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間章:朝食をあなたと




朝食だから軽めの内容になっているはずなのに並べられた食事はとても豪華だ。

目の前のメインのお皿には熱々のスクランブルエッグ。

湯気をのぼらせるパンは五種類。

ジャムやバターなどが十種類近くあり、

果物は鮮やかに盛り付けられていて、飲み物はグラスに三種類も出されている。

どれから手をつけたらいいのか、それに、貴族の方々のマナーも分からなくて、私は戸惑うしかない。


「アリシア。ほら、あーん」

「えっ」


横を見れば、ミカ様が一口大の、ジャムがたっぷりのせられたパンを私の口元に運ぼうとしていた。


「あ、あの」

「ほら。あーんして?」


これが正しいマナーなのだろうか。

にっこりとほほ笑まれれば何だか逆らえなくて。

私は戸惑いながらも口をそっと開ける。


「ふふ」


嬉しそうにミカ様が微笑み、口の中にパンが入れられた。


(わあ)


体の中が感動でいっぱいになる。


(こんなにおいしいもの、食べたことないわ)


パンは混じりけのない小麦の味がして、しっとりと甘く、添えられたたっぷりのジャムは素材の甘さを生かしながらも砂糖がしっかり使われているのがわかる、上品でしっかりした甘さ。


「おいしい?」


こくこくと頷く。

ミカ様は笑みを深くした。


「じゃあ、もっとたくさん食べさせてあげるね」


そう言ってまたパンに手を伸ばそうとなさるので、私は慌ててその手を止めた。


「ミカ。ミカにそのようにして頂いてばかりにはいきません」


そう言って、少し戸惑ったけれど、パンに手を伸ばし、小さくちぎってバターを塗る。

そして、


「あ、あーん?」

「!!」


恥ずかしい。

でも、ミカ様にして頂いたのにして返さないわけには。

私は顔を真っ赤にさせながら、ミカ様にパンを食べさせようと手を伸ばす。

けれど、ミカ様は何故か固まっていた。


「ミカ?」

「え。い、いや。その」


真っ赤になってしどろもどろするミカ様。


(やっぱり、私からしてはいけないような失礼なことだったんだわ!!)


私は慌てて手を引っ込めた。


「申し訳ありませんっ」


お皿に慌ててパンを置こうとする。


「ま、待って!」


その手をミカ様に掴まれた。


「その・・・た、食べさせてくれるの?」

「?はい。ミカが許してくださるのなら」


私の返事にぱっとミカ様は嬉しそうに微笑む。

そして、


「お願いします」

「はい」


ミカ様が喜んでくださっていることが嬉しくて、私は少し緊張しながらパンを手に取り、そっとミカ様の口元へ運ぶ。


ぱくり。


ミカ様がパンを口に入れたとき、ちろりと熱い舌が指にあたる。


(どうしよう。なんだか、すごく恥ずかしい)


頬に血が集まるのがわかる。

戸惑っていると、


「すごい」


ミカ様の呆然とした声が聞こえた。


「?」


顔を上げると、ミカ様が不思議そうな顔でパンを見つめていらっしゃった。


「すごいね。アリシア」


こちらを向き、二コリと褒められる。

けれど、私は何を褒められているのかわからなくて首を傾げた。


「物を食べておいしいと思ったのは初めてだ」


(え?!)


じょ、冗談だよね。

私はびっくりしてミカ様を見つめる。

けれど。


「冗談じゃないよ」

「でもミカなら美味しいものをたくさん召し上がってきたはずでは」


素朴な疑問を口に乗せれば、


「僕には心がなかったんだよ」

「?」

「アリシア。もう一口、食べさせてくれる?」

「はい」


私はもう一口ぶん、パンを千切って、次はジャムを塗った。

先ほどミカ様が私のパンに塗ってくださったものだ。


「あーん」


私の言葉にミカ様は素直に従って口を開け、そして、ぱくりと召し上がる。


「ふふ。やっぱり美味しい」


(本当に幸せそう)


「アリシア。もう一口」

「って、いつまでやらせるのよ!あんたは!」

「アリシア様。テーブルマナーに食べさせあうというのはありません。全てはこの王子の姑息な策略です」

「!!」


アルティウスさんの言葉に衝撃を受ける。


(そ、そんな。だったらなんて恥ずかしいことを)


「アリシア様。アルティウスの言った通りだ。全ては王子の勝手な我儘だ。無垢なあなたを騙した小ずるい策略。あなたが気にすることではない」

「グレンさん」

「ちょっと許すとどこまでも図々しく入り込んでくるのがこの王子よ!アリシア。気をつけなさい」

「は、はい」


ミーシェの気迫に押されて思わず頷く。


「正しいテーブルマナーはこうよ」


そう言って、ミーシェは一つ一つ説明しながらお手本を見せてくれる。


「って、感じ。どう?わかった?」

「うん。やってみるね」


見よう見まねでやってみる。


「うん。そうそう。順番やだいたいの所作さえできてれば後は適当でいいからね」

「うん・・・でも、変なところないかな?」

「大丈夫。とてもお上手ですよ。アリシア様」

「アリシア。これが気に入ったの?」


ミカ様がフォークにさしているのはパイナップル、と呼ばれる南国から取り寄せられた果物。

酸味があるけれど甘くておいしいそれが、実は私はとても気に入っていた。


(でも、どうしてわかったのかしら)


「アリシア。食べさせてあげる。ほら、あーんして」

「って、あんたはまたそれかい!」

「ああ。緊張しているんだね。だったら、口移しでもいいよ?」

「え?え、ええっと」


(ミカ様はとても親切な方なのね)


でも、口移し何て恥ずかしすぎる。

それに私は口移しででなくてもちゃんと食事ができる。


(でも、断るのも失礼な気がするし)


困惑していると。


「あんたというやつは・・・」


ガタガタガタ。


テーブルが揺れ始める。

ミーシェの方に視線を移せば、ぶるぶると震えながら、ミーシェはテーブルクロスを掴んでいる。


「どこまで変態なんじゃーい!!!」



ミーシェの投げた大きなお皿が宙を舞った・・・。


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