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私の価値



「今までのお話は本当、なのですか」


躊躇いがちに聞くと


「うん」


あまりにもさらりと返された返事に困惑する。


「ミカ。あの、私の自惚れだと思うのですが。

でも、その・・・あなたはとても私を大切に思ってくださっているような気がするのです」


「自惚れ?ふふ、全然わかっていないね」


柳眉が歪めらる。


狂おしいほどの何かを秘めた瞳が、苦しげに見える。


(目が、離せない)


瞳が囚われる。


「アリシア。僕が大切なのは君だけだよ。

僕にとってアリシアはこの世でただ一人の人なんだよ」


「?!」


私は一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


この世でただ一人の人?


誰が?


私が?


そんなの、嘘だ。


「私はあなたにそのようなことをして頂けるほど価値がある人間では」


「それは違うよ。アリシア」


言いかけた言葉を遮るミカ様の声は優しいけれど、瞳には焦燥が含まれている。


そっと手をとられ、ぎゅっとミカ様の両手に包み込まれる。


「大丈夫。今からが始まりだよ。君に教えてあげる。君の価値を」


「私の、価値」


記憶がフラッシュバックする。




あんな子、いなければいいのに!


気持ち悪い。


痛い、ひどい!あの子の呪いよ!


ばあさんも、何もあんなの拾わなくてもなあ。


いい迷惑だよ。





村のやっかいものがこうして役にたつことが出来るんだ。嬉しいだろう?






それが――――――――――――私の価値。



そんなの。



「知っています・・・!!」



(どうか。どうか、思い知らせないで)


「私は醜くて人を不快にさせるだけの、いらない存在です」


価値なんてない。


(十分に知っているから)


「ここまでして頂けるほどの価値なんてない」


「アリシア!」


怒号と共に、私の手を掴んでいたミカ様の手に力が入る。


痛みに、思わず背けた顔を戻す。


瞳に映ったミカ様の青い瞳には強い怒り。


「いくらアリシアでもアリシアを傷つけることは許さない」


本気の声に、一瞬、体がこわばる。


でも、私の心は悲鳴を上げていて、言葉がこぼれる。


「私は知っているだけです」


自分の価値を。


価値がないことを。


痛む心が悲鳴を上げる。


思わず、挑むように強い瞳でミカ様を見ていた。


けれど、そんな私にミカ様は首を横に振る。


「アリシア。君は僕を変えた」


ミカ様が切なげに私を見つめる。


「無価値だったのは僕の方だよ。

何もかもがどうでもよくて死んだように生きていた僕を君が変えた。

人を変えた人間に価値がないとでも言うの」


「!」


「アリシア。僕を幸せにして」


「私が?」


出来るはずない。


私は人を不快にさせることしかできない。


けれど、ミカ様はまるで私の心の内を読んだように首を横に振る。


「違うよ。君にしかできない」


「わかりません!」


がたりと勢いよく立ち上がったせいで椅子が倒れる。


けれど、私は止まらない。


「どうしたら人を幸せに出来るかわからないんです」


本当はこの優しい人たちに何かできたらと願う。


しようと思う。


けれど、幸せに何てできない。


だって。


「だって・・・誰かを幸せにしたことなんてないんです」


小さくつぶやいた言葉に、皆が息をのむ。


けれど、ミカ様は勝手に激昂して止まらなくなった私の手をそっと両手で包み込み、

そのまま、自分の頬に寄せる。


「だったら僕をアリシアの初めてにして」


ミカ様はにっこりとほほ笑んだ。


「アリシア。何度だって言う。

君が大切で愛おしくて仕方ないんだ。

君がくれるものなら不幸でも苦痛でもきっと愛しい。

だから、君が僕を幸せにできないことなんてありえない。

僕ほど、君の初めてに相応しい人間はいないよ。何の心配もしなくていい」


「それは」


何かが違う気がする。


眉をしかめた私に対し、ミカ様のテンションはどんどん上がっていく。


「アリシアの初めての相手。

なんて素敵な響きなんだろうね。

痛くても苦しくても、素晴らしすぎるに決まっているね。

ああ。でも、きっと君は優しいから僕にとっては痛みでないことも、

君は申し訳なく思うんだろうね」


「苦しいことなんて幸せじゃありません」


ミカ様はふふっと笑う。


「ほら。やっぱりアリシアはわかっていない。

アリシアがくれるものなら、僕にとってはどれほど幸せなものか。

でも、君にそんな顔をさせるのは僕も嫌だよ。

君が笑ってくれる方がずっともっと嬉しい。

そして、君が幸せなら僕も幸せを感じられる」


私にそんな価値はない。


そう言いたいのに、ミカ様の瞳があまりにもまっすぐ過ぎて否定できない。


「・・ほん、とうに?」


なんて図々しいのだろう。


でも、私の口からはそんな問いが零れていた。


その問いに、


「本当に決まっているよ」


ミカ様は満面の、“幸せそう”な笑みを浮かべてくださる。


「っ」


信じたい。


報いたい。


「・・・私でも、できますか」


「君にしかできないよ」


呪文のよう。


同じことをバカみたいに聞いているのに、ミカ様はまっすぐに答えてくださる。


私の心の何かがパキンと音を立てて崩れた。


「私も、信じたいです」


「君自身を?」


こくりと頷く。


「ミカ」


「うん」


「あなたの言葉に報いるよう、

あなたがしてくださったことに応えられるよう、

うぬぼれて、頑張ってみてもいいですか?」


「!」


ミカ様はぎゅっと私を抱きしめた。


「当たり前だよ!」


ぎゅううっと抱きしめられる。


(温かい)


温かいことは幸せに似ていると思う。


(ミカ様も温かいと思ってくださっているかな)


「まずは何から始めたらいいのでしょう」


「それはもちろん色々」


にっこり。


笑うミカ様の後ろに黒い何かが見えるような。


(?)


「って、おい!」


ぐんっと後ろに思いきり体をひかれ、

そのまま、ミーシェの背にかばわれるように、隠される。


「珍しくいいこと言うと思ったら、この変態!

アリシア!こいつの手管に飲まれちゃ駄目よ!美味しく食べられるわよ!!」


「?」


「さすが王子ですね。外道」


「アリシア。あなたが思うほどこの人は綺麗ではない。気を使う必要もない」


「ふふ。何のことかな。消そうかな」


「とにかく!アリシア!

この変態バカ王子が珍しくいいことしたこの機にのっかって、

まっとうな評価の下を歩いていけばいいのよ!」


「まっとうな評価」


「そうよ。あなたはその容姿のせいで個人としてみられてこなかった。

そんなのまっとうな評価じゃないわ。誰もあなたを見てないんだもの」


「そうですよ。アリシア様。

今までの貴女に対する評価は異形と勝手に決めつけられた周囲による虚像です」


「アリシア様。俺たちがいる。怖がらずに出来ることからしていけばいい」


「みなさん・・・ありがとうございます」


「ほらほら。そんなにしんみりしないで」


ミーシェは私の肩を優しく押して、椅子に座らせてくれる。

そして、温かい紅茶を注いだカップを手渡してくれた。


「ほら。これ飲んで少し落ち着いたらまた話の続きをしよう?」


「うん」


一口、こくりと飲めば、


(温かい)


包まれる優しさと言う温かさ。


(幸せ)


私の頬を一筋の涙が走った。





大分前から書けていたのですが、

前回とのつなぎを考えるとどうかなと思い、悩んで・・・結局そのままアップしました。

ミーシェという親友を得て頑張ろうって思ったアリシアですが、

それでもやっぱり、持ってる劣等感はぬぐいきれない。

それを何とかしてくれるのは、やはり、彼しかいないかな、と吹っ切って、

アップしました。

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