しゃくでば! 天空のお家②(ちょいマニアックネタ注意)
今から何をするのかというとだな。
蒼さんの戦艦、ネメシエルが宙に浮く仕組みを知ろうとしているのだ。
それを応用すれば美鶴の言うとおりお城を空に浮かせることが
出来るようになるからな。
「まずこの丸をα光線と考えてください」
「しゃく」
「次にこのα光線にβ、σ光線が当たります」
「しゃ……」
「そこでE=TPという光学公式を利用してエネルギーを増幅。
新しく出来上がったθ光線、別名マルグリッド光線を……」
「……………」
美鶴、机につっぷした。
ポカーンとした顔。
君のアホ面には心底うんざりさせられる。
「そしてむき出しになった特異光をさらに……」
俺はココで手を上げた。
「あ、蒼さん。
美鶴死んでる、死んでる」
蒼はへ?と美鶴を見た。
まったく、とため息を一つついて蒼は腕を組んだ。
「あなたが簡単に言えって言ったからいったんですよ。
急ぐと元も子も無くすからって……」
「……まっさかココまで難しいとは思ってもいなかったしゃくぅ……」
「もう……」
蒼はやれやれとホワイトボードのマジックを消した。
説明するだけ無駄だっただろ?
「じゃあ蒼さん、エンジンのところだけでいいから作ったら?
上は俺達が作るから」
動かない美鶴を蹴りながら俺は蒼に相談した。
「それがよさそうですね。
私がとりあえず下の部分を作ることにします。
一時間ぐらいで出来ますよ、これぐらい」
一時間。
やべ、すっげ、すっげ。
「あ、でもネメシエルほどの巨大な物はいくら私でも無理です。
ので家一軒、もしくは小型倉庫ぐらいが妥当かと」
「まぁ、そうだわな。
おい、美鶴聞いたか……っていねぇ!」
窓の外から声が聞えた。
「波音、波音!
ちょっとヴぉくのお家に来て欲しいしゃく!
まってるしゃくからねぇっ!」ポッ
何で顔を赤らめる。
頭おかしい。
「とりあえず、じゃあ私も行きますよ。
なんだか楽しそうですし……」
「ごめんな、蒼さん」
「いえ、私ものりのりだったので……」
やれやれと、玄関に出て靴を履きかえた。
美鶴の家までチャリで結構かかるんだよな。
五分ぐらい。
「クソ顎のお家はどこですか?
私一回しか行ったことなくて――」
あー、はい。
お誕生日の時か。
「ん、俺が一緒に行く。
チャリの後ろに乗れ」
・
・
・
「波音、ここしゃく!
ここーっ!!」
美鶴は河原にポツンと置いてある新品同様の倉庫の脇に立っていた。
よくみつけたなぁ、そんなもの。
「これを浮かすしゃくよ!」
ドヤ顔。
いやぁ、まぁ。
どうなの?
出来るの、蒼さん。
「まぁこれぐらいなら……。
出来ますね」
蒼の長い髪が風に舞った。
そういえば今日は風が強い。
家に帰って天気予報でも見てみるか。
「じゃあさっそく頼むしゃく、蒼ォ!」
美鶴は倉庫を指差してわくわくした表情で蒼に頼み込んだ。
「おいまて、倉庫でいいのか?
城作るんじゃないのかよ?」
「僕考えたんしゃくよぉ。
お城なんて巨大な物は無理しゃく。
波音は一体何を夢見てるんしゃくか?
お城じゃなくて倉庫ならいけるんじゃないしゃくか?
と思ったわけしゃく」
さらっとバカにされた気がする。
いやバカにされた。
「そんなわけで、蒼お願いするしゃくよ!」
蒼はむーと考え込んだ。
「材料費とか機密漏洩とか大丈夫ですかね。
私、それが心配で――」
「まだ飴残ってたしゃく」
「何とかしましょう。
早速作りますね」
蒼さん……。
なんかこう、寂しいな。
・
・
・
そして一時間がたった。
見事、倉庫は空に浮いていた。
「やったしゃくよ!」
「これ、中で操縦とか出来ませんから注意してくださいね。
鎖で地面とくっつけているので。
とりあえず浮いてるだけって感じです」
倉庫の下からまぶしい光が溢れ出て、また一段と強くなってきた風が
ゆらゆらと倉庫を揺らした。
「完成したしゃくねぇ。
僕本当にがんばったしゃくよ」
いやお前は何もしてないだろ。
にしても……。
「俺もちょっと乗ってみていい?」
美鶴は腕を胸の前で×印に組んだ。
そして唇を尖らせ、目を閉じて
「だぁぁめしゃく。
これは僕のお家しゃく」
いらぁぁ。
「いまから僕はこの中で生活するんしゃく。
寝るときもご飯を食べるときもずっとこの中しゃく。
しゃくぅぅ、夢がひろがりんぐしゃくぅ!」
そう言うと蒼から鎖を奪い去り
天空の倉庫を引っ張って自分の家の中の敷地へと入っていった。
倉庫が庭に浮いている。
そこに美鶴は布団とかを詰め込んでいた。
「――帰りましょうか」
「ああ」
一体俺は……何のために呼ばれたわけ?
・
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・
夜になった。
風が収まらないので不安からテレビをつける。
『なお以前強い力をもった台風二十一号は――』
台風が来てんのか。
どーりで強いわけだ。
・
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・
「すぴぃ……。
しゃぁああぁ………」
美鶴は出来たばかりの天空の倉庫で眠っていた。
強い雨、雷、風と三拍子の台風が来ているのに
起きる気配は一向にない。
雨は地面を緩め、風は倉庫を引っ張る。
めりめりっと地面から鎖が抜けた。
そのまま高度を上げながらどんどん流されてゆく美鶴。
そして……朝になった。
「ここはどこしゃくあぁぁあ!?」
倉庫の扉を開けて外を見た美鶴は唖然とした。
下には真っ青な海が広がり雲が浮いている。
一隻の小さな船が美鶴の下をくぐりかもめが倉庫に止まった。
「そ、そうしゃく!
これは蒼の作った完璧な倉庫!
落ちることはないんしゃくから携帯!
携帯で助けを……」
圏外です。
しゃ………。
しゃぁあああああああああああああああああああ………。
「で、でも海に落ちることはないんしゃくよ!
こうやって空を漂っていれば
飛行機の人とかが見つけてくれるしゃく!
そうしゃく!
僕は絶対に助かるしゃく!」
美鶴はガッツポーズをして自分を安心させた。
「安心したらまた眠くなってきたしゃくぅ。
お休みしゃく……。
起きたらきっとどこかの島にでもついてるしゃくよ、ふぁぁあ……」
続くかも~
あふたーすとーりー。
美鶴の倉庫が浮いて帰り道の会話。
「どうでも良いけどさ」
「はい」
蒼は首をかしげた。
「どうかしたんですか?」
「ベルカの技術、出してよかったの?
アレがアメリカとかに渡ったら……」
俺が心配そうに聞いたら蒼は少しはにかみ
「あぁ大丈夫ですよ。
そんなことも考えて明日の昼前にはエネルギーを
太陽光から採取しなくなって爆発しますから」
なるほど、なら安心だな。
なんか、最後はブラックジョークみたいになっちゃいましたね。
さてこの後美鶴はどうなるのか。
続きません、爆発した後海上保安庁のお世話になりました。