しゃくでば! 美鶴が時々クヌギの木の上で寝ているよ!
ミ~ンミンミン……。
「あー今日も暑いなぁ……」
詩乃が突き抜けるような夏の空を仰いだ。
「じゃ!
遊びにいってきまーす!」
「はい、いってらっしゃい……。
はぁ……みつるは暑くても元気だなぁ。
それに引き換え……」
詩乃はちらりと扇風機の前で正座をしている蒼を見た。
「あぁぁつぅぅいぃぃでぇぇすぅぅ」
扇風機に向かって声を発する蒼。
我々は宇宙人までもう少しだ。
「クーラーガンガンの中で一日中そうやって扇風機の前でごろごろと
筆者の弟みたいなのはどうかと思うんだけどね~」
詩乃の言葉は正確に蒼の頭を叩いた。
ギクッと身を固まらせる少女に詩乃の止めの一言。
「生活習慣病は怖いからなぁ……。
肥満につながったり病気になったり――。
その歳でそうなるのはどうかと……」
『肥満』
『病気』
それらは蒼の頭を思いっきり大きく叩いたのだ。
「み、みつるくーん!
私も一緒に行くっ!!」
・
・
・
「とゆーわけでっ!
今日は裏山へカブトムシ取りに行くぞッ!」
みつるのお友達。
たーくんはこの暑さだというのに元気百倍。
若いって良いなぁ。
「えっ、話流れがまったく読めないんですが……」
その話に唯一付いていけない存在。
それが彼女なのだ。
「何言ってんだ。
男なら分かるだろう?
カブトムシと大艦巨砲主義とドリルは男のロマンだっ!」
たーくん力説。
わかってるじゃねぇか、坊主!
その通りだ!
「私女ですけど……」
乗り気でない蒼をなんとかやる気にさせようと
みつるが一生懸命に取れるらしい虫を羅列する。
「他にもちょーちょとか蝉とか……」
「でもカブトムシなんてとってどうするんですか?」
「大事に大事に育てるのさ」
「でも夏休みが終わる頃にはみんな……」
「コラーっ!
夢のないことを言うんじゃないっ!!」
・
・
・
「あ、暑い……」
森の奥のほうだからか湿気も混じって来て暑さが倍増されている気がする。
蒸し暑い。
サウナかって!
「さぁ、ついたぞ!
確かここらへんにいるはずなんだけど……」
たーくんは虫網を持ったまま木をじっくりと見回す。
「あっ、あれじゃないですか?」
蒼が一本の木を指差した。
「『クヌギの木』!
蹴ってみればカブトムシが落ちてきますよ、きっと!」
「いや、でも蒼ねーちゃん。
こんなでっかい木を蹴ってもビクとも……」
「はぁっ!」
蒼はみつるのとめる言葉を聴かずに軍で鍛えたケリを
クヌギの木にお見舞いした。
枯れ葉が舞い落ち、幹が揺れる。
「こんなもんですかね……」
「す、すげぇ……」
驚くたーくんの前にぼとっと小さな影が落ちてきた。
足を上にして角のある生き物が地面の上でもがいている。
「おっ、さっそく一匹目の――」
「カブトム「しゃくっ!?」
ぐしゃ。
変な声とともに大きな影が降ってきた。
聞いたことのある口癖だなぁ。
……ん?
ぐしゃ?
「いったぁ?い、しゃくぅっ!
もう誰しゃくぅ?
急に木を蹴っ飛ばしたのはしゃく?
あぁん、もう服がよごれちゃったしゃくぅ?……。
ん?
蒼しゃく?
そんなところで何してるしゃく?」
美鶴に問いかけられた蒼は心なしか震えているような気がした。
少し青ざめた顔で美鶴に頼む蒼。
「あ、あ、あの……。
その……立ってみて下さい……」
「しゃく?
ホラ、立ったしゃくよ?」
美鶴のどいた後をみつるがカブトムシを探すが
あの黒い勇姿はどこにもない。
「うへー汁とゴミが大量についているしゃくぅ……。
ばっちぃ……」
美鶴は立つと同時に自分の服を見渡した。
そのままお尻に付いたゴミを払い落とす。
地面に落ちたゴミ。
あの――カブトムシ。
「いやぁああああああああああああっ!!!」
蒼のいろんな感情が混じった叫びが森に響いた。
「ん?
なんか、空が暗くなってる……?」
みつるとたーくんが上を見上げた。
それにつられて俺も上を見る。
赤と青の幾何学模様の浮かんだ艦底。
巨大な主翼と巨大な砲を備えた戦艦。
何千もの銃口と何百の砲門が美鶴に照準を合わせる。
「撃ち方はじめぇぇえっ!!!」
蒼の号令と同時に陽天楼の武装が火を吹いた。
数々の色のレーザーが美鶴を、地面をえぐる。
ズガガガガッガガガッ!!
ドドッドドッドドッドドドドド!!!
ズキュグッガァアアン!!!
「じゃじゃじゃじゃじゃじじぃやばばばばばばばっ!!
あぅぅぅん……しゃく……」
美鶴のいた後は約百メートルほどの深い穴に変わり果てていた。
「はぁ……はぁ……。
この顎めが……」
「か、かっけぇ!!
あの艦っ!!」
「あ、あれ蒼ねーちゃんの『ねめしえる』だ」
・
・
・
「あ、おかえり。
どうだった?」
「うぅぅ、詩乃姉様ぁ……」
蒼が詩乃に抱きついた。
「ど、どうしたのさ蒼。
よしよし……」
「うぅ……」
おまけ
「あ、よく考えれば砂糖水という手がありました!」
↓
「ふんふんふ~ん♪」
↓(翌日)
「さーてどうなったかな?」
↓
「甘くておいしいしゃくぅーっ☆」
「…………こんのクソ顎がぁ……」
ズガガガガガッ!!!
ありがとうございました。
いやー、カブトムシをこんな雑にやられたら
たまったもんじゃないですね。
蒼でなくても発狂しそうです。
では。