真実(2)
(と、扉が・・・)
呆然とする。
そんな私に対し、
「アリシア。怪我はない?朝から爆破なんて野蛮な真似よくできるよね」
ミカ様はにこりと平常心のまま。
「ちょっと!あたしがそんなヘマするわけないでしょ!それよりどさくさにまぎれてアリシアに触ってんじゃないわよ。この変態!」
「!」
はっとした。
だって、この声は。
「僕が触っているんじゃない。アリシアが僕に触れてくれているんだ」
「あー、マジ、この三年地味なことばっか頑張ってたからかしら。頭のねじがゆーるい緩い。むしろ全消失?」
「こらこら、ミーシェ。いくら本当のことでも言いすぎですよ」
(やっぱり、ミーシェ!)
そう。
扉から現れたのは同僚のミーシェだった。
「ミ」
嬉しくて駆け寄ろうとしたとき、
「おまえもな」
ミーシェに続いて、アルティウスさんとグレンさんが現れた。
「二人の寝室に断りもなく入るなんて部下の礼儀がなってなくてごめんね」
「公衆の面前で口づけした挙句、あとのことは将軍殿に任せて放り投げ、自分だけアリシア様と、とっとと寝室に直行したあなたに礼儀もなにもあったものではないと思いますが?」
「アルティウス。甘いわよ。こいつの悪行はそれだけじゃないわよ。きっとアリシアが気を失っているのをいいことに膝枕しながら一睡もせずにストーカーのように見つめながら幸せに一晩過ごすという変態・妄執的行動をとっていたに違いないわ!」
「・・・血族はすごいな。そんなことまでわかるのか」
「ちょっと、グレン。死にたくなるようなこと言わないでよ」
「そうですよ。グレン。それはあまりにも失礼です。あなただってこの王子の変態的行動ぐらい予想がつくでしょう?」
「まあ、な」
皆さんの何だかとても失礼なような気がする会話がポンポンと飛び交う中。
「あ、あの」
「ん?どうしたの?アリシア」
皆さんのお話の中心はミカ様だと思うのですが。
何故かミカ様は皆さんが話している最中も私から微塵も視線を動かしておられないような。
居心地が悪くてお声をかけてみたのだけれど、
返ってきた笑顔は天使のように綺麗で。
何も言えなくなる。
それに、とても、ミーシェたちが話題にしているような人には見えない。
(ああ。そうよ。きっとこれは冗談なのね!)
仲がよさそうでいいなあ。
そう思ったとき、それまでアルティウスさんたちと話していたミーシェがばっとこちらを向いて、じとーっと私を見つめた。
「ちょっとアリシア。私たちの話、本気にしてないでしょ」
「う、うん」
ミーシェの迫力に押され気味に答えると、ミーシェは同情いっぱいの眼差しで私を見つめる。
「まあ。すぐに思い知ることになると思うわ。がんばって」
「?」
(どういう意味だろう)
そう思った。
でも、それよりも。
こうして私なんかにまるで友達のように話しかけてくれるミーシェに、私の心はふつふつと安堵と喜びに満ちてくる。
(大切な人)
無事でよかった。
ほっとすれば、気が抜けてしまったみたいに感情が溢れてきて。
止まらなくなる。
(本当に、無事でよかった・・・)
私は感情のまま、ベッドから飛び降りてミーシェに駆け寄った。
「ミーシェ」
抱きつく。
『アリシア?!』
ミーシェとミカ様の声が重なる。
ミーシェは気持ち悪くないかなと心配に思うよりも、とにかく、今は彼女の無事に安堵する気持ちでいっぱいだった。
「無事でよかった」
「アリシア・・・」
「ミーシェのこと信じてたけど、爆発に巻き込まれていたらって心配だったの」
「・・・うん」
ミーシェが一瞬戸惑うように頭に触れ、けれど、そのまま宥めるようによしよしと私の髪を撫でてくれる。
私は余計に泣けてきてしまってミーシェの肩に顔を押し付けた。
(本当に無事でよかった)
元気に、こうして、何もなかったみたいに話が出来て。
それがとても嬉しい。
でも、
「アリシア」
そっと肩を押されて、視線を合わせさせられる。
ミーシェの顔は真剣だった。
「どうしたの?」
気持ち悪かったのだろうか。
一瞬、体中の血が冷たくなる。
ミーシェは言い辛そうに眉を歪めると
「そのことなんだけど、貴女にはいろいろ謝らないといけないことがあるの」
「ミーシェが、私に?」
こくんと頷く。
「どうしたの?」
尋ねながら、そういえば、と色々な疑問に気づく。
ミーシェたちのあまりに自然なやり取りや、彼女との再会への興奮につい忘れてしまっていたけれど。
(考えてみればどうしてミーシェがここに?)
先ほどの気さくなやり取りで、ミカ様をはじめ、アルティウスさんやグレンさんたちともミーシェが顔見知りだったことがわかった。
でも、ミーシェは下働きだったはずだ。
身分の差が全く見えない今のやり取りは明らかにおかしい。
(ミーシェは本当は一体何者なの?)
私が心の中でそんな疑問を浮かべたとき、
「アリシア様。ミーシェのことや私たちのことも含めて全てをお話しします。でも、まずは朝食をとりましょう。昨日は色々なことがありましたし、貴女もお腹が減っていらっしゃるでしょう?」
「でも」
朝食どころじゃ。
そう言いかけた私に、アルティウスさんは安心させるように微笑む。
「大丈夫。焦らずとも全てお話ししますよ。アリシア様」
優しい笑顔は私の心の中にあった焦りを抑えてくれるには十分だった。
「わかりました」
こくりと頷く。
すると、よく出来ましたというようににっこりと綺麗な笑みが返る。
その美しさに私の頬は思わず赤くなった。
そのとき、ぐいっと腰を引かれた。
「きゃっ」
「アリシア、他人と見つめあわないで」
ぎゅっと後ろから抱きしめられた。
「ミカ様?」
驚いて思わず出た呼び方に、ぴくっとミカ様のこめかみが微かに動き。
笑みを深くしたミカ様は
「バルコニ」
「ミ、ミ!」
笑顔が怖い!
「はあ。これじゃあ埒があかないわ。とにかく、食堂に行くわよ」
ミーシェの言葉に私はこくこくと頷いた。