眠る姫君の隣で
「あ、こら!王子!」
後ろで抗議の声をあげる部下を放置し、力を失った彼女の体を抱き上げる。
やっと。
やっとこの手の中に手に入れた。
ココロが震えて、感動に手が震えそうになる。
けれど、貪欲に彼女を求める理性とは反対の感情が。
本能が叫ぶ。
足りない。
彼女が足りない。
もっともっと口づけて、もっともっと頬を寄せて、もっともっと近づきたい。
笑顔も。
体温も。
声も。
吐息さえも。
全てが欲しい。
「・・・ダメ、だね」
込み上げる想いを軽くするためにわざと軽く声に出した。
眠る彼女にそれをしても、彼女の心が応えてくれなければ意味がない。
今は君がこの腕の中にいるという幸せをしっかりと噛みしめていよう。
「王子!聞いてますか?!こ、こんな公共のど真ん中、というか、こんな群衆の中でシアになんてことを!!それに民衆にもっと何か言ってください!この後どうするんですか?!」
「全部君に任せるよ」
「はあっ?!」
絶句する部下はもう目に入らない。
いや、そもそも初めから入っているのは彼女だけだけれど。
「さようなら、目に入ったことのない君」
「はあっ?!何言ってっておい?!この変態バカ王子!!」
「ここはうるさいね。でも大丈夫だよ。今から二人だけの静かな場所に行くから。ゆっくり休もう」
僕は民衆にもう一度だけ笑顔を送り、そのまま踵を返した。
目の前には彼女が先ほど出て来たばかりの扉がある。
その前に立ち、片手で印をきる。
小さく呪文を唱えて魔力を注ぎ込めば、彼女が出て来たこの扉は、もう、異なる場所へと繋がる魔法の扉と姿を変える。
淡く光を放ちだしたその扉を見た部下は、血相を変えた。
「お、おい!ちょっと待て!マジか。マジでこの状況でトンズラするつもりなのかバカ王子!おまえ絶対シアが手に入ったから全部どうでもよくなったんだろう?!」
「さあ、アリシア。二人きりになろうね」
「こら!やめろ!働け!シアに変なことするんじゃねえ!てゆうかさせねぇ!」
「ふふ」
「?!か、体がうごかな・・・くっそ。この変態!シア!シア起きろ!マジで身の危険だ!目を覚ませーーー!!」
「じゃあね」
一応、後を任せる彼に礼儀としてあいさつし(決して無力なるものへの勝利の嫌味ではない)、僕は扉を開ける。
扉の向こうに見えるのは僕の部屋の寝室。
「シア~~~!」
鼻声になった絶叫を背に、
「じゃあね」
僕は扉をくぐった。
バタン
背後で扉が閉まる。
しんと冷えた空気。
先ほどまでの喧騒が微塵も届かない、静まり返った部屋。
腕の中の少女を見つめながら、僕は囁く。
「ようこそ、聖国エルラードへ」
額に口づけ、ベッドへ運ぶ。
そっと横たえると心地よさそうにふっくらとした唇が笑みを浮かべる。
「かわいい」
思わずにやけてしまう。
「ふふ。ああ、靴は邪魔かな」
彼女の足元に跪き、靴を脱がす。
まるで、彼女に忠誠を誓った騎士のように。
(いや、奴隷かな)
彼女だけの。
彼女のためだけに生きる。
「僕を愛して。アリシア」
心から願う。
そして、露わになった小さな足に唇を落とした。
「んんっ」
小さく声を漏らして、アリシアの足がぴくんっと微かに震えた。
起こしてしまったのだろうか。
そっと手を放し、彼女の様子を伺う。
彼女はもぞもぞと体を丸めると、また、穏やかな寝息をこぼした。
ほっと安堵して、僕も身軽になろうと豪奢な上着を脱ぐ。
ベッドサイドのチェストの上にそれを放置すると、ブーツも脱ぎさり広すぎるベッドに上った。
彼女の体をそっと動かし、彼女の頭を僕の膝の上に乗せる。
「ん」
人の熱が心地よいのか。
彼女は甘えるようにすり寄ってきた。
「本当に、かわいすぎるよ」
込み上げる愛おしさの行き場がなくて、何度も彼女の頬を撫で、額に口づける。
「・・・これから、君がびっくりするようなことがたくさん起こるよ」
秘め事を教えるように耳元でそっと囁く。
「そして、君の頭の中は僕でいっぱいになるんだ」
僕が君のことでいっぱいなように。
「だから、今はゆっくりお休み。アリシア」
僕の声に答えるように、彼女の唇が柔らかく微笑みを浮かべた。
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