真実(3)
ご無沙汰してしまいました。
すみません。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
「アリシア、気づいた?」
「え?」
「やっぱり気づかないか。実はここ、イスターシュじゃないの」
「!」
「昨日のうちに王子が勝手に魔法でエルラードに帰ってきちゃったの」
ミカ様(心の中では様を付けさせて頂こう)を見上げると彼はずっと私を見ていたみたいで、すぐに目があった。
「本当ですか」
「あそこは煩くて君が起きてしまうといけなかったから。大丈夫。向こうのことは信頼できる働き者に任せてあるし、僕もたまには行くから」
イスターシュとエルラードは馬車で行けば一月以上もかかる。
それなのに、一晩で?
魔法とはそんなにも何でも出来るものなのだろうか。
「アリシア様。この人が特別なだけですから。普通はできません。まあ、私クラスになるとそのくらいできますけど」
「ちょっと全然さりげなくない自慢は止めなさいよ」
「自慢に聞こえましたか?」
「あー、あたしの周りってどうしてこうウザい奴ばっかりなのかしら」
「ミーシェ」
「ああ、アリシアは違うわよ。貴女は私の唯一のオアシスよ!」
笑顔が返されてほっとする。
「着いた」
それほど大きくはない、でも、金の装飾がふんだんになされた上品で綺麗な扉の前にたどり着いた。
グレンさんが扉を開いてくれる。
「すごい」
私は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
白を基調としたその部屋は繊細なシャンデリアが部屋の中心を飾り、壁や柱には鳥や鳥かごなどが繊細に彫刻されて一枚の絵のようになっている。
部屋に窓はないが天井からは朝日が差し込み、部屋の中を明るく照らしている。
そして、部屋の中央には10人は座れる長いテーブル。
染み一つないテーブルクロスに覆われたそれは、部屋にとてもあっていた。
「さあ、こちらへどうぞ」
「アリシアはこっちだよ」
案内してくれようとしたアルティウスさんの手を叩き落とすと、ミカ様は私の手を取って私を席へと座らせた。
ばしっとすごい音がしたのでアルティウスさんが心配でちらりと後ろを振り返ったのだけれど、ミカ様が後ろに立っていらっしゃって見えない。
「振り返って見つめるくらい、僕が好き?」
甘く蕩けるような目でそう言われているような気がするのは、きっとものすごい自惚れだとはわかっている。
でも、そのくらい甘い笑顔でそう言われては、後ろのアルティウス様にお声をかけにくい。
(アルティウス様、すみません)
心の中で謝る。
「はい、アリシア。こちらへどうぞ」
ミカ様がとても自然な動きで椅子を引いてくださる。
私は恐れ多くて戸惑ってしまったけれど、それ以上に、
「ひいっ!」
ミーシェがおばけでも見たみたいに顔を蒼白にさせて引きつった叫び声をあげた。
それに、
「王子が椅子を引いている。信じられん」
「明日は鉛でも降ってくるかもしれませんね」
グレンさんやアルティウスさんの意見に私もようやく正気に戻る。
(そうよね!)
王子様にお椅子を引いていただくなんてありえないわ!
「すみません!私がお引きします」
そう言って代わろうと手を伸ばしたら、
「アリシアは僕のお姫様だから」
にっこりと、そして、有無を言わせない迫力を持ちながら腰を抱かれてそのままエスコートされてしまう。
絶妙な椅子の動かし方でルカ様は椅子を戻し、私はぽすんと椅子に着地した。
そんな私を満足そうに見つめるとルカ様はご自身で椅子を引かれ、隣の席に座られる。
「せめてアリシアを二番目の席にしなさいよ。そうしたらもう一人、隣に座れるのに」
ミーシェが私の向かいの席に座りながらそう言い、
「どこまで心が狭いんでしょうかねぇ」
その隣にアルティウスさんが座る。
「二番目の席、ですか?」
「アリシア様の席は一番偉い人間が座る場所だ」
さらにその隣に座ったグレンさんの言葉に、
「申し訳ありません!」
私は慌てて立ち上がろうとした。
でも、椅子を引こうと押してもぴくりとも動かない。
「アリシア」
いつの間に立ち上がったのか。
ミカ様が私の後ろに立っていらっしゃった。
どうやら、椅子が動かなかったのはミカ様が押さえていらっしゃったからのようだ。
私が椅子を引くのを諦めて椅子から手を放すと、椅子を押さえていたミカ様の手が私の肩へと移動する。
「ダメだよ。他の席になんか行ったら。誰かが君の隣に座るかもしれない」
(?)
座ってはいけないのだろうか。
「アリシア。この人決めたことは譲らないから座っときなさい。あと、位なんてしょうもないことは考えなくていいからね!」
「でも」
「いいから」
ミーシェがそう言うのならそうした方がいいのだろう。
「わかりました。みなさん、すみません」
「いや、俺の言い方が悪かった。地位という意味で席の話をしたんじゃないんだ」
「そうですよ、アリシア様。皆、貴女の隣に座りたいだけなのです」
「?」
どうして私の隣などに座りたいのだろう?
「ああ。お腹減った。それじゃあ、料理を運び始めてもらうわね。話は食事の後よ」
ミーシェの言葉に、控えていたメイドの方たちが料理を運び始める。
私はメイドの方に給仕されるような身分ではないのに。
「アリシア。あんたはもうすごいことになっちゃっているからこんなことでビクビクしてたら身がもたないわよ」
同じ下働きだったはずなのに、ミーシェは給仕されることになれているようにそう言った。
ミカ様たちへの気心の知れた態度。
それに、勝手知ったる、という慣れた感じ。
(ミーシェは本当は一体どんな立場の人なんだろう)
知っていたはずの同僚がひどく遠い存在に思えて、私は小さく震えた。
食事の後には何が待っているのだろう?