しゃくでば! 豆まき戦争
場所は俺の家の前。
あちこちでみんなが豆をまく中、俺もシエラと一緒に豆をまいていた。
「おっはよーしゃくよ!」
そんな中こいつが尋ねてきたのだ。
そしていきなり
「しょーんなわけで豆まきをするしゃくよ!」
美鶴は俺にそういって豆を投げつけてきた。
今日は節分。
豆をまいて悪い鬼をお家から引きずり出すのだ。
「いだだだ!」
問題はこいつ、全力で投げると言うこと。
俺に。
こいつにとっての鬼はどうやら俺らしい。
「ほう……?」
「鬼は外ーっ!
福は内ーしゃくよぉぉ!!!」
俺に向かって投げる、投げる投げる。
よろしい、ならば戦争だ。
俺はシエラの肩を叩いた。
「ほえ?」
「おい、豆まき手伝えよ……」
俺のただならぬ怒りを感じたのだろう。
シエラは「面倒」のめの字も言わずに頷いた。
・
・
・
「鬼はそとー!
福はうちーしゃく!
波音はそとー!
で、凍えて死んでしまえしゃくー!」
額にぴしぴしと当たる豆が痛い。
だが美鶴。
貴様は調子に乗りすぎたのだ。
乗りすぎたのだよ。
「シエラ、やれ」
「了解」
シエラはその片手をぐにゅぐにゅと変形させた。
ギアがギアを噛み、火花を散らしながら銃に変形する。
『お豆高速射出装置』とでも言えばいいのだろうか。
「弾は?」
「約三キロある。
存分に使え」
既に炒ってある豆の袋をシエラに渡した。
食べれるやつだ、もったいない。
「ん……ターゲット、美鶴の顎。
ヘルファイヤー」
なんともやる気のない声でシエラは美鶴へと豆を発射しはじめた。
「じゃごぅ!
は、はんそぐじゃごぉ!!」
一発命中、二発命中、三発命中……。
圧倒的物量に押され始める美鶴。
シエラの射撃能力はすさまじく全て一箇所に命中し続けている。
自然ではありえないピンポイント射撃だ。
「あっ」
そして一発だけ狙いを外してしまったようだ。
「何やってんだ、ばか!」
シエラの頭を軽く叩く。
「いった!!」
狙いを外した一発はご近所の鈴木さん家のおばさんに命中した。
「あ、謝れ!
謝って来い!」
あわててその片手を普通の手に戻させ謝るようにせかす。
「んまー、隣の田中さん家ね!?
もう許さないわ!」
鈴木さんはそういうと倉庫に入っていった。
完全に謝るタイミングを失ってしまったわけだが。
「食らいなさい、田中!」
「なんだアレ」
小柄ぽっちゃりおばさんの鈴木さんが抱えて出てきたのはマシンガン。
しかも結構でかい。
「ファイヤァアアアアアアア!!!!」
鈴木さん田中さんの家に向かって豆をぶち込む、ぶち込む、ぶち込む。
「あーら、鈴木さ、いった!
おい、てめぇ!!!」
玄関に叩きつけられる音を鈴木さんが尋ねてきた音と間違えたのだろうか。
田中さんが玄関のドアを開けてしまった。
顔面中に弾を喰らい、仰向けに倒れる。
「よしえ!!
よしええええ!!!」
中から旦那さんが現れて倒れた田中さんを抱きしめた。
「どうして……!
どうしてなんだよ!!」
旦那さんは「うわぁああああ」と発狂しながら車庫へと滑り込んだ。
「ふん、いい気味だわ!」
鈴木さんは銃口から煙を出しているマシンガンを肩に担ぐと高笑い。
だが、その高笑いはすぐに収まった。
地響きを立てて田中さん家の車庫が崩れ始めた。
「な、なんだ!?」
流石に同様する鈴木さん。
「おい、シエラ、あれ!」
屋根が落ちて、めちゃめちゃになった車庫の中から戦車が姿を現した。
一五式豆砲戦車――。
と、横には大きく書いてある。
「っちぃ!」
鈴木さんは家の中に潜り込むとしっかりと施錠して閉じこもってしまった。
「よくもよしえを――!
許さない!」
戦車のスピーカーから旦那さんの声が聞えて、その砲塔が旋回する。
目標は、明らかに鈴木さんの家。
「発射!」
轟音と共に発射されたお豆は鈴木さんの家を軽く吹き飛ばした。
豆すげえ。
その豆はさらに直進して裏の家、遠藤さんの家をも吹き飛ばす。
「ごるぁあああ!!
どっしゃりんごんで!?!?」
訛りがドギツイ遠藤さんが怒り狂って家から出てきた。
「なんばしよっと!?!?」
そのまま半壊した家の中にまた戻っていく遠藤さん。
甲高いエンジン音が鳴り響く。
「あなた!!
それは帝国郡との……!」
「のいじぃぃぃ!!!」
英語です、遠藤さん!
エンジン音が最高潮に達したとき、遠藤さんの家はがらがらと崩れた。
変わりに現れたのは戦闘ヘリAH88!
「ターゲットロックオン!
田中覚悟!!」
きゅらきゅらとキャタピラを回してあわてて逃げてゆく田中戦車を
遠藤ヘリから発せられたお豆ミサイルが追尾、爆発させた。
豆を撒き散らしながら砲塔が宙を舞う。
「ふはははは!
あ、やべ」
遠藤ヘリが近くに設けられた連合郡基地に謝ってロケット弾を射出したようだ。
お豆爆発が連合郡基地から起きた。
次の瞬間遠藤ヘリがお豆爆発して、俺達の家に墜落。
豆まみれにした。
「………………」
めぐりめぐって俺達に帰ってきた訳か?
「おい、シエラ……」
「ん?」
「蒼さん呼べ、蒼さん」
シエラの表情がさっと変わった。
「ネメシエル使うの!?」
「ここで反撃しないのは男が廃る。
おい、美鶴一時ちょっと停戦な」
「しゃ、しゃく」
「蒼さん呼べ、シエラ。
蒼さん。
ネメシエル使うぞ」
俺はシエラの首元を掴んで揺さぶった。
「はやくー!」
「わ、わかった!
蒼!」
「はい、どうしましたかシエラ姉様」
すぐ後ろに超空要塞戦艦ネメシエルの副長蒼さんは立っていた。
「今すぐ武装をレーザーから豆に変換。
目標、連合郡基地」
「いいんですか?
なくなっちゃいますけど」
「そ、そうだな」
シエラの煮え切らない態度にいらっとして俺が直接話をすることにした。
「かまわん、やれ」
「あ、波音さん。
分かりました、やりますよ……」
これがいわゆる二〇一二お豆戦争の始まりである。
この戦争が終わったのは翌日。
連合郡がぼこぼこにされて終わったらしい。
……ですよ。