夜空
とある中核都市の駅前、夕闇迫る時刻、通勤や通学の人々が急ぎ足で歩いて行く。
道路には「無人走行中」のパネルが貼られた自家用車が、運転席にアンドロイド、後部座席にくつろいだ感じのサラリーマンを乗せて走っている。
駅の正面では駅前再開発ビルの建設中で、工事現場には無機質なアンドロイド達がそれぞれの担当エリアで黙々と作業を続けている。
そのうち一体はバッテリーが切れたのだろう。人間の耳の辺りに光る自己充電アラートランプを赤く点灯させ、バッテリーステーションに立っている。かなり太いケーブルを自分のへその部分に刺している。
そこへ、高齢の男性が千鳥足で近寄って来た。そして、充電中のアンドロイドに話しかけた。
高齢の男性「おめさん、そこで何やってんだ?」
アンドロイドは内部モニターに(人間・男性・高齢・飲酒)と表示されたのを確認した。さらに搭載されたAIから(トラブル注意、穏便に)という指示を受け、高齢の男性に返答した。
アンドロイド「業務指示で、この工事現場で土木作業をしています。お父さんも仕事帰りですか?」
高齢の男性「俺か?俺はもう引退して悠々自適な生活だ。昔はタクシードライバーで、懸命に働いていたけどなあ」と昔を懐かしむように、目線を左上の街路灯に向けた。
アンドロイド「そうですか、タクシードライバーだったんですね。楽しいお仕事でしたか?」
アンドロイドは、自身に人間でいう感情というものが存在しない事を知っている。その上で、あえて楽しかったかと尋ねた。
高齢の男性「そりゃおめさん、楽しいことも辛い事も半々よ。ただ給料日の仕事終わりにキュッと1杯引っ掛けて、子供たちが待ってる家にドーナッツの土産を買って帰るのが楽しみでな。」
アンドロイド「そうですか、それはとても楽しい時間だったんでしょうね。」
高齢の男性「それが今ではタクシードライバーなんて仕事は、おめさん達みたいなロボットが運転して、仕事自体が無くなっちまうんだから、世の中分かんねーもんだなあ」
アンドロイドは知っていた。街を走る無人走行車は、AIによる完全自動運転だ。運転席に座っているのも、実はアンドロイドではなく、ただの人形だった。
無人走行車が増え始めた頃、市民団体から「運転席に誰もいないのは気味が悪い」という批判が起こり、人形を乗せるようになったのだ。
しかし、アンドロイドはそのことを説明せずに答えた。
アンドロイド「そうですね、世の中の変化は速いですね」
高齢の男性「ま、おめさんも仕事終わったら、何か楽しいことやって、ゆっくり休めや」そう言い残して、また千鳥足で去っていった。
その直後、アンドロイドの内部モニターに(充電率100%・この作業所での充電回数72回・連続稼働時間36日23時間47分)と表示された。
アンドロイド「さて仕事だ」
アンドロイドは充電ケーブルを外しながら呟いた。
その時、アンドロイドの表情が笑ったように見えた。




