しゃくでば! ただただしゃべるだけ
「なぁ美鶴」
「しゃく?」
夕日が綺麗な帰り道。
川の土手に座って俺は美鶴に話しかけた。
「どうかしたしゃくか?
あー、もしかしてう○こもらしちゃったしゃく?」
「ちげーよ、死ね」
「じゃあおし○こしゃくか?」
「それもちげーよ」
「じゃあ「しつこい」
俺は美鶴の言葉をぴしゃりと遮ると川を眺めた。
きらきらと夕日を浴びて小魚が跳ねる。
午後五時の綺麗な夕暮れ。
「じゃあいったいなんなんしゃくか?
まじめなお話だったらヴォく聞かないしゃくよ?」
ぷい、とシルクハットごと頭を逸らす美鶴。
「いや……な。
こうやって長いことお前と一緒にいるけどな……」
俺は静かに息を吸い込み空を見た。
ほわほわと白い雲が夕日でピンクに染まっている。
赤に沈みかけた街はあちこちから料理の煙を出して帰宅ラッシュの車を迎え入れていた。
「しゃく?
ほめ言葉しゃくか?
どうなんしゃく?」
「お前と一緒にいるけどな……」
「しゃくしゃく」
「お前ほどわけ分からん男もえんなぁ、と思って」
「しゃくしゃく。
そうしゃくよ、僕は……え?」
美鶴はしきりに頷いていたが唐突に我に返った。
「ヴぉくしゃくか?
ヴぉくが意味が分からないんしゃくか?」
「おう」
俺はこくんと返事した。
「お前ほど意味の分からん奴もいないだろ。
語尾にしゃくつけてるし、アホだし。
顎長いしうッと惜しいし髪の毛切れクズって感じだし
それでいてなんか主人公だけど俺よりも目だってないし
シルクハットキモイし、美鶴汁出すし顎長いし
顎長いしわけ分からんバイトするし味噌汁まずいし
かーちゃん綺麗だけどなんか毎回ボコボコにされてるし
挙句の果てに出刃先輩とかについていくし
タイトルしゃくでばなのに最近あまり活躍してないし
そんで夏、海行くとき何あれ。
お前スク水で行くつもりだっただろうが、蒼さんまじびびってたぞ。
んで、あれだ。
他にもあるぞ言わせろ」
「ちょ、ちょ、待つしゃく!
そんなにヴぉくって波音に色々と思われていたしゃくか!?」
「おうよ、あんちゃん」
美鶴はがっくりと肩を落とした。
さっき跳ねた魚がまた跳ねたみたいで水面が揺らぐ。
俺は一つの石を取ると水面に向かって放り投げた。
「いち、にー……あちゃーしゃくね」
三回――か。
自己ベスト更新だ。
水切り、って案外単純そうに見えて難しい。
平たい石をとらなきゃならないからな。
「じゃあ僕もやってみるしゃくよ」
「やってみ、やってみ」
美鶴に適当に返答してまた空を見た。
さっきよりも光量の落ちた空は端っこから黒が迫っていた。
この時間ももうすぐに終わり、夜が来る。
「えーい、しゃくっ」
美鶴の投げた石は何度か跳ね――ないね。
ないね、ねー。
ないね。
「も、もう一度しゃくっ!」
「好きにしろ」
夜になると星が出てまた綺麗な空になるが
俺はこの夕暮れ時の静かな時間が一番好きだった。
どうでもいい話だろ。
「えーいしゃくっ!」
「きゃんっ!」
え。
美鶴が投げた石は草原に飛び込んだ。
そこからわんころの痛そうな声が……。
「がうがうがうがう!!!」
「しゃぁああああああああああん!!!」
間違いなくお前が悪い。
美鶴の顎はわんこにがぶがぶ噛み付かれていた。
恐らく肉つき骨棒にでも間違えているのだろう。
「助けてくれしゃくよぉぉぉぉぉ!」
「断る」
まぁあながち間違いじゃないしな……。
さて、そろそろお家に帰るとしよう。
「あ、波音だ!」
「おう、シエラ、メイナ、それに蒼さんまで」
「こんばんわです。
……で、あのクソ顎は何を?」
蒼が不思議そうに見つめる先は犬を威嚇する美鶴の姿があった。
「ん?
動物愛護だとさ」
俺は鞄を手に持つとシエラたちの輪に加わった。
晩御飯は何だろうか。
少し楽しみだ。
「助けてくれしゃぁあああああああああああ………」
「がうッががががああうぁあああああああああ!!!!!」
あながち間違いじゃないですね。
骨付き肉。
でも……食べたくねぇなぁ。