
そっと背を押す。
体に入っていた余計な力が抜けた。
「ミカ、ありがとうございます」
ミカ様が下さった勇気をぎゅっと抱きしめる。
もう大丈夫。
私にはミカ様がいてくださる。
そう思うと傷つくことも怖くない。
(出来ることを一生懸命やるしかないの)
だから、傷ついてもやるしかない。
ミカ様に見られても恥ずかしくない行動をとるだけ。
そうすれば傷ついてもきっと何度でも立ち上がれる。
私は一日ぶりの、調理場へと足を向けた。
そして、扉を開け放つ。
「し、失礼します!」
一瞬噛んでしまったけれど、大きな声で挨拶できた。
その声に、忙しく働いていた皆の動きがぴたりと止まる。
一斉にこちらに視線を向けられた。
心臓が爆発しそうなくらいドキドキいっている。
「あの」
「アリシア!」
「うそっ、本物?!」
私の言葉をかき消して、皆が騒ぎ始めた。
同僚だった皆がわっと近寄ってきて、私を取り囲む。
「あんたが隣国の王子様に頼んでくれたって本当なの?!」
「町では食べ物が行きわたってて、皆すごく喜んでるよ!」
「王子様と知り合いだなんてどうして言ってくれなかったのよ」
きゃあきゃあと興奮気味の皆に、私はしどろもどろする。
それに、質問の内容。
尋ねられても答えられるはずがない。
私は一切かかわっていない。
全て、ミカ様がしてくださったこと。
「あの」
何も言えなくて言葉に詰まったとき、
「でも、昨日は隣国が攻めてきたから逃げろって言いに来たよな?」
「ああ」
「知ってたならなんだって混乱させるようなことを言いに来たんだ?」
不思議そうに何気なくそう呟いた声が、とても大きく聞こえた。
「それは」
私が勝手に行動したせいで、ミカ様たちの計画に穴が出来てしまったことを悟る。
(私がおとなしく部屋にいればこんな疑問が出ることはなかったのに)
どうやって誤魔化せばいい?
一瞬そんなずるい考えが浮かんだ。
それを振り払うように首を横に振る。
(ううん。誤魔化す時点で間違っているわ)
何の努力もせずにミカ様たちがくださった,
過剰な評価を甘受しようとした罰なのだろう。
嘘はこんなにも早くほころびを見せた。
(でも、きっとこれでいいんだわ)
正直に言おう。
(ただし、ミカ様たちの努力を水の泡にするようなことまで言ってはいけない)
そのためにはどうしたらいい?
一瞬のうちに頭がフル回転した。
そして。
私は顔をあげてみんなを見つめた。
「隣国の王子様と出会ったのはずいぶん前です。
それからは連絡さえとっていなかったのだけれど、
殿下は私との出会いを機に、
この国の行く末を考えてくださったみたい。
そして、こうして今回、国の解放を行ってくださったの。
私は、殿下がおっしゃるような偉業何てしていません」
「じゃあ、もしかして、
今回こんなふうに国が解放されるって知らされていなかったの?」
こくりと首肯する。
「殿下のお心に私のどんな言葉が影響を持ったのかもわかりません。
でも、そうして気にかけて行動してくださったのは、全て殿下のお心ゆえです」
皆がじっと私を見つめる。
私はその視線を受け止めて、
「すみません。
殿下が言ってくださるほど私は役に立つ存在ではないんです。でも」
「だったら余計にあんたに感謝するよ」
「アンナさん」
ずいっと人ごみの中現れたのはアンナさんだった。
「偉い人たちの間で何があったかなんて、あたしたち下っ端には微塵もわからない。
でも、あんただけが私たちを気にかけてくれたのは事実だ。
だから、感謝するよ。
あんたは確かに私たちにとっての黒髪の御使いさ」
言葉を切ると、アンナさんは深く頭を下げた。
「本当にありがとう」
「アンナさん!」
慌てて頭を上げてもらおうと近寄ったけれど、
「ありがとう」
「ありがとう」
アンナさんに続くように皆が頭を下げてくれる。
「皆さん・・・こちらこそ、ありがとうございます」
私も頭を下げた。
こんな私に感謝してくれるなんて。
「こらこら。あんたまで頭下げてちゃ何のためかわかんないだろ」
アンナさんが苦笑する。
顔を上げると、アンナさんにつられて皆も顔を上げ、笑い出す。
私も思わず頬を緩めていた。
「すみません」
「ふふ。あんたはやっぱりあんたなんだね」
「え」
「いいや。なんでもないよ。
さあ!それより。調理場は今日も大忙しだよ。
この国の復興のために力を貸してくださっている騎士様たちに食べて頂くんだ。
皆、気合入れていくよ!」
『おう!』
アンナさんの言葉に皆が答える。
そして、
「アリシア。また後で話を聞かせてよ」
「アリシア。本当にありがとうね」
そう言ってそれぞれの仕事へと戻っていく。
その背を見送ってから、
「アンナさん」
「わかっているよ。あんたには騎士様たちへの配給の仕事をしてもらうからね。
何杯も汲むから結構力のいる仕事だよ。頑張りな」
「はい」
「・・・アリシア」
「はい」
「あんた、本当はこんなにも綺麗だったんだね」
「え」
「いいや。なんでもないよ!さあて、仕事だ。仕事」
「・・・」
誤魔化すようにアンナさんは去って行く。
私はその後ろ姿を見つめながら、何かが変わった気がしていた。