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番外編:アルティウス

もうすぐ70万アクセス、11万人ユニークユーザー様を迎えますので、感謝の気持ちをこめて、番外編をアップさせて頂きます。

皆様、いつも読んで頂きありがとうございます。

とても励みになります。

がんばりますので、これからも、よろしくお願いいたします。

君は僕の大切な人。



これは、穏やかなある日の、ちょっとした一時のお話。





<アルティウス編>






うららかな午後。


城の裏手にある、広い森。


その奥にある泉の傍は水のせせらぎと風が心地よく、

私は時折、そこを訪れては忙しい日常を休んでいた。


目を瞑り、ただ、自然の中に意識を溶け込ませる。


そんな静かな時間に、ふわりと、花の気配が近づくのを感じる。



「アルティウスさん?」



柔らかな声が眠る私の耳をくすぐる。

意地の悪い私は、優しい声と気配に気づいていながらも、

もう少し、この時間を楽しみたくて。

瞳を閉じたままにする。


かさり、かさり。


草を踏む音が近づく。


そして、私の真上から柔らかな声が落ちてきた。


「アルティウスさん?」


小さくて、伺うように零される声。


「気持ちよさそう」


くすり。


微笑んだのがわかる。


(もったいないことをしましたね)


意地の悪い自分に、天はささやかな罰を与えたようだ。


微笑んだアリシア様のお顔を見れなかったのを残念に思いながら、

私はまだ、眠った振りを続けた。


「いつも、とてもお忙しいですものね」


そう言って、アリシア様が傍らに座る気配がした。

そして。


ふわり。


柔らかな何かが私の体を覆う。


(これは、アリシア様の?)


大きさと肌触りからして、身にまとっていたケープだろう。


季節は未だ肌寒い。


(あなたの方が風邪をひいてしまう)


そう、思うのに。


心の中のどこかが、甘く痺れる。


こういうことを、さらりとしてしまうあなただから。



私は、瞳を開いた。


「おはようございます」


開けた瞳の先には、柔らかな黒髪。


「!おはようございます」


突然目を開けた私に、アリシア様は一瞬驚くけれど、

すぐに優しい微笑みが返してくれた。


「起こしてしまいましたか?」

「いいえ。実は、最初から眠ってはいなかったので」

「そうだったのですか?

ふふ。アルティウスさんは、意外と、いたずらっこさんなんですね」


楽しそうに笑うアリシア様から、目が離せない。


「ええ」


返事を返しながら、手を伸ばす。


「?」


何の警戒もせず、アリシア様はただ私の行動を見守っている。


可愛い人。


そして、可愛いくて、憎らしい人。


「そんなにも安心されては、手が出せないですね」


笑って。


私は、柔らかな手を取り、口づけた。


「!」


驚くアリシア様の手を離さず、上目づかいで彼女を見つめる。


「眠り姫はキスで起きるものですから」

「そ、そうなのですか??」


頬を朱に染めて、動揺しているアリシア様は、

一瞬不思議そうな顔をしたけれど、最終的には私の言葉に何故か納得したようだ。


「ええ」

「アルティウスさんは物知りなんですね」

「亀の甲より年の功ですよ」

「?」

「ところで。もしかして、アリシア様は絵物語をあまりご存じないのですか?」

「・・・はい」


悲しそうに、寂しそうに微笑むアリシア様に、私はとても良いことを思いつく。


「よかった。では、私にも出番がありそうですね」

「?」

「よろしければ、絵物語をお話ししますよ。

とても可愛らしい絵が付いた絵本と一緒に」

「!」


アリシア様の瞳がキラキラと輝く。


「絵本!私、一度だけ見たことがあるんです」


うっとりと、過去に見たという物を思い浮かべているアリシア様に、

キスしたい衝動を抑えがなら、それと同時に、彼女の悲しい過去を思う。


(王子ではなくても、憎くなりますね)


アリシア様を悲しませた、心無い人々の存在が。

けれど。


(過去の分まで、優しくしてさしあげますから)


「アリシア様。

では、さっそく今宵から、眠る前には絵本を持って、必ず伺いますね」

「!はい」


嬉しそうに微笑む貴女。

私も知らず、笑顔になる。


(なんて、愚かなのでしょう)


こんな小ずるい手に易々とかかって、狼の侵入を許してしまうなんて。


そして。


(なんて、なんてずるいのでしょう)


嬉しそうな微笑みは。


私などよりもずっとずっとずるい。


(手なんて、出せるはずがない)


向けられる信頼と愛情。


それを裏切って、もし失ってしまったら?


怖い。


怖くてたまらない。


だから、手が出せない。


(私を変える愛しい貴女)



愛しています。



その秘密の言葉を、いつか、必ず、貴女に囁きたいと思う。





「させると思う?」




この場にはあまりに不釣り合いな。

それでいて、この場に必ず来るだろうと思っていた、予想通りの声が背後から聞こえた。

背後の人物からは、ものすごい魔力が噴出している。


(はいはい。こうなることは、もちろん、わかっていましたとも)


私は笑顔で振り返った。


「アリシア様のお願いですよ?」


振り返った先にいたのは、ストーカーかつ変態の名を欲しいままにする、害虫王子。


(このクソガキ)


心の中で毒ついて、顔にはしっかり笑みを浮かべる。


どんなに強い魔力を持っていても、亀の甲より年の功。


経験というのは、魔力とはまた違った力なのです。


特に、恋ではね。


「ねぇ?アリシア様」


私は繋いだ手を再び唇に寄せ、にっこりと、アリシア様だけを見つめた。


「あ、アルティウスさんっ」


困った顔をしながら、真っ赤になる可愛い顔に、愛しさが吹き荒れる。


ぶちっと何かが切れる音がしたけれど。


私の恋路は邪魔できないのだと、知ってくださいね。


オウジサマ?




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