真実(6)
皆様のお力のおかげで、小説を読もうの恋愛部門で、一瞬でしょうが、ランキング一位をとらせて頂けました。
皆様、いつも本当に、ありがとうございます。
これからも、これを励みに頑張らせて頂きます。
「あの、みなさん?」
何かをコソコソとしゃべっていらっしゃったので、遠慮しながら声をかけたのだけれど、
「アリシアは気にしなくていいから。
んで、続き。続きを話しなさいよ。アルティウス」
「ええ、それでですね。
残りの二年は情報収集と敵味方の選別に明け暮れました」
「間者のエキスパート、まあ、うちの国の王様なんだけどね。
彼に頼んで優秀な間者を分けてもらったり、
私たち自身も色んなところに潜り込んだりして、誰がどういう人間なのかを徹底的に調べたわよ」
王様が患者のエキスパート?
気になったけれど、私は話を先に進めることにした。
「協力者を得るために、ですか?」
「それもある。
だが、エルラードの国を支えるのは、たとえ国がなくなってもエルラードの民の方がいい」
「そうそう。
腐ってる国の中にだって頑張ってる人たちはいる。
そういう人たちなら国が潰れた直後でも民のために働いてくれるし、
そういう人たちに協力してもらわないと、正直、異国の私たちじゃ勝手がわからないところもあるのよね。
で、混乱を避けるためにも事前にイスターシュの内情を調べたの」
「逆に火種になりそうなのは、きちんと消しておかないといけませんでしたから。
徹底的にやりましたよ」
「おかげで今頃は手筈通り、俺たちが認めた者たちが尽力して、
民が混乱しないように復興作業を行ってくれているはずだ」
「でも、これだけしててもやっぱり予想外のことって起きるものなのよねぇ」
「ああ」
ミカ様がひやりと冷たい、どこか遠いところを見るような目になる。
そんなミカ様の心の内に同意するように、皆さんもわずかに視線を下ろす。
そんな中、ミーシェの歯ぎしりが聞こえた。
「レオンの馬鹿が、馬鹿王子の命で定例報告のために村を離れた隙に、
これまた救いようのないバカが、貴女をイスターシュに送ったのよ」
「あのときのこと。思い出すと村を消しそうになるね」
さらりとミカ様が私の頬を撫でる。
けれど、そのゆったりとした口調に反して、目は全く笑っていらっしゃらない。
「ほんと。あのとき王子。暴れ倒していたわね。
魔力も暴走しそうになってたし」
「王妃様の必殺パンチで眠らせなかったら危なかった」
「そういうわけで、じっとしていられなかった王子は、計画の一部を変更して、
貴女を守るために側室候補として王宮に潜り込みました。
村ではレオンが貴女をかばっていましたが、
王宮に貴女の味方のための人間を用意していませんでしたから」
「私は爆破や陽動作戦をするために潜り込んでいたから、
表だって貴女をかばうわけにいかなかったし」
悔しそうにそう言うミーシェに私の心は幸せでいっぱいになる。
ミーシェはそんなにも大変な状況の中でそれでも私に心を砕いてくれていたのだ。
「そうだったのね。ミーシェ。あ。ミーシェ様」
「やだ!!様なんてつけないで!!嫌いにならないって言ったのに!!」
わっとミーシェが泣きそうになりながら叫ぶ。
「ご、ごめんなさい。ミーシェ。でも、あなたは王家の」
ぶんぶんとミーシェは首を横に振る。
そんなに振ったら首がとれてしまいそう。
「ミーシェ。泣かないで。ごめんなさい。
あの・・・あなたさえ許してくれるのなら、これからも、その、
まるで友達のように接せさせて頂いてもいいかしら?」
それはあまりにもわきまえない願い。
でも、
「私たちもう友達でしょ!親友よ、親友!今さら何言ってるの!」
怒ったようにそう言われて、
(友達。親友・・・?)
じんわりと心の中にしみていく。
「友達、親友・・・本当に?」
「あたりまえでしょ!親友以外の誰が命を顧みずに助けに来てくれるのよ!」
心の中がいっぱいになる。
(私に、親友)
それも、ミーシェのような素敵な人が。
「やだ・・・信じられない」
思わずこぼれた言葉に、
「やだ?!信じられないくらいに私と親友っていうのが嫌?!
やっぱり私、爆破娘だし」
いつの間にかミーシェが私のそばに立っていて、顔を真っ青にしていた。
私は慌ててぶんぶんと首を横に振る。
「ちがう!違うわ!すごく嬉しくて。嬉しすぎて信じられないって思ったの」
「アリシア」
ミーシェが驚きに瞳を大きく見開く。
私は言葉をつづけた。
「私、親友なんてはじめてなの。
それも、ミーシェみたいに素敵な子が・・・本当に?」
「アリシア、当たり前じゃない!これは現実よ!」
ミーシェの手が私の頭に伸ばされる。
そして、ぎゅうっと抱きしめられる。
「ミーシェ」
気持ち悪くないの?
抱きしめられた瞬間に思ったのは、そんな疑問。
でも、ミーシェは肌のぬくもりで何かを伝えようとするように、
とても強く抱きしめてくれたから。
私の心に、彼女の心がじわりと流れ込んでくる。
(幸せ)
ミーシェもそうなのだとわかる。
「本当は私、ずっと言いたかったの。貴女と親友になりたいって」
ミーシェに抱きしめられながらそう伝えれば、
「私もよ!」
嬉しそうな声が返ってきた。
『でも、私は爆破娘(異形)だから相応しくないって思ってた』
二人の声が重なる。
ミーシェがぱっと私の頭を放した。
そして、二人目を合わせ、
『そんなこと、気にするわけないわ』
声が見事にはもる。
私たちは互いにきょとんと目を丸くし、
「ふふ」
「あはは!なんかおっかしい」
「私たち同じように悩んでいたのね」
「そうね。でも、これぞ親友って感じじゃない?」
「うん。・・・ミーシェ。改めてお礼を言わせて。
私、一人で王宮に連れてこられてとても不安でさびしかった。
でも、貴女がいてくれたから。
辛くても楽しかった。いつも貴女に救われていたの。
本当にありがとう」
「やだ。アリシア。お礼なんて言わないで。
あたしは全然役に立ってなかった。
貴女はどんなに虐げられてもそれが普通って顔してて。
あたし、自分がすごく情けなかった」
「ミーシェ」
そんなふうに思ってくれていたんだ。
(嬉しい)
「ありがとう」
「やだー、やばい!あたし、こういうのマジ弱いんだって」
テーブルクロスを引き上げて涙を拭くミーシェに私はひそかに決意する。
親友だと言ってくれたミーシェ。
彼女が助けてくれていたみたいに、今度は私がミーシェの力になりたい。
そして、
「ミカ」
私のために動いてくださったというミカ様に視線を移す。
胸の前で結んだ手をぎゅっと握りしめ、ミカ様を見つめる。
ミーシェとの関係がとても素晴らしいものに落ち着き、
少し落ち着きを取り戻した私には、
ミカ様に言うべきこと、確認すべきことが浮かんできていた。
こちらに向けられるミカ様の眼差しにはまだ、少し、
言葉がまとまっていない私に対する配慮の気持ちがこもっているのがわかる。
急がなくていいんだよ。
そんな声が聞こえてきそうな優しい瞳。
私は一度深く深呼吸をし、そして、ミカ様にお声をかけるべく、口を開いた。