しゃくでば! うらうららー
突然だが質問だ。
あなたは美鶴が歌を歌っているのを聞いたことがあるか?
俺はない。
では美鶴の歌はどんなのか予想はつくか?
俺はつかない。
どんなイメージがある?
『汚ならしい』『音痴』『変態』などいろいろあるだろう。
少なくとも今までの美鶴の性格からプラスのイメージは沸かないのではなかろうか。
俺もそうだったさ。
五分前まで。
美鶴が町内カラオケ大会で歌うまでは。
「見つめぁぁうとぉぉ~すなぁおにぃ~おしゃぁべりぃできぃなぁぃぃ♪」
「いいぞー、坊主!もっとやれー!」
美鶴めっちゃ歌うまいの。
ありえない。
美鶴だぜ、だって。
「どーも、ありがとうしゃくぅ☆」
「美鶴!美鶴!」
しかも初めてステージに立つんじゃないだろお前、ってぐらいにまで場になれてやがる。
美鶴コールに笑顔で答えるぐらいにまで。
「次いっくしゃくよー♪」
「わーわー!」
「重いローテーションしゃくぅ☆」
「うぉぉぉぉ!」
今流行りのアイドルの歌だ。
軽々しい音楽が鳴り響き、美鶴が舞う。
え、舞う!?
自分の目を疑った。
美鶴が振り付けまで完璧な状態で舞ってやがる。
「あいうぉんとゆー☆」
会場はもう大盛り上がり。
美鶴はマイクを小指を立てて持ってるというのにこの大盛況。
俺はジュースをすすった。
美鶴が出るって聞いて市立響きホールにまでやって来たんだ。
当初の目的は大笑いしてやること。
一万人の観客が見ているなか恥をかくあいつを笑う事だった。
……それがなんだこれ。
美鶴のマイクにカラオケ大会は中止にされ、変わりに美鶴リサイタルが開かれてるじゃねぇか。
「美鶴様ー!」
あの女性ははしたなく美鶴の名前呼んで手を振るし……。
正直ここにいるの辛い。
「みんなー!ありがとうしゃく☆」
これは夢だ。
そうか、夢か。
「いやいやいや……」
目に入ったのは歌う美鶴。そうか夢か。
俺は目をつぶった。
ありえない。
美鶴が歌うまいとか。
よし、夢は覚めた。
ゆっくり目を開いた。
「いやいやいや……」
目に入ったのは踊る美鶴。そうか夢か。
俺はまた目をつぶった。
ありえないだろ、だって。美鶴だぜ?
顎の。
夢だ、夢。
やれやれ、夢ならもう覚めただろう。
ゆっくり目を開こう。
「いやいやいや……」
マイクを持ち汗を流す美鶴。
驚くほどその姿はかっこいい。
そうか夢か。
俺はゆっくり目を閉じた。美鶴だぜ、だって。
顎の美鶴だぜ?
それが歌うまいとか。
ありえないだろ。
そうか夢か。
夢か。
夢なんだよな。
夢ならもう覚めてもいいはずだ。
よーし……。
「いやいやいや……」
あかんわ。
これ現実や。
助けて誰か。
美鶴がシルクハット脱いでる。
その中から鳩取り出してる。
・
・
・
「うぅ……」
「あ、起きた?」
また目を開けた。
メイナが俺の顔を覗き込んでくる。
「あれ、美鶴は?」
蒼がため息をついた。
「一瞬で鐘を一つもらって退場でした」
ああ……。
そうだよな。
そうだよな!
ふぅ……。
「あー、嫌な夢だった……」
つづかない
ゆめおち。
作者が収集のつけようがなかったときに使われる。